(詩) 「鼓動」
大らかに羽をおさめて
土に還ってゆく春の鳥達の
高い鼓動に耳を澄ました
あの稀な静寂が光源を失って
枝がひとつひとつ折られるように
崩れおちる
秋の落葉の影
ひとつの時代の内側で
開け放された扉を
まだ風が薄く吹き抜けている
書きかけた手紙のように
言葉が途絶えてしまう
余白が青く腐蝕してゆく
遠景を区切ってきた
一本の橋が
焼け落ちるように
壮烈な響きの中に倒れた
たんなる他人事に過ぎず
私は疲れている
私の足取りは重い
もはや眼を向けることもない
夥しい破片が川縁に散らばり
落日を虚しく反射する
季節の声が朽ち果て
時代の蹄が高鳴ってゆく
樹木の陰翳が
水面に映し出されたまま
その息を受け止めている
※
河のような一条の線に
収束する時間
それもやがて
墨のように滲んで消える
白紙のままで留めていようと
雨を避けながら進んでいた
そんな柔らかな
僅かな隙間からも
滴り
周囲をただよう芳香がある
私はそれらに包まれながら
水に膿んだ土地を眺め
ただ歩いていった
街路樹に映った
とうに亡き一人の詩人の影
脇の墓地に彫り刻まれた
薔薇の輪郭線