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【対談】主演・磯村勇斗×監督・内山拓也 『若き見知らぬ者たち』は、エンドロールの先を描くための映画

映画『若き見知らぬ者たち』の主演・磯村勇斗と監督・内山拓也。同い年の二人が、撮影から試写に至るまでの1年弱の過程と、作品に込めた想いについて語った。


31歳の同い年。監督と役者の関係性

磯村勇斗(以下、磯村)
内山監督とは『若き見知らぬ者たち』の撮影が始まる前に何度かお会いする機会はありました。初めての顔合わせのときは、まだどんな方かパーソナルなところまではわからなかったけど、この作品をどう届けていくのか、というビジョンも確実に見えていて、僕からの質問に対してもいろんな角度から丁寧にお話ししてくださって。

僕と監督は同い年なんですけど、本当に視野が広い監督だなと感じました。だから、撮影にむけて「自分の身を委ねても大丈夫だな」という気持ちになりましたね。

内山拓也(以下、内山)
僕から見て磯村さんは、同世代にいろんな役者さんがいる中で、自分の色を明確に持ちたいと思っているんだなと感じていました。出演している作品などからも、どういう気持ちでそのキャリアを歩んでいるのだろう?というのは気になっていて、稀有な存在だな、と。

だから、一度お会いして聞いてみたいと思っていたんです。実際にお会いしてみると、ある種のノンフィクションとフィクション、世の中に発信する姿とプライベートの姿など、とても器用に使い分けができる人だなと感じました。

磯村
僕は、計算してないですけどね(笑)!

内山
って言うじゃないですか、本当かはわからないけど(笑)。

 左:監督 内山拓也/右:主演 磯村勇斗

磯村
もちろん、考えて作品は選んでいますが、自分の直感をすごく大事にはしています。あとは、似たようなことを続けてやらない。飽き性なのでいろんなことをやりたくて、とにかくいろんなことに興味があるんですよね。

内山
磯村さんは、クレバーで真面目だし、役者としてだけでなく、経営者っぽいなと思うこともあります。いま僕たちは31歳で、このあたりから何かを積み上げようと思う人も多い年齢だと思うんです。

でも、磯村さんは20代の頃から自分の人生をしっかり仕込んでいた感じがするというか。きっと僕らの見えないところで戦ってきていたり、対話してきたんだろうな、と。それって、レールの上に乗ってきただけでは絶対にできないこと。でも、そういったレールすらも人生において大事だとわかっているような印象を受けました。

磯村
監督は、自分自身が演出する側として役者をどう動かすかを考えてパフォーマンスするのがうまいというか。言葉選びがちょっと難しいんですけど、決して上から目線というわけではないんです。むしろ役者に寄り添って導いてくれるイメージ。信頼できる人柄だな、というのは感じていました。

それは役者に対してだけじゃなく、スタッフさんひとりひとりを大事にしているんだろなという部分でも感じられて。「録音部」「撮影部」というくくりではなく、そこにスタッフさんが3人いたら全員を大事にしていた。だから、チーフだけじゃなく、若いスタッフたちもやりがいを感じられたんじゃないかと、現場を見ていて思いました。本当にみんながいきいきしていたし、エネルギーが現場に充満していて面白かったんですよね。

内山
人には得意不得意があると思っていて。作品づくりそのものには信念がありますが、僕にとっては「監督」という言葉自体にこだわりはなくて。
集合写真を撮影するときも、「監督は当然、真ん中に!」となるんですけど、そうじゃない気がするというか。一緒に作り上げてきたからみんなが真ん中に集まっていて欲しいなと。

磯村
そういう、監督が大事にしている精神がこの現場のいいところだな、と思っていました。やっぱり一番のエネルギー源って監督で、その火種が小さければ、こうはならない。監督が大きなものを持っていたから、現場で一気に火がついて、エネルギーになっていった気がします。


撮影現場で感じたエネルギーが、映画を通してそのまま伝わる作品になった

磯村
普通だったら、映画ってだいたい撮影が終わって1年後くらいに試写があって、公開を迎えます。そうなると、試写会の頃には「どうやって芝居してたかな?」とか「どんな感じに仕上がったんだろう」と思い出すようなワクワクがあるんです。

だけど、今回は撮影が終わってから試写までの間に監督や役者陣と頻繁に会いすぎていて、まだ試写を見ていないタイミングでも「俺、多分もう見てるな」という気持ちになるくらいで(笑)。

