(詩) 「無題」 (作品16)
帰る道を見失った
晩秋の荒涼
空をひとつの兆候が覆う
立ち尽くしたわれわれを
変わらずに見下ろす顔
煙草の火を風が吹き消す
倦怠が押している鐘の音響
瞳
開けた瞳
樹を見る瞳
時間が霞む
戸口に染まる影
白い窓
朽ちはてた花瓶の列
花の瞳
電柱にこびりついた傷痕
薄れゆく日没
※
彼女の瞳は死者のように見開かれ
この大地を見下ろしている
われわれの営みを その全てを
風が留めた記憶をも
陽は赤く翳り 細い鮮血のように
水平線にゆらめいている
百年の歳月が凝結し 溶け出す事もなく
風はもう道をなくした
確かにあなたの瞳は氷面に反映し
立ち尽くすわれわれを
変わらずに見下ろしている
空からの視線を
くたびれた屋根が遮ったまま
今日も私は
この瞳をずっと閉じ続けている