ムーチー、あなたは何味派?
西 由良(94年生まれ 那覇市首里出身)
一年の中で一番寒くなる時期にしか食べられない、特別なおやつ。それが私のムーチーのイメージだ。沖縄では、旧暦の12月8日に厄除けとしてムーチー(餅)を作って食べる。餅粉で作った生地を、サンニン(月桃)の葉に包み、蒸して作る冬の風物詩。冷たい風が強く吹く日には、東京にいても「今日はムーチービーサ(ムーチーの寒さ)だ」なんて思ったりする。家庭で手作りする人もいれば、市販のものを買う人もいる。今や、市場とスーパーだけでなく、コンビニでも売られるようになった。
味はいろいろあるが、私が一番好きなのは紅いも味で、ついついそればかり食べてしまう。1963年生まれの父が子どもの頃は、「白(プレーン)が主流だった」らしい。砂糖がはいっておらず甘くもなかったので、特別好きではなかったとか。味の種類が増えたのは、いつからなのだろう。今は砂糖、黒糖、紅いもの3種類がスタンダードな味だと思うが、小学生の頃通っていた学童で、一度だけオレンジ味を食べたことがある。学童の先生が、たまたま余っていた飲料の粉を入れて作ったムーチーだった。甘酸っぱくて、それはそれで美味しかったような…。でも、子ども達の一番人気はなんといってもココア味だった。
今の子ども達は何味を食べているんだろうと思い、先生に連絡を取ってみたが、コロナの影響で、昨年と今年は作れなかったらしい。「2年も作らないと、ムーチー作りを子どもたちに継承できるか不安だよ」と先生は言った。
小学生の頃、先生に教えてもらいながら、餅粉を一生懸命こねていたことを思す。毎年、冬になると学童のみんなでムーチーを作っていた。
「耳たぶくらいの固さにしてね」
子どもたちはちょっとだけ耳を触って確かめる。うーん、これくらいかな? オレンジ味やココア味のパウダーを練り込んだ生地も作った。それを自分たちで取ってきたサンニン(月桃)の葉に包み、蒸し器で蒸して、出来上がるのを待つ。蒸し器を火にかけてしばらくすると、部屋はサンニンの香りに包まれる。冬の甘い優しい香りがしていた。
ムーチーが出来上がると、みんなでむしゃむしゃ食べた。ムーチーを食べるとなんだか力が湧いてきて、強くなった気がするから不思議だ。保育園の頃、鬼になった兄を妹が退治する『鬼ムーチー』の昔話をお遊戯会でやったおかげだろうか。そういえば、食べた数を競い一番多く食べた子は周りから一目置かれていたような。
伝統行事は、大人達から子ども達へこんな風に伝わっていくのだろう。コロナ禍でこういう機会が減ってしまうのは残念だ。来年こそはみんなでムーチー作りができますように。
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