(詩) 「無題」 (作品16)




帰る道を見失った
晩秋の荒涼

空をひとつの兆候が覆う
立ち尽くしたわれわれを
変わらずに見下ろす顔
煙草の火を風が吹き消す
倦怠が押している鐘の音響


けた瞳
樹を見る瞳
時間が霞む

戸口に染まる影
白い窓
朽ちはてた花瓶の列
花の瞳

電柱にこびりついた傷痕
薄れゆく日没

彼女の瞳は死者のように見開かれ
この大地を見下ろしている
われわれの営みを その全てを
風が留めた記憶をも

陽は赤く翳り 細い鮮血のように
水平線にゆらめいている
百年の歳月が凝結し 溶け出す事もなく
風はもう道をなくした

確かにあなたの瞳は氷面に反映し
立ち尽くすわれわれを
変わらずに見下ろしている

空からの視線を
くたびれた屋根が遮ったまま
今日も私は
この瞳をずっと閉じ続けている