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サウナ徒然草〜オイルさんとサウナしきじ〜

人生は一期一会だ。

私はサウナに通い始めてから多くの友人が出来た。

今では毎週の様にサウナ後に大広間に集まっては語り合っている。

未だに本名も知らない友人達だがそんなことはどうでも良い。

恐らく私達は一生SNSのアカウントネームでお互いを呼び合い、これからもサウナ後のひと時を楽しむのであろう。

LINEの交換もしていない。

でも「そこに」行けば必ず友人達がいる。

私にとってはそんな関係性がとても居心地が良いのだ。


しかし、いなくなってしまった人もいる。


今日はそんな伝説のサウナーとの出逢いを書き記したい。


当時、私はサウナイキタイというサイトにサ活投稿をすることに夢中になっていた。

サウナに行っても考えることはサ活のことばかり。必死に人間観察をしてはサウナ室でストーリーを作っていた。

サウナから帰宅すると一目散にサ活を書き、ありがたくも頂ける「いいね」やコメントの数々に胸を熱くしていた。

暇さえあれば人々のサ活を読んでは「いいね」やコメントをしていたものだ。

当時私はシフト勤務だった為、起きるのが遅かった。

比較的空いている小田急線に乗り、新宿までの道中を幾多のサ活を読みながら過ごしていた。

そんな毎日を過ごしている中で毎朝必ずサ活を更新している人がいることに気付いた。

彼の名はoyrfat。

私が足繁く通う東名厚木健康センターの朝サウナの常連さんなのだろう。

来る日も来る日も彼は毎朝サ活を投稿していた。

「いいね」の数も300とかを超えていて、明らかに目立っていた。

私はそんな彼が気になっていた。

そんな私もなかなかのペースでサ活を更新していた訳だが、当時は深夜帯が中心だった為2人が交わることはなかった。

しかし、oyrfatさんはそんな私を見逃さなかった。

私のサ活にコメントをくれたのだ。

「いつも楽しくサ活を読ませて頂いております。朝と夜なので、ご挨拶はなかなか出来ませんがいつか偶然出来る日を楽しみにしております。」

私は嬉しくてガッツポーズをした。

会ったことはないが、毎朝サ活を読んでいるうちに彼に憧れている自分がいた。

私には毎朝サウナに行くという名人芸は逆立ちしても出来ないし、「世界は100日後に終わるだろう。」っとノストラダムスが予言したとしてもしないだろう。

それからだった。私とoyrfatさんの交流が始まった。

私は遅く起きた朝に彼のサ活にコメントし、彼は毎朝私が深夜に投稿するサ活にコメントをくれた。

そんな日々が3ヶ月程続いた訳だが、ある日彼は私にこうコメントした。

「今日の夜は行けそうです。」

私は仕事を終えると微かな希望を抱きながら東名厚木健康センターに向かった。

しかし期待はしていなかった。oyrfatさんが誰なのかは分かるはずもない。

この3カ月の間、毎日の様に交流していたoyrfatさんだが彼のアイコンは黒人だし、なんなら私のアイコンもFaceappで加工した女の子だったからだ。

私は正直諦めていた。

しかし奇跡とは時に起こるものだ。

私が5セット目のサウナを終え15℃の水風呂に浸かっていると1人の男性が私の前に現れた。

彼は器用にも耳をピクピクと動かし眼球を180℃に大きく回しながら私に近付いてきた。

彼は引き続き耳を器用にピクピクと動かしながら私に話かけてきた。

「つよぽんだよね?」

私は言った。

「オイルさん!?」

私達はそのまま15℃の水風呂に浸かりながら少しの間、語り合った。

「なんで僕が分かったのですか?」

彼は言った。

「なんとなくだよ。人生は想像だ。君は私の想像と合致した。例えそれが間違えていたとしても謝れば済むことだ。人生なんてシンプルなんだよ。」

彼は引き続き耳をピクピクと器用に動かしながら言った。

「しきじに行きませんか?君となら楽しい時間を過ごせそうだ。」

私は答えた。

「しきじにはいつか行きたいと思っていました。行きましょう。」

私はほんの少しの不安はあったが彼とサウナの聖地「しきじ」に行くことにした。

2人は15℃の水風呂の中で身体を震わせながら1つの約束を交わしたのだった。

因みにオイルさんは長身で原田泰造に似ていた。

それから数ヶ月が経った2021年5月24日。

その日は快晴だった。

日本の空は遠い。そしてコパルトブルーとは程遠く、淡い青色だ。

私がカナダのトロントに住んでいた頃は手を伸ばせば届きそうなほどのコパルトブルーの空が私にいつも親しげに寄り添ってくれたものだ。

今日も日本の空は淡い青色で、少しだけ冷めた様子で私から距離を置いていた。

それがこの国の距離感なのだろう。

どこか人々は悲しげでお互いに距離を置きながら過ごしている。


