傷口がひらく夜に、ジャガイモの収穫をする。
「あのときのあれ、嫌だったなぁ」が、ふとよぎる夜がある。
そして、嫌だったなぁ、の端っこをひっぱると、ずるずると色んな「嫌だったなぁ」が出てきてしまう。
あの時は違和感を覚えただけだったけど、よく考えたらすごく嫌だったなぁ。
もう許したことのはずなのに、やっぱり嫌だったなぁ。
そんなふうに。
今私の目の前には、掘られたイモのごとく、繋がった色とりどりの「嫌だったなぁ」が並んでいる。
まさに芋づる式というやつだ。
埋めて元に戻したところで、またいつか掘り返して「やだったねぇ」って眺めてしまうだろうから、ここでこのイモたちとはお別れしたい。
【採れたてのイモ(嫌だったシリーズ)】
イモ①
以前職場の男性にレズビアンだと明かした時、「女同士なら綺麗だから許せる」って言われたときの「やだったねぇ」。
イモ②
さらにその前の職場の男性に、「女の子と付き合ってるの?でも、男の良さを知らないだけじゃない?」などと言われて行為を迫られたときの「やだったねぇ」。
イモ③
大学の頃の先輩に、「女の子が好きなの?でも男の良さを(略)」
……あれ?二人目……?
「やだねったらやだね」
とはいえ、こうして「嫌だったイモ」が生産されて、いつまでも心の畑に埋まっていることも、私にとってはきっと意味があるはずだ。
例えば、次に同じようなことが起きたとき、ちゃんと「それは嫌」って言えるようにするため、とか。
そういえば、そうかもしれない。
この「嫌だった」が起きたとき、私はちゃんと「嫌な気持ちになりました」って言えてない。
言えたとしても、相手に遠慮したり、『自分も悪かったのでは』と思って、心ゆくまでは言えてない。
なるほどなぁ。
目の前のカラフルなイモたちを眺めながら、『本当に嫌だったね。でももう大丈夫だよ』と言ってみた。
次もし同じようなことがあったとしても、今の私はちゃんと自分の気持ちを伝えられるよ。
今までありがとう。
そして私はイモたちを埋めるのをやめて、代わりに包丁で細切りにすることにした。
深夜の妄想クッキングの時間です。
妄想なので食材も贅沢に使いましょう。
まずイモはなるべく細く切ります。
私はクアアイナくらい細いポテトが好きです。
全て切り終えたら水にさらし、よく水気を拭き取ってからエクストラバージンオリーブオイルで揚げていきます。
紫、黄色、ピンク、水色。
嫌だった記憶からできたイモとはいえ、なかなか美しい色合いです。
決してどす黒くないのは、当時の私がしっかりとその出来事を受け止めていたからでしょう。
嫌だったけど、私は何も悪くなかったよ。
二度揚げしてサクサクになったら、カラフルな芋たちのカラフルなフライドポテトの完成です。
今までよく頑張ったね。
いただきます。