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なぜ私は受話器を取って「いらっしゃいませー!」と言ったのか

「いらっしゃいませー!」

あああ、恥ずかしい。これは学生時代にTSUTAYAでアルバイトをしていたときの話なんですが、私これを、勢いよく言ったんです。「いらっしゃいませー!」。普通だと思うじゃないですか。でもね、違うんです。

来店されたお客様にではなく、店にかかってきた電話口で言ったんです。「いらっしゃいませー!」って。

いま思い出しても穴があったら入りたいというか、「穴がないならば 掘ってしまえ ホトトギス」と詠みたいほどの黒歴史。

ようやく正面から受け止める覚悟ができたので、当時のことを分析しつつ解説したいと筆をとった次第です。

それは私が大学生のころの話。大学生になったら絶対にTSUTAYAでアルバイトをしようと決めていました。そしてアパートの近くにちょうどTSUTAYAがあり、もうこれは運命だと思って応募したことを昨日のことのように覚えています。実際は20年以上前ですけど。

で、無事に採用されて働くことになったのですが、これが楽しかった。本当に。

TSUTAYAという環境も良かったですけど、好きな映画と楽しい仲間に囲まれてのアルバイトは最高すぎて完全に浮かれてましたね。シフトの入ってない日にもお店に行っちゃうくらい楽しかった。

しかし、楽しすぎると人間やらかしちゃうものです。ようするに調子に乗ってる状態、無理矢理に表現するならば「ツタヤーズハイ」になっているわけですよ。

そんなツタヤーズハイの私がやらかしたのは、接客強化週間のとある日。

店長が接客レベルを上げたいからと、お客様にアンケートを配り、「本日の接客はいかがでしたか?」みたいな声を集めだしたのです。店員からするとたまったもんじゃないんですけど、良い評価の多い人にはご褒美(ディズニーランドのチケット)があることが判明し、みんな必死に笑顔をつくって接客するように。

いつもより元気な声で、

いつもより笑顔で、

いつもより丁寧に、

「いらっしゃいませー!」

「いつもありがとうございます!!」

「またのお越しをお待ちしております!!!」

なんて、いつもなら「あざーす」で済ませるところを親切丁寧に。その甲斐あって、私への票が少しずつ集まってきたのです。ディズニーランドに行ける。誰を誘おうか、大学のあの子? それともバイト仲間のあの子? いろんな妄想を膨らませながら、ニヤニヤをニコニコに変えて接客に励みましたね。

もはやワイの勝利は確定。みたいなことを思ったんでしょうね。油断、慢心、増長ってやつです。

そんなときに起きるもんです。事故は。

あれは、レオナルド・ディカプリオ主演の「ロミオとジュリエット」のレンタルが始まり、店内にはいつもより若い女性が多くなっていたころ。

「今日もニセ笑顔を忘れず華麗な接客でさばくぜ」なんて思ってる私がそこに。そもそもさばくなんて思ってる時点で、私の失敗は決まっていたのかもしれません。

レジに来られたOLさんに対応し終わった瞬間に鳴った電話を取ったその時です。

私の口から、

「いらっしゃいませー!」

と頓珍漢で、素っ頓狂な言葉が。

ええ、言った瞬間に気がつきましたよ。終わったなと。俺はいま、盛大にやらかしたと。取り返しのつかないことってこれだなって。

なんとかごまかそうとも思いましたよ。でもね、すげぇでかい声で言ってるわけですよ。誰も来てないのにいらっしゃいませって。もう無理っすよ。

当然ながら、爆笑に包まれるレジ内。近くのお客様ですら肩を震わせています。

さらに追い討ちとなったのは、電話口の向こうはグループ店の店員だったこと。つまり、単に私の働いている店舗だけでなく、グループ店にも私の酔狂な発言が知れ渡ることに…。相手は一応なんとか気を使って「えっと…大丈夫ですか(笑)?」なんて言ってくれましたけど、大丈夫な要素はゼロです。皆無です。

ただ、その後のあだ名が「シャイマセ」とか「しゃせー」とかにならなかったのは、バイトメンバーに恵まれていたのだと思います。あまりにもひどい言い間違いに、みんな同情してくれたみたいです。

しかし、やっぱりいま思い出しても完全に黒歴史。顔から火が出るくらい、いや、むしろ出てましたね。

いくら楽しくても、超えちゃいけないラインってものがある。それを心から実感した日でした。

いま、自分が調子に乗ってるなと思ったら、ぜひこれを思い出して戒めてください。

それではまた。ご存じ、ゆうせいでした。

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