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(詩) 「白い夜灯」



一日の仕事をおえ
部屋へ帰り 机の前に座って
少しずつ近づいてきた
親しい静寂の内側へ潜り込む

おもむろに 帳面ノート をひらけば
そこからは坑道 私は旅をする

嘗て赴いた遠方の街
夕刻の冬のなかに沈んだ駅舎
横切って消える人々の影
青い風が吹き続けている

失くしたものの多さばかりに
顔を向けがちだが
守ってきたものがある
守り続けてきたものが

はじめて来た街を しばらく駅から
眺めている
なにか懐かしいものを見渡している
帰ってゆく場所を探している
風の誘いに目を凝らしている

生きているこの日常と
向こう側で睨む時代
ふたつの狭間を縫って歩く

闇が次第に深まる季節
消してはならないものがある
あの冬の街を照らしていた
ちいさな白い夜灯のように