でも本当は皆寂しいんだ。


たまに孤独とかを感じては視界は暗くなり、その場にいられない衝動に駆られ時に人は死を選ぶ。

どうやら私はまだ幸せな方だ。

私は今、先日サウナで出逢い、数分間しか話したことがない人と聖地「サウナしきじ」を目指している。

どうやらサウナにはこの国の国民性すらも超越してしまう何かがある様だ。

131キロメートルの道中も心地良い。

oyrfatさんは車のクルーズコントロール機能を駆使しては、常にカチカチと指を動かしながらスピード調整をしている。

この機能はアクセルを踏まなくてもよく、高速道路の運転には最適だとオイルさんは教えてくれた。 

そんな手元だけ忙しないオイルさんを横目に私は気になっていたことを聞いてみることにした。

「オイルさんはなんでoyrfatというアカウントネームなのですか?」

オイルさんは少し照れ臭そうに常にカチカチと指を動かしながら答えた。

「昔、太ってたんですよ。だから本名のryoを反対にしてoyrfat。誰にも言わないで下さいね。内緒ですよ。」

その他にもオイルさんは私にサウナしきじのイロハを道中で教えてくれた。

・しきじの歯ブラシは質が良い。歯を磨いたら捨てるべからず。

・しきじの水は美味い。浴室には専用ホースがあるから必ず持ち帰ろう。

・しきじのルーツは焼肉屋。サ飯は焼肉定食がおすすめだ。

・薬草スチームは熱い。特に熱いのは入口付近。スチームサウナ室から出る瞬間は意を決する覚悟が必要だ。

そんな話を聞きながら東名高速道路を走ること1時間40分。

私達は静岡県静岡市駿河区敷地に到達した。

神奈川県の道とは違い碁盤目状に設計された道が印象的だった。

そして私達は「サウナしきじ」に着いた。

この空の色は加工だ。
本当は淡い青色だった。


車から降りると恐らく薬湯の匂いと思われる薬草とミルクを混ぜた様な甘い匂いが私を魅了した。

さすが聖地と呼ばれるだけあって入館すらしていない私の嗅覚は既に満たされていた。

そして1400円の入館料を支払い私達は聖地へと足を踏み入れた。

オイルさんは言った。

「ここからは別行動で。お互い思うがままにしきじを楽しみましょう。」

少しだけ緊張していた私だが、私はただサウナに来ただけだ。

とりあえずいつものルーチンの如く、身体と髪を洗い歯を磨き心を落ち着かせる。

歯ブラシはなるほど頑丈だ。
温浴施設の歯ブラシは大体が歯を磨いてる最中に口の中で何本か毛が落ちるものだが、ここの歯ブラシではそういった事例は確認出来なかった。

私は一旦脱衣所に戻り使い終わった歯ブラシをバッグに入れて持ち帰ることにした。

これは極めてSDGsであり、どうやらサウナしきじは環境にも優しい様だ。

「さあ始めようじゃないか。」

私は小声でそう呟くと、真っ白なインテリアの浴室を無理矢理に威風堂々と歩きながら、
まずはフィンランドサウナへ向かった。

温度計は124℃を指し示す。

TVから流れてくる神奈川県では見ることが出来ないCMが、まるで旅先の旅館に来た様で胸を躍らせた。

少し古びた昭和を感じさせるサウナ室では、木材が少しだけ朽ち果て、まるで時が止まっているかの様な感覚に陥った。

何故か小学生の頃の夏休みに戻った様な感覚で妙に懐かしく少しだけノスタルジックな気分にも浸れた。

TV番組がタッチだったら、より一層完璧だったろう。

124℃のサウナ室はさすがに強烈で8分が限界だった。私は少しだけ目眩を催しながらサウナ室を出ては、サウナ室からは対極の位置にある水風呂を目指した。

私の視界は酩酊としていたが、どうにか水風呂に到達すると、そこには一本滝であるエンジェルフォールが存在した。

頭上から水が流れ落ちる。

私はまるで滝に打たれる修行僧。

聖地だけに思わず「アッラーの他に神はなし。」と呟いた。

因みに私は無宗教だがサイババだけは信じている。

いつか絶対に私の手の平から白い粉を出して、世界中の人々を救いたいと本気で思っている。

それから私は館内に設置された椅子に座っては目を瞑る。

滝の音と店内のBGMが混ざり合い不思議なサウンドを作り出していた。
これがまた落ち着き、最高のメディテーション。

例えるなら、昼寝をしている最中に少し目が覚め、朧げな状態で聞こえてくる近所の子供達の声の様。

そんな極上のリラックスタイムの中、ふと目を開くと薬草サウナのドアからモクモクとスチームが溢れ出していた。

これが噂の薬草スチームか。

私は無意識のまま薬草サウナへ向かった。

サウナ室内は蒸気で溢れ未だかつてない程の高温だった。温度計は62℃を指し示していたが、これが「偽り」の62℃だということは明らか過ぎる事実だった。

そして数分を過ごすとさらに蒸気は増していき通称フィーバータイムが始まっていた。


人々はタオルを顔に巻き小走りでサウナ室から出ていく。

