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電子計算機ですか?

まずは、最近の誤送金事件で有名になったこの条文をご覧ください。

電子計算機使用詐欺)
第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)

ここでは、かの人を、電子計算機使用詐欺罪で有罪にできるかどうかなどという法律的な見地から物を言おうなどとはさらさら考えてなくて、ただ”電子計算機”って言葉にこだわってみたいと思います。

思い起こせば、私がまだ法学部生であった頃、犯罪や刑罰を定めた刑法は、まだ「~スルコトヲ得ズ」などというように文語で、しかもカタカナで書かれていました。

その当時の法律の世界は、親を殺せば普通の殺人より罪が重くなるとする「尊属殺人」の条文がまだ刑法に存在した時代です。(先に最高裁で違憲とされていたものの、条文は1995年に削除されました。)

世の中では、電卓ワープロ(文書作成専用のコンピューター)が出始めた頃で、レポートをワープロで書いて提出できる財力のある人たちを傍から羨ましく眺めていたのを思い出します。

理系の人たちでさえ、計算尺(対数計算によるアナログ計算ものさし)の代わりにやっとポケットコンピューター(無理したらポケットに入るくらいのBASICが使えるコンピューター)を使い始めた頃です。文系の私もなぜか1台持ってました。(ゲームを作るためです。)

プログラム言語と言えば、理系はFortran 文系はcobol(現在銀行の処理系でいろいろお騒がせがあるようですが。)、入門としてはBASICが標準だったと思います。Fortranとcobolが汎用(大型)電子計算機用の言語で、BASICがPC用の言語だったかな。

もうひとつ付け加えると、誤送金事件で有名になったフロッピーディスクは、今より少し前に流行ったusbメモリーより重要な役割を果たしていて、データの他にプログラム本体も記録していました。なので、まずプログラムの入ったディスクを読み込ませ、それからデータを読み込ませて作業に取り掛かるといった手順を踏んでいました。

この時代の汎用(大型)電子計算機は、たいていビルの最上階の冷房の効いた一室を占拠していて、汎用(大型)電子計算機に作業をお願いしたい人たちは、電子計算機の入った部屋の小さな小窓から、データの入ったテープリールを「上手くいきますように。」と拝みながら手渡して、汎用(大型)電子計算機の処理が終わると、今度はデータが印字された分厚い紙の束を受け取って帰るといった感じでした。

そんな時代の法学部の講義で、刑法の教授が、電子計算機に関する犯罪を処罰する条文を追加する法案が作成中であることをお話しされていました。

まだ、尊属殺人が刑法に載っていた時代にですよ、文語でカタカナ書きのカチカチで、めったに改正されない刑法が、尊属殺人をさておいて、電子計算機の犯罪のために改正されたんです。

それほど、急を要したんです。このままでは、電子計算機に関する犯罪に刑法が対応できないとの危機感があったのだと思います。

改正のきっかけになったのは、某関西系都市銀行の行員が、コンピューターを不正に操作して自分の口座に多額の現金を振り込んだ事件だそうです。

やはり、銀行がらみの犯罪だったんですね。でも、誤送金事件とは、だいぶ事情が違うように思います。だって、不正操作なんてしてないじゃないですか。

それはさておき、電子計算機使用詐欺罪が新設されたのが、1987年。なんと35年も経っています。

35年も経っているのに、いまだにフロッピーディスクでのデータのやり取りです。もしかして銀行のプログラムはcobolかな。それでも足りているのならそれでいいのかもしれませんが。

役所は役所で、今も相変わらず、自動車税や固定資産税は、紙の納入通知書を送ってきます。これも汎用(大型)電子計算機が作ってるんでしょうね。

もしかして、35年前から時間が止まってません?

それはそれとして、

電子計算機使用詐欺)
第二百四十六条の二 ・・・電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて・・・

e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)から一部抜粋

ここのところが気になるんです。

電子計算機?

計算だけをする機械のイメージなんですよね。残高10,000円の口座に1000円の入金があったら計算して残高を11,000円にする機械ってイメージ。電子計算機使用詐欺罪ができた当時ならそんなイメージなんだろうけど、だから、虚偽の情報若しくは不正な指令を与えた人間様だけが悪いんだろうけれど、これって人間がコンピューターより賢くって、コンピューターは人間のいいなりになっていた時代の話ですよね。

今はどうなんだろう?

充分な対策がとれたはずなのに、暗号資産が流出してしまった。有名証券会社が証券を誤発注して、あわてて取り消そうとしたのにシステムの不具合で取り消せなかった。こんなの情報若しくは指令を与えた人だけが悪いんじゃないよね。コンピューターの方が賢いんだから、電子計算機のイメージみたいに計算だけをする機械じゃないんだから、コンピューターがおかしいと思ったら、人間の言うことなんか聞かないようにするとか、もっといろいろ対策とれたでしょって言われますよね。

誤送金したシステムをただの電子計算機としてではなくて、誤送金があり得ることを前提として、人間の言うこと聞かないこともありえるシステムに育てていたら、こんな誤送金は未然に防げたのかなとも思います。

今や、電子計算機が、人間より賢いコンピューターになったんだから、それくらいのことをさせたってバチは当たらないと思うのですが、いかがでしょう。

(おわり)

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