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福田平八郎の《雲》 大分県立美術館で

 大正・昭和時代に活躍した日本画家の福田平八郎

 夏の青い空に入道雲がもくもくとわき上がるように見える作品がありました。
 1950年、平八郎が58歳の時に日展で発表した《雲》です。


 すでに日本画家としての地位を確立していましたが、この作品の評価は分かれたそうです。
 日展の後、この作品が表に出てくることはありませんでした。
 地元の大分県立美術館の学芸員が調査のため遺族宅を訪れた時に、倉庫の一番奥でこの作品を発見したということです。
 シミやカビを除去し修復した作品が今年3月から5月にかけて大阪中之島美術館の「没後50年 福田平八郎」展に展示され、巡回展として大分県立美術館に戻ってきました。


 私は少し離れて全体を鑑賞し小さい頃の夏休みを思い出していました。観ていると単純な青と白の絵としてではなく、次第に細かいところが気になってきます。
 雲の輪郭、空との境界線がぼやけています。青い空も雲から遠ざかるほど色が濃くなっていきます。真夏の空、何もない空は上に行くほど引き込まれるような濃い青に変わっていきます。そのグラデーションがこの絵に表現されているように感じます。
 雲に近い薄い青の部分は、私の目にはわずかに紫が入っているようにも見えました。細かい凹凸のある絹に描かれた青が会場の光との関係でそう見えたのかもしれません。
 雲のてっぺんは太陽の光が反射した白なのですが、下にいくほど雲自体の影があって、もくもくとわき上がる立体感が感じられました。


 この絵は写真撮影を許されていましたので、スマホやカメラを向けてみました。でも、私が見たようには写ってくれません。空の青が強調され、雲は影の部分が濃くなり、より盛り上がったように見えます。もしかすると、スマホやカメラが風景と判断して画像を自動修正してしまうのかもしれません。
 近寄れば微妙な濃淡を捉えらないかと試しましたが、遠くの天井の光がライトブルーの小さい点となって写ってしまい、その光が強くて自動調整されてしまうためか、これもうまくいきませんでした。
 上の写真は何枚か撮った中で私が受けた印象に一番近いものを選びました。

 美術館のショップに《雲》の複製画がありました。大きいサイズは雲に近い空の青が薄くなっていますが、私の印象とは少し違います。小さいサイズだと青がほぼ一色になっていました。再現するのが難しいようです。

 やはり、実物を見に来てよかった。




 雲のほかにも印象に残った作品がありました。福田平八郎の代表的な作品で重要文化財の《さざなみ》です。

漣 1932年 大阪中之島美術館蔵 重要文化財


 福田平八郎は魚と波のことが気になって10日間、釣り竿とスケッチブックを持って琵琶湖を周ったそうです。当初、さざなみの中に小さい魚を添える作品を考えていたのが、水面が一面鏡のように光ったほうが面白いと考えてこのような作品になったそうです。
 平八郎が描く魚は、鱗の数をかぞえていたかのように正確に描き、深いところを泳いでる魚は水の濁りがあるような色使いをします。
 抽象的にも見えるこの作品も、この水面の下にそれまでの作品のように細かく描かれた魚がいるのだけれども、水面が光で反射して見えなかったとすると、水面の表情を誠実に描写した作品にも思えます。

 写真撮影は許されていませんでしたが、この画に関わる参考作品もありました。
《漣》は金箔の台座にプラチナ箔を貼り付け、その上から群青で描いています。
 当初、銀屏風を注文したのが表具屋の手違いで金屏風が届きます。下地が金では水面を表現できません。そこで平八郎は小さな紙に金箔を貼り、さらにその上に銀箔を貼って本画と同じ群青で描いてみました。その試し書きが展示されているのですが、表面の白が少しくすんでいるように見えます。金の下地に貼る材料としてプラチナ箔を選んだのは、試したうえでの選択だったようです。

 本画を描く直前の原寸大の下絵の下半分もありました。青で描かれた波の線のいくつかは、薄く位置が修正されています。本画に書き漏らしがないようにと、下絵には鉛筆で縦のチェックマークが引かれているのもわかります。


 大分県立美術館の「没後50年 福田平八郎」展は7月15日までの開催です。






 大分県立美術館はJR大分駅から北西方向に歩いて15分の距離。私は大分市内を循環する「大分きゃんバス」を利用しました。
 大分駅の観光案内所で大分きゃんバスの一日乗車券を買って、北口の7番のりばから4つ目の「オアシスひろば前」で降りると道路の向かい側に大分県立美術館があります。停留所側のオアシスひろば21のビルにはエスカレーターがありますので、そこから伸びる歩道橋を渡るのが楽です。
 帰りも降りた停留所から大分きゃんバスに乗ると大分駅の南側、上野の森口に到着します。

 また、私は羽田空港から大分空港に向かいました。おおまかに1時間半乗っていました。国東半島の海岸にある大分空港では到着便に合わせて空港バスが発車し、大分駅前には約1時間で到着しました。



(参考)
「没後50年 福田平八郎」図録 (編集 大分県立美術館/大阪中之島美術館/毎日新聞社)
NHK Eテレ「日曜美術館 時を超え、自由に 日本画家 福田平八郎」

(7月13日)







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