ライフルと少年〜カイル・リッテンハウス事件の全て〜(1):タイムライン
2020年5月25日、ミネアポリスで警官に制圧された黒人男性ジョージ・フロイドがその場で息絶えたのをきっかけに、全米で警察権力や人種差別に対する抗議運動が起きた。いわゆる「平和的なプロテスト」は一瞬で暴動・略奪・放火の無法地帯となり、20名以上の死者を出す大惨事。コロナがもたらした人々の不安と鬱憤は爆発し、半年後に控えた大統領選の前哨戦かのごとく暴動の狼煙は上がりつづけた。日中は比較的穏健な市民によるBlack Lives Matterプロテストも見られたが、日が落ちるとANTIFAら暴力極左団体やならず者が集まり警官隊と武力衝突、その隙を縫うようにして大規模な窃盗や放火などあらゆる破壊行為が起きた。保険会社の試算によれば、たった数週間で20億ドル(2000億円)を越える米国史上最大の損害保険金額を叩き出したほどだという。
ミネアポリス、シアトル、ポートランド、アトランタ、ニューヨークシティなど、暴動の中心となった大都市はいずれもリベラルな民主党下にあり、リーダー達は暴徒に対して寛容な措置をとった。「略奪は黒人への賠償」というBLMのメッセージに抗うのは企業イメージを損なうと考えたのだろう、各大手量販店も群れをなす略奪者達を黙認した。一方、ただでさえコロナ禍で経営に喘ぐ個人商店や中小企業は、店舗をベニヤ板で囲んだり、BLMに賛同するメッセージを掲げたり、自警団を雇ったりするなどして日々戦々恐々としていた。
そんな中で起きたウィスコンシン州ケノーシャでの銃撃事件。当時17歳だったカイル・リッテンハウスが複数の暴徒に追われやむなく発砲、2名が死亡し1名が負傷。当シリーズではこのケノーシャ銃撃事件について、時系列、メディアの報道姿勢、人々の反応、現場動画、インタビュー、裁判記録などを振り返り、米国の政治的・文化的な病巣に迫る。全米暴動の最中に起きた銃撃事件のひとつとして片付けるのではなく、政治的背景や世論の空気を掴み取ることで、よりリアルな米国の姿をアーカイブしたい。
今記事ではまず簡単に時系列を見ていく。2021年11月14日付The New York Times紙による事件のタイムラインを参照すると;
もちろんこのタイムラインは簡素化されたもので、細部に渡り事件を追っていくと2020年大統領選の際に日本でも名が知られたリン・ウッド弁護士の解任劇や保釈時に起きた保守派の内部争いなど、興味深いサイドストーリーに満ちている。このあたりにも余すことなくスポットライトを当てていこうと思う。
タイムラインに太字で示した通り、ケノーシャの暴動はジェイコブ・ブレイク銃撃事件に端を発している。次章では、このジェイコブ・ブレイク銃撃事件について説明する。
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