しかし皆、出口直前で必ず立ち止まっては意を決した様にサウナ室から出ていった。

それはまるでバンジージャンプをする直前の最後の抵抗を見ているかの様だ。

はたまた長縄に入るタイミングがなかなか掴めない少年時代の自分を重ねたりもした。

恐らくあそこが1番熱いのは明白だ。

私はサウナ室から出るのが怖かった。

ただでさえ熱いのに出口付近はさらに熱い。

ここに留まるも地獄。ここから離れるも地獄。

しかし、もう限界が近付いていた。私はタオルを顔に巻き少しだけ早足で出口へと向かった。

身体の表面が痛かった。

出口付近は高温スチームがモクモクと立ちはだかりホワイトアウトしていて前が見えない。

この先には恐らくハーレムが待ち構えているはずだ。

私は一瞬立ち止まってから意を決してはサウナ室を飛び出した。

ほんの一瞬だったが全身が蒸気に包まれ直線的な熱さが皮膚を焼いた。

無我夢中だった。

私は気付けば水風呂というハーレムにいた。

ここの水風呂は飲めると書いてある。
私はがむしゃらに水分補給をしては頭上から流れ落ちる水に身体を委ねた。


ふと目を開けるとオイルさんがいた。


彼は休憩椅子に座りながら耳をピクピクと器用に動かしながら白眼を向いていた。

私は思った。

彼は今、私以上の世界に達しているのだろう。

私がその世界に足を踏み入れるのは、どうやらまだ先の様だ。


サウナしきじは聖地だった。

恐らく常連の方は「聖地」と形容されることを嫌うだろう。

しかし、それでもここは「聖地」だった。


帰りの道中でオイルさんは私に言った。

「つよぽんと出逢った瞬間に感じたんだ。しきじが好きそうって。どうだった?」

私は答えた。

「嗅覚は薬湯で満たされました。聴覚は滝の音とBGMの絶妙なマッシュアップで満たされました。味覚はしきじの天然水と焼肉定食で満たされました。視覚は都丸紗也華のサインで満たされました。因みに触覚は都丸紗也華のパイオツカイデーをタッチしたことを想像したら容易に満たされました。つまりは五感が大満足です。」

オイル「若干ドーピングしてる感は否めないけど、結論はおっぱいは世界を救うでオッケー?」

私「そうですね。少し誤解を生じかねませんが、それで良いです。嘘偽りは全く御座いません。」

どうやら、「しきじ」と「おっぱい」は世界を救う様だ。

私が訪れた聖地は確かに至高の世界だった。

この話には続きがある。

oyrfatさんの話だ。

彼はサウナー界に多くの人脈を持ち、その後もテントサウナイベントを開催したり、サウナ旅に連れて行ってくれたり、私に数多くのサウナー達との縁を繋いでくれた。

今の私の土台を作ってくれたのはoyrfatさんだったと言っても過言ではない。

しかし、数ヶ月後のことだoyrfatさんはサウナイキタイから突然消え、東名厚木健康センターからも姿を消した。

あれだけサウナを愛していた人が突然と姿をくらました。

心配になった私は彼に連絡した。

彼は言った。

「職場の人にSNSのアカウントがバレて、なんか活動しにくくてね。」


皆に愛されたoyrfatさんは人一倍繊細な人だった。だからこそ人々から共感を得ては支持された。私からしたら、たわいも無いエピソードだが彼にとっては相当なストレスだった様だ。

oyrfatさんは今も、
あれだけ愛していた東名厚木健康センターには来ていない。

噂で聞いた話によると、彼は今市民センターのサウナで毎日相変わらずも蒸されているとのことだ。

私はその話を聞いて安心した。

oyrfatさんは今もきっとどこかのサウナで蒸されている。

いつかきっと、またどこかで私達は再会するだろう。

私から連絡することはない。

だってまたいつか必然的に私は彼と再会するのだから。

その時を気長に待とうじゃないか。


人生は一期一会。

雑踏の中、私達は幾多の人々とすれ違う毎日だ。

その中で実際に交流を持つ可能性は天文学的な確率だろう。


しかし、私達は出逢い、旅をした。


それはつまりは一生の付き合いを意味する。


私達の物理的な距離は遠のいたが、実は未だに近かったりする。


またサウナという共通の趣味が2人を繋げてくれるはずだ。 



「また逢う日まで。」
 

そう私のオイルさんを探す旅が始まったのだ。

多分きっと、この旅は険しくも楽しくなるだろう。

明日は暗くて見えない訳じゃない、
ただ眩し過ぎるから見えないだけなんだ。

One Love.

#創作大賞2023 #エッセイ部門

都丸紗也華のサインで〜ととのった〜
焼肉定食
記念撮影
記念撮影 part 2
さわやか
しきじの水は持ち帰ろう。それを美顔器にドンッ!!若返ります。新手のアンチエイジング。信じるか信じないかは貴方次第。

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