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沖縄をめぐる言葉

スイカ坊や(96年生まれ 埼玉県出身)

 2022年9月。Youtubeに、沖縄の「ダークサイドを伝える」動画が投稿された。
 私は、沖縄の歴史や文化、社会に強く関心を寄せており、ある日おすすめに登場したこの20分間の動画を視聴した。最初の数分間で感じた違和感は間違いではなかった。
 視聴後、私は「ぶちぎれ」した。

 人は誰しも思い込みをしたり、物事を自分の物差しで理解しようとしたりしてしまうものだとは思う。
 それでも私は、沖縄への暴力的な言葉にはもううんざりしている。

 動画を見て思い出したのは、大学在学中にゼミを辞めたときのことだ。基地反対運動をする沖縄の人たちに刺激を受け、卒業研究の計画を発表したとき、担当教授に「基地とか原発とか引き受ける所が必要なんだから話す意義はない。だってそれ以外で沖縄は稼げないんでしょ。」と言われた。頭が真っ白になってその後どんな理屈を言われたか正確に覚えていないけれど、ここぞとばかりに沖縄がある方向に偏った歴史観で語られるのを聞いた。権力や影響力がある人に、議論の余地を残さず沖縄のあり方を押し付けられ苦しくなった。これをきっかけに、私はゼミを辞めた。後日教授にゼミへの辞意を話すと「そんなに嫌だったわけ?」と、鼻で笑われた。これ以来、沖縄を知り、語るのに足がすくんだ。

 それから何年もかけ、沖縄と向き合ってきた。沖縄を訪れたり、沖縄を愛する人達の言葉を聞いたり、沢山の本を読んだりした。さまざまことを経験して、沖縄へのリスペクトが深まっていった。

 例えば、久米島で、ある方のご好意で旧盆の集まりに招いて頂いたことがあった。宿のオーナーさんが、私が食べてみたいと言うのを聞いて大東の島寿司をご馳走してくださった。トラブルで交通手段とお金が無くなり本島郊外を歩いていたら通りがかりの方が車に乗せて下さり、私を安心させるために職場や家族のお話をしてくれた。沖縄出身の友人達が私の沖縄でのインターン業務を助けるために、生まれ島への思いを話してくれた。インターンの取材先で礼を欠く言い方をした私を、相手方が注意して下さった。ハワイではそこに住むうちなんちゅたちが行事で用意したご飯を私に沢山持たせてくれた。平和祈念公園とひめゆりの塔で手を合わせた。沖縄の人達が家族や暮らしのために努力をしてきた生活史の本に夢中になった。

 こうしたプロセスを経て、私は、沖縄に向き合いたい自分を大切にできるようになった。だから、私はあの動画に苛立ったし、そのことを書きたいと思うようになった。

 Youtubeに投稿されたこの動画は、2023年5月現在、30万回再生されている。概要欄には、日本有数の観光地で身近な存在であるにもかかわらず、沖縄は日本で最も貧しい県だ、と書かれている。この貧困の要因として、動画では「アルコール依存率の高さ」と「母子家庭の多さ」が挙げられている。これが沖縄のダークサイドだという。

 なにがダークサイドだ。沖縄を「楽園」や「あたたかい気候と人の島」と持て囃す態度とはまた違って、「ダークサイド」は、発話者がその対極の「ライトサイド」側に立っていて初めて使える、敬意に欠けた言葉だ。

 この動画では、語られていないことがたくさんある。元々沖縄は琉球王国として豊かな歴史、文化があったこと。太平洋戦争で日米の地上戦に巻き込まれ多くの人が犠牲になったこと。戦後から米軍が土地や経済を統制し、沖縄の女性や子供が暴力を振るわれ、沖縄の人は抗議してきたこと。復帰後も「沖縄振興計画」として政府が沖縄に対し強い立場にあること。時代に翻弄され、出稼ぎに出た沖縄の人はつらい待遇を受けていたこと。米軍基地は、今も沖縄の人の命と生活を脅かし続けていること。

 沖縄が経験している日米両国に対する不均衡や経済・社会・ジェンダーの構造を伝えずに、本土出身者や海外メディアの立場から、沖縄をエキゾチックで貧しい南の島とラベルづける。
 これらの行為はとても傲慢であり、差別的だと私は言いたいし、動画を見た人に聞いてみたい。

 あなたにとっての沖縄は、どんな島ですか?

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