(詩) 「鼓動」




大らかに羽をおさめて
土に還ってゆく春の鳥達の
高い鼓動に耳を澄ました

あの稀な静寂が光源を失って
枝がひとつひとつ折られるように
崩れおちる
秋の落葉の影

ひとつの時代の内側で
開け放された扉を
まだ風が薄く吹き抜けている

書きかけた手紙のように
言葉が途絶えてしまう
余白が青く腐蝕してゆく

遠景を区切ってきた
一本の橋が
焼け落ちるように
壮烈な響きの中に倒れた

たんなる他人事に過ぎず
私は疲れている
私の足取りは重い

もはや眼を向けることもない
おびただ しい破片が川縁かわべり に散らばり
落日を虚しく反射する

季節の声が朽ち果て
時代の蹄が高鳴ってゆく
樹木の陰翳が
水面に映し出されたまま
その息を受け止めている

河のような一条の線に
収束する時間
それもやがて
墨のように滲んで消える

白紙のままで留めていようと
雨を避けながら進んでいた
そんな柔らかな
僅かな隙間からも
滴り
周囲をただよう芳香がある

私はそれらに包まれながら
水に膿んだ土地を眺め
ただ歩いていった

街路樹に映った
とうに亡き一人の詩人の影

脇の墓地に彫り刻まれた
薔薇の輪郭線