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ボブ・ディラン「ボブ・ディランの夢」の和訳

 こんにちは。
 好きな曲の歌詞の和訳。

*

 今回はボブ・ディランの‘Bob Dylan’s Dream’。邦題は「ボブ・ディランの夢」。

 曲のタイトルに自分の名前を入れてしまうという、ちょっと珍しいタイプだけど、彼の曲には他にも数曲、自分の名前がタイトルに入っているものがある。

 そんな自分の名前シリーズの中の一曲、「ボブ・ディランの夢」は、1963年のアルバム「フリーホイーリン」に収録されている。

   彼の代表曲「風に吹かれて(Blowin’ the wind)」も収録されているアルバムだ。

 このアルバムには他にも、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した際の授賞式でパティ・スミスが歌唱した「激しい雨が降る(A Hard Rain’s Gonna Fall)」(肝心の本人は欠席)や多くのアーティストにカバーされている「くよくよするなよ(Don’t Think Twice, It’s all right)」などが収録されており、彼のキャリアの中でもかなり重要な作品と言ってもいい。

 しかし、今回取り上げる「ボブ・ディランの夢」はその中でも比較的地味な立ち位置な気がする。

 カバーされた数も少ないし、彼がライブで取り上げた回数も多くない。実際、私もアルバムを購入した当初は代表曲・有名曲の中に挟まれたアルバム曲の一つ、といった印象しかこの曲にはなかった。

 そんなこの曲に対する印象が変わったのは、およそ一年前。書店でなんとなく購入した岩波書店から出版された「ボブ・ディラン詩集」を読んでからだった。

 タイトルの通り、彼の歌詞の原文・訳文がかたっぱしに掲載されている本で、そこで読んだこの曲の歌詞があまりに心に響いてしまったのだ。

 それから、すっかりこの曲は私のフェイバリットの一つとなった。そして今回は僭越ながら、自分も同曲を翻訳してみることにしたのだ。私が感じた感動を、みんなにも共有できればいいのだが。

While riding on a train going west
I fell asleep for to take my rest
I dreamed a dream, that made me sad
Concerning myself and the first few friends I had

西へと向かう列車の中
僕は休息のため 眠りへ落ちた
そこで夢を観たんだ 悲しい夢を
僕と 最初にできた仲間の夢だった

With half-damp eyes I stared to the room
Where my friends and I'd spent many an afternoon
Where we together weathered many a storm
Laughing and singing 'til the early hours of the morn

潤んだ瞳で 僕は見つめていた
僕らが あてもない午後を過ごした部屋を
苦難を共に乗り越え 笑い
時には朝まで歌い明かした部屋だった

By the old wooden stove where our hats was hung
Our words was told, our songs was sung
Where we longed for nothing and were satisfied
Joking and talking about the world outside

古びた暖炉の近くは 僕らの帽子がかけてあり
仲間たちとの会話と歌が 飛び交い再生された場所
目指すものなどなくても それで満足だった
世間をよそ事に 冗談にしていたものさ

With hungry hearts through the heat and cold
We never much thought we could get very old
We thought we could sit forever in fun
And our chances really was a million to
one

浮ついた心は 熱しやすく冷めやすかった
僕らは 永遠に若くいられるものだと思っていた
ずっとこのまま ここで遊んでいたかった
でも そんなのはあり得なかったんだ

As easy it was to tell black from white
It was all that easy to tell wrong from right
And our choices, they was few, so the thought never hit
That the one road we traveled would ever shatter or split

それは 白と黒とを比べるくらい
正誤の判断も 簡単にできたけど
僕らの選択とアイディアは どれも成功しなかった
分かち合った一つの道も 閉ざされ隔たれたんだ

How many a year has passed and gone
Many a gamble has been
lost and won
And many a road taken by many a first friend
And each one I’ve never seen again

どれくらいの年月が過ぎ去っただろう
賭け事に 負けるときも勝った時もあったし
様々な道のりを 友人たちと歩んで来た
そのどれもが たった一度の出来事だったんだ

I wish, I wish, I wish in vain
That we could sit simply in that room again
Ten-thousand dollars at the drop of a hat
And I’d give it all gladly if our lives could be like that

願う 虚しくも願うよ、僕らがまた
あの部屋に戻ることだけでも またできないものかと
どんな大金だって 喜んではたいてみせる
僕の人生があの頃のように 戻るならば

 いかがでしたか。
 青春時代に誰もが経験するであろう、夢や友との出会い、そしてそれらとの決別。そんなものを感じさせる歌詞になっていると思う。

 ボブ・ディラン本人も、デビューこそソロ・アーティストとしてだったが、学生時代は流行りだったロックン・ロール・バンドで活動していたこともあったので、もしかしたらそこでの挫折が背景になっているのかもしれない。

 私も学生時代にバンドを結成し、解散した経験があるので、もし彼がその経験をもとにこの歌詞を書いたのなら、同じ部分にシンパシーを感じたとも言えるとも言えるだろう。もちろん、私は彼のような成功を手にすることはなかったのだけど。

 また、恋愛についての歌が主流だった時代に人生を振り返ってみるような歌詞を、20そこそこの若者が既に書いてしまっているところも一つのポイントだ。  

 特に最後から二番目のヴァース(「どれだけの時間が…」)は、どんないい思い出、いやな思い出も人生において一度しかないという、全ての時間に尊さを見出だしているような部分はかなり達観して、思わず関心してしまう。あー、自分もそんな考えを持ってみたいものだ。




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