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ローカル線「赤字なら廃止」は“世界の非常識”…なぜオーストリアは「儲からない」鉄道を運行し続けられるのか?

赤字ローカル線に未来はないのか――?  

人口減・東京一極集中がとどまらぬ中、全国の地方でローカル線の廃線危機が叫ばれている。

経済合理性の名のもとに「廃線やむなし」の決断が下されるケースが、今後相次ぐこともありそうだ。

一方で世界では、そもそもローカル線は「儲かるわけない」が“常識”なのだという。

儲からないローカル線は、いったいどのように運行されているのか。

赤字でも「廃止論」が巻き起こらないのはなぜか。

路面電車やバスが充実したオーストリアの首都・ウィーンを拠点に研究を続ける柴山多佳児氏が、公共交通の“世界基準”をシリーズで解説する。

オーストリアの路面電車、地下鉄。安くて便利。


日本からの留学生や来訪者の多くが一様に驚くのがウィーンの充実した公共交通機関である。

ウィーンは人口約200万人の大都市で、地下鉄5路線と路面電車26系統があり、それを補うようにバス網が発達している。

市内はどこも5分程度歩けば必ずどこかの駅か停留所にたどり着く。改札はなく、時々車内や駅の出口で抜き打ちの検札がある。

路面電車は1990年代半ばから導入された超低床の「ウルフ」が主力で、歩道との段差はほとんどない。

高床の旧型車もまだ少しばかり残るが、第二世代の超低床車「フレキシティ」が続々と投入されており置き換えが進む。


■マックのポテト(M)の値段で全国乗り放題

大都市ウィーンの充実ぶりで驚くのはまだ早い。

オーストリアは全国の人口が約900万人で、ウィーン以外に人口100万人を数えるような大都市はない。

第2、第3の都市ともなれば人口は20万~30万人ほどの中小の都市だ。

それにもかかわらず、第2の都市グラーツ(人口約30万人、都市圏人口約50万人)や第3の都市リンツ(人口約21万人、都市圏人口は同じく約50万人)の目抜き通りに出れば、日中は2~3分おきに路面電車がやってくる。

そこを行きかう歩行者も多い。

このようにオーストリアの公共交通は総じてサービスの水準が高い。

ウィーンのような大都市だけでなく、日本であればクルマがないと暮らせなそうな規模感の都市でも、地方部でも、公共交通のサービス水準が高いのである。

しかも2021年10月から導入された「クリマチケット」(環境チケット)は1年あたり1095ユーロで、登山鉄道や観光船など若干の例外はあるが、特急列車も含めた全国すべての公共交通が乗り放題である。

1年365日で割れば一日あたりわずか3ユーロ(約500円、1ユーロ166円で換算)で、破格の料金設定だ。  

オーストリアで3ユーロといえば、マクドナルドのフライドポテト(M)の値段であるが、これと同額で全国乗り放題なのだから、破格ぶりがお分かりいただけるだろう。

ではオーストリアの公共交通は「儲かって」いるのだろうか?  

答えは明快で「ノー」である。


■ 「公共交通は黒字であるべき」は日本式

日本では1970年代から「赤字ローカル線」が大きな問題となってきたことは周知のとおりである。

1980年代に廃止されたり第三セクター鉄道に転換されたりしたことで国鉄やJRの手から離れた路線も多い。

要するに赤字が問題であり、公共交通は基本的に黒字でなければいけないというのが日本式の考え方だ。

そんな「苦しい経営」の話はオーストリアではまず聞かないが、上述のように税金で運営費用の大半が賄われるのだから当然である。

ではしかし、なぜ多額の税金を鉄道やバスの運営に投入することがオーストリアでは正当化されるのだろうか? 

 「公共」交通という名前が示す通り、オーストリアや欧州の国々では鉄道やバスは「公共の」乗り物であるとの考え方が一般的である。

ちょうど、道路が公共のものであり、交通ルールを守る限り誰しもが自由に使えるのと同じように、鉄道やバスもきっぷを正しく買って乗る限り、誰しもが自由に使える。  

ただし道路は土木インフラであり、設置してあれば誰でも使えるが、公共交通は線路やバス停を用意するだけではだめで、列車やバスを走らせないことにはサービスとして機能しない。


■ 「黒字を出せるわけがない」が “世界基準”

世界的に見ればこのように公共交通で黒字を出せる都市はかなり例外的である。

人口100万~200万人といった、日本の政令指定都市くらいか、それより小さなところとなると、予定された時刻表通りに朝早くから夜遅くまで高いサービス水準できっちり走る公共交通で黒字など出せるわけがないというのが、世界的に見れば「常識」である。  

公共交通で黒字を出せる都市は、日本を含む東アジアと東南アジアを中心に、例外的に数えるほどしかない。

その例外が三大都市圏だけみても国内に3つもあるから、つい「公共交通は基本的に黒字でなければいけない」という日本式の感覚を当たり前だと錯覚してしまうが、この状況はあくまで大都市圏の例外である。


■ なぜ欧州はできて日本ではできないのか?

「こんにちでは、一般の経済活動に必要とされる陸上の旅客輸送サービスの多くは、商業ベースで運営することができない。 加盟国の行政当局は、それに必要なサービスが確実に提供されるように行動できなければならない(後略)」とある。  

前文とはその法律の背景を記す重要な部分であり、この規則は2007年に成立したものであるが、欧州は15年以上も前の立法の段階でこのように公共交通が黒字にならないことを認識し、行政が必要な手当てをすることを求めているのである。  

なお2007年の規則は1969年の規則を全面改正したものであり、同じ考え方は1960年代末にはEU(当時は前身となるEEC)ですでに表れている。

(柴山多佳児)


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