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エルヴィス・プレスリー「イフ・アイ・キャン・ドリーム」の和訳

 こんにちは。

 今回も好きな曲の歌詞の和訳。

 今回取り上げるのはエルヴィス・プレスリーの‘If I Can Dream’。邦題は「明日への願い」。


   何を隠そう、私がこの曲を選んだのは今年公開されたエルヴィスの伝記映画『エルヴィス』を観てまんまとどハマりし、影響されたからである。
   オースティン・バトラー演じるエルヴィス・プレスリーが、彼の人生をほぼ完コピと言っても良いほどのステージ・パフォーマンスを交えつつ辿っていく。

 作中には今回取り上げる‘If I Can Dream’のパフォーマンスも収録されており、映画の中のクライマックスの一つにもなっている。

・映画内での再現シーン


 この曲が発表されたのは1968年。作曲家のウォルター・アール・ブラウンによって作詞・作曲された。歌詞は発表の二ヶ月前に暗殺されたキング牧師の有名なスピーチ「I Can Dream」に影響を受けており、当時の世相を大きく反映したものとなった。

 それまで政治的発言を殆どしてこなかったエルヴィスが、このタイミングでプロテスト・ソングの類を発表したことは、非常にセンセーショナルな出来事だっただろう。チャート成績も良く、それまでスターとして憂き目を見ていた彼を最前線に引き戻すに足るものだった。

*

There must be lights burning brighter somewhere
Got to be birds flying higher in a sky more blue

If I can dream of a better land
Where all my brothers walk hand in hand
Tell me why, oh why, oh why can't my dream come true, oh why

どこかに 燃えるような明るい光があるはずだ
鳥達も より青く澄んだ空で羽ばたけるはずさ
願わくは 皆が手を取り合っていける世界
なぜだ なぜそれは叶わないのか

There must be peace and understanding sometime
Strong winds of promise that will blow away
The doubt and fear
If I can dream of a warmer sun
Where hope keeps shining on everyone
Tell me why, oh why, oh why won't that sun appear

どこかに 平和で分かり合える世界があり
そこでは約束という強い風が 
疑念や恐怖を吹き払うんだ
夢みるのは 皆を照らし続ける暖かい太陽
なぜだ そんな太陽は現れもしない

We're lost in a cloud
With too much rain
We're trapped in a world
That's troubled with pain
But as long as a man
Has the strength to dream
He can redeem his soul and fly

雲の中で迷い 強い雨に打たれながら
囚われている 苦痛に満ちた世界に
それでも 夢みる力がある限り
人はその魂を取り戻し 解放できるはずだ

Deep in my heart there's a trembling question
Still I am sure that the answers
Answers gonna come somehow
Out there in the dark

There's a beckoning candle, yeah

僕の心の奥底にある 一つの疑問
怖くて訊くこともできないが 分かっている
その答えはいずれ 明らかになると
外は暗闇だけど その中に
道を示す ろうそくの灯りがある

And while I can think, while I can talk
While I can stand, while I can walk
While I can dream
Oh please let my dream
Come true
Right now
Let it come true right now

僕が考えたり 話したりすることができるうちに
立ち上がり 歩くことができるうちに
そして夢を見ることができるうちに ああどうか
僕の夢を叶えてくれないか さあ早く
叶えてくれないか 今すぐに

 個人的に、黒人居住区で幼い頃を過ごし、黒人文化がアメリカの中でも盛んなメンフィスに住んでいたエルヴィスが歌うことによって、この曲に大きな意味や説得力をもたらしているように思う。

 映画の中で彼がキング牧師がメンフィスで暗殺されたニュースを見て、衝撃を受けるシーンがあったけど、自分のホーム・タウン、しかも黒人文化のメッカだったはずの町でキング牧師が殺害されてしまうのは、彼にも思うところがかなりあったに違いない。


 曲そのものに関しては、前回取り上げたオーティス・レディングのようなソウルと、フランク・シナトラのようなジェントルなポップの中間のような雰囲気があると思う。

 導入や大切な部分は丁寧に歌い上げるところはベテランのポップ歌手のような「じっくり聴かせる」魅力があるし、曲中でもメッセージ性が強く、盛り上げたい部分(‘We’re lost in a cloud~’の部分や最後の‘While I can stand~’あたり)の絶唱っぷりはエルヴィスのデビュー当初の逸話「ラジオで曲だけ聴いた人は彼を黒人アーティストだと思った」を思い出させる程のソウルフルさだ。

 このように彼の持ち得る二つの側面の魅力を最大に引き出した上に、メッセージ性も上乗せされたこの曲は間違いなく彼のキャリア最重要曲の一つだろう。

 混乱が断続的に続くこの時代にこの曲を聴くことにもまた一つ、特別な意味があると思うし、また今後人々が何かのアクシデントや悲しみに立ち止まった際にも、この曲は特別なものになってくると思う。



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