2020年5~8月に読んだ面白い本 小説編

 そろそろ夏も終わりですね。今年は花火見なかったなあ。
 今回は小説特集です。

■目次:
1.『去年の冬 君と別れ』(中村文則)★4
2.『Yの悲劇』(エラリー・クイーン)★3
3.『ジェリーフィッシュは凍らない』(市川優人)★2
4.『Ank : a mirroring ape』(佐藤究)★5
5.『旅のラゴス』(筒井康隆)★5
6.『かけら』(青山七恵)★4
7.『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい)★4
8.『師弟 棋士たち魂の伝承』★4
9.『消えていくなら朝』(蓬莱竜太)★4

■ミステリー

1.『去年の冬 君と別れ』(中村文則)★4
 はたして人は芸術のために本当に殺人ができるのか…?
 「人は他者の欲望を欲望する」という有名な言葉を彷彿とさせるテーマ設定。出てくる人物が謎めいていたりかっこよかったり、かっこよさげなことをいっぱい言ったりするので、そういう本が好きな人にお勧め。


2.『Yの悲劇』(エラリー・クイーン)★3
 古典中の古典! 今更かよ! という感じですが。
 実は初めて読みました。
 前半は退屈に感じたのですが、後半になるにつれ面白くなります。どんどん緊張感が増していきます。
 ちょっとネタバレなんですが、「目が見えない、耳も聞こえない、喋ることもできない」人物が唯一の目撃者という舞台設定が凄い。斬新な設定だし、現代から見ると色んな意味で危なっかしいし。


3.『ジェリーフィッシュは凍らない』(市川優人)★2
 期待しすぎていた。
 捜査している男女コンビ(探偵役)の雰囲気がラノベっぽいのがなんとも…。ハルヒとキョンの掛け合いを見せられている感じ。トリックも微妙。
 舞台設定の凝り具合は森博嗣の理系ミステリみたいで、専門用語ばりばりな感じは凄い好きだったのになあ。


■SF

4.『Ank : a mirroring ape』(佐藤究)★5
 あらすじ:
 2026年、多数の死者を出した京都暴動(キョート・ライオット)。ウィルス、病原菌、化学物質、テロ攻撃の可能性もない。人類が初めてまみえる災厄はなぜ起こったのか。発端はたった一頭の類人猿、東アフリカからきた「アンク(鏡)」という名のチンパンジーだった。一人の霊長類研究者が壮大すぎる謎に立ち向かう。乱歩賞『QJKJQ』で衝撃の”デビュー”を果たした著者による、世界レベルの超絶エンターテインメント!
 感想:「人間を人間たらしめているものはなにか」「人間は言語をどのように獲得したのか」という根源的な問いを扱う衝撃SF。時々映画の映像のように差し込まれる「殺し合い」の描写が絶品。『虐殺機関』、『ジェノサイド』、『サピエンス前史』あたりが好きな人にはもうたまらん一冊です。殿堂入り。むしろこれくらいの本があったら教えてほしい。



5.『旅のラゴス』(筒井康隆)★5
 比較的短い時間で非常に雄大なものを見る気分を味わえる本です。最近こういう乾いた文体が好きです。星新一のような。
 本好きなら、ラゴスがポロにたどり着いて貪るように哲学、歴史、自然科学、政治、経済、医学、そして文学の本を読み漁るシーンを見てきっと幸せな気分になると思います。


■純文学:

6.『かけら』(青山七恵)★4
 面白い…。
 ★4にしていますが、例えば読書会をするなら上の2つの★5ではなくこの本でやりたいです。
 何にも特別なことは起こらないし、「欲望」や「人類の進化」みたいな大きいテーマもないんです。でも、「優れた作者は最も大切な宝物を隠す」という石原千秋の言葉に従うなら、この小説の中には一体どれだけの宝物が眠っているんだろうという作品。
 あと、とってもとってもとっても文章が好き。丁寧で少しもいやらしいところがない。


■児童文学: 

7.『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい)★4
 アメリカの8人の高校生が、広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非をディベートするというストーリーです。
 ディベートのこと、「原爆の是非」のこと、について考えるならお勧めの1冊。読みやすく、ストーリーもあり、悲壮感もない、まさにタイトルどおり「夏の朝」の雰囲気をもってる本です。


■エッセイ:

8.『師弟 棋士たち魂の伝承』★4
 いや小説じゃないじゃん、と思った方。ごめんなさい、趣味で入れました。
 6師弟12人のプロ棋士へのインタビュー本です。
 もし少しでも将棋の世界に興味があれば、読んでみていいと思います。普段冴えない雰囲気である棋士たちの奥底にある熱量に圧倒されます。増田さんの「感情を捨て去ることが強くなるコツ。映画を見ても泣かない。そういう何気ない幸せみたいなものは、捨てた」という発言なんて、もう少年ジャンプですよね(ちなみに師匠の森下さんは、名人戦という大舞台でも駒に彼女の顔が浮かんでくるという「情」型なのも面白い)


■戯曲

9.『消えていくなら朝』(蓬莱竜太)★4
 趣味本その2。戯曲です。もはやAmazonにないという。
 家族のもとに次男が彼女を連れて帰ってくるところから始まります。
 もう家族が喧嘩し放題。ドキドキしながら読めます。たぶん戯曲としては読みやすいんじゃないでしょうか。
「わかってる人はわからない人より下なの…?」
 人より色々と苦労をしていて、大変な思いをした人は、のほほんと甘い世界で生きてきた人より「えらい」んですかね。
 これちなみに大学時代の友達と一緒に読み合わせやったんですが、楽しかったのでまたやりたいです。


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