内山
撮影が終わったあと、スタッフ、キャストさんとの打ち上げがあったんです。その次の日というか数時間後に、さっきまで会っていた役者さん何人かと僕でお寿司を食べに行って。それから2週間後にもまた会おうとなったりしてて、結局何回お疲れ様会をやって、何回忘年会をやったんだろうってくらい会っていました(笑)。

撮影の前はどうしても、お互いに準備もあるから「お酒飲もう」「ご飯を食べに行こう」と頻繁に会うのは難しい。でも、撮影後はLINEグループもないのに、役者さん10人くらいの誰かが会おうって言い出して、いつも集まって。

磯村
撮影が終わってからの過程とか、編集をどうしよう、音をどうしよう、という話は監督から聞いていました。そんなにカットを多く割って撮った映画ではなかった分、映画全体の時間制限にも悩んだだろうし、完成してまずはお疲れ様、と監督に伝えました。僕にとっては、現場として間違いなくすごくいい現場だったんです。

でも同時に、自分の役どころもあって、役者さんたちと向き合うなかで精神的に苦しかった時間でもあって。その現場を共有していた人たちと完成した作品を試写として見ることができたのは、非常にいい時間でした。映画としても、現場で感じたエネルギーがそのまま画面を通して伝わってきた。この映画は必ず届くな、と確信できました。

磯村「どんな生き方だろうと軌跡は残る。未来は怖くないと思えるようになった」

内山
この映画を届ける先は、何か枠組みに押し込んだり制限したりはしたくない。ものづくりをしている人だけが「表現者」というわけではない、という価値観でこの映画を作りたいと思ったんです。その上で、この作品を自由にどう捉えてもらったのかとか、どのように感じたのかということも聞いてみたいですし、普段だったら出会えない人たちにも、作品が思いもよらないところに広がって届いていくといいなと思っています。

磯村
僕自身の話をすると、今のこの取材の現場もそうですが、日々「はじめまして」で出会う人がたくさんいて、出会いってすごく面白いなと思っていて。僕はいろんな人たちとの出会いによって支えてもらいながらここまで来れたと思っています。もしも大事な恩師などに出会っていなかったら、どういう道を進んでいたのかな、と考えることもあって。人との出会いはバトンのように繋がって後世に残していけるというか。

自分が歩んできた道というのは、どんな人だろうと、どんな年齢だろうと、どんな生き方だろうと、軌跡が残ると感じたんです。それが監督のいう「表現者」なのかもしれない。どんなに今の状態が苦しくても、ちゃんと生きていれば、それが残るということを、この映画を通して知ることができました。だから今は「未来は怖くない」と思えるようになったんです。

内山
個人的な思いとしては、「中立」や「客観」という強者の眼差しで、命や人生に勝ち負けで「価値」をつけ、破れた者は「自己責任」だ、と言われる時代で。このような危うさを提言したり、問う場は世の中に少なからずあります。

でも、その先までを考えていることはほとんどないんじゃないかと感じていて僕はそこに執着しています。実際に負けだと言われた人、価値がないと括られた人、自己責任に押し潰されてしまった人、存在を見出せなくなってしまった人はどうしたらいいか、というところまで見つめなきゃいけないと思っています。

社会が長い時間をかけて形成してしまった「寄る辺なさ」みたいなところのフラストレーションはみんなあると思うんですけど、その嘆きややっかみを発信する映画ではありません。何かに括られることこそもっとも嫌がっていて、恐れている。

私たちはちゃんとここにいて、ここでひとりひとり生きている。「ここに私がいるよ」「ここにあなたがいるね」ということを表明していい、声に出していい、本当は声に出したいんだ、と。「負けの先」を知りたいですし、「負けの先」に私たちは一緒にいけるのか、一人で進むのならどうやったらいけるのか。その補助線のような映画でありたいと思いました。その一助となるような、エンドロールの先を描くための2時間の映画です。


取材/編集:山本梨央
写真:向後真孝

■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日公開
オフィシャルサイト:http://youngstrangers.jp
映画公式note:https://note.com/youngstrangers
映画公式X(旧Twitter):https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/

原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗岸井ゆきの福山翔大 他 
製作:「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作:カラーバード
企画協力:ハッチ
配給:クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners


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