見出し画像

#3『invert-霊媒探偵城塚翡翠倒叙集』

すべてが、反転。

「すべてが、伏線。」でこのミス大賞他数多の賞を獲得した、『medium-霊媒探偵城塚翡翠』
多くの人が読後、騙される快感を味わったことだろう。
その続編が、21/07/07に発売された。
ここでは発売記念としてネタバレなし、最速(?)レビューを書こう。

著者紹介

相沢沙呼(あいざわ さこ)
『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。
その後も、橋本環奈主演で実写化された『小説の神様』や、マツリカシリーズを出版。
本シリーズの前作、『medium-霊媒探偵城塚翡翠』は2020年のミステリ賞レースを総ナメにし、著者の最大のヒット作となった。
また、マジックを趣味としており本作や過去作でもマジックのテイストを上手に取り込んだ構成が特徴。国内マジシャンからの人気も高い。

倒叙集とは

とうじょ【倒叙】
物事の時間的流れと逆の順序で叙述すること。
また、推理小説の手法で、犯人の側から供述すること。
(岩波国語辞典)

代表的なメディア作品でいうと「刑事コロンボ」シリーズや、「古畑任三郎」シリーズがこれにあたる。
倒叙の特徴としては、犯人が先に分かっているためどのようにして事件を起こしたか(いわゆるHow  done it⁇-ハウダニット)がミステリの焦点となる。
また、ぼくとしては作家としての力量が試される書き方だと思う。
犯人が探偵(若しくは刑事)に追い詰められていく心情を読者は同じ時間軸で味うことができる。これは、ただ秀逸なトリックを生み出せばよいわけではなく犯人が追い込まれる極限状態を丁寧に書かなければ、倒叙の魅力は半減するだろう。
著者はミステリ以外にもアツい青春小説も書く。微妙な心情の変化を書き切るのは、過去の実績もあり安心して読むことができる。

あらすじ

前作で美少女を狙った猟奇殺人鬼を捕らえた霊媒探偵-城塚翡翠-はその後も霊視のできる探偵として仕事を続けていた。
そんな中起こる、3つの殺人事件。
犯人は、IT企業に勤務するプログラマー、小学校教諭、犯罪界のナポレオン。
犯人側から描かれる、それぞれの事件。犯人からの挑戦とも言えるトリックをどのようにして解明していくのだろうか…。

完全に前作を超えてきている!!!

おそらく、前作を読了したかたは続編が出ると聞いてほぼ100%の人が不安に思うのではないだろうか。
実際のところぼくもそうだ。
前作のネタバレになるので詳しくは言えないが、著者の趣味のマジックを例にしていうと既にタネが明かされている状態なのだ。
タネのわかっているマジックほど、白けるものはない。

言い忘れたが、前作未読の方は本作から読むことはオススメしない。
(実際冒頭にも、前作未読の方への注意書きがある)
必ず前作を読んでから本作を読むように!!

古畑任三郎、カムバック…!!

本作はミステリ小説としてかなり“本格”を意識しているように思う。
各章の中に、いわゆる「事件編」と「解決編」が盛り込まれているが基本的に事件編には謎を解くための情報がすべて開示されている。
ミステリ界でよく言われる、読者にフェアな状態だ。純粋に物語としても楽しめるが、謎解きとしてもかなり楽しめる。

また、事件編と解決編の間に必ず古畑任三郎を模した描写がある。
とにかくこれが、かの名俳優田村正和が演じる古畑任三郎を“あえて”意識“した描写でぼくは結構ツボだった。
そして、ここまで謎解きのヒントを与えられているのに気づかなかった自分を悔やむ。

相沢ファンは特に嬉しい!!

ぼくも少しアマチュアマジシャンとして奇術をかじっているが、
奇術界からの人気が高いのも相沢作品の特徴だ。
特に、デビュー作の『午前零時のサンドリヨン』は女子高生マジシャンを主人公にした傑作で多くに人から続編を待ち望まれている。
そんな相沢作品ファンにも嬉しい描写がかなりのページをさいて出てくるので、そういった方にも楽しめる作品だ。

こんな人にオススメ

・前作を読んだ人(未読の人は注意!)
・古畑や刑事コロンボシリーズファン
・華麗にダマされたい

騙されるということについて…

ぼくは相沢先生のミステリは、ミステリ文学ではなく
『ミステリ作品の皮を被ったマジックエンターテイメント』だと思っている。
前作は、「騙された!」という感想がレビューサイトでも多く見られた。
当たり前だ。著者は完全に読者を騙しにかかっている。つまり、著者の本質はマジシャンだ。

ここで、
「騙される」
という言葉について考えてみよう。
この言葉は二面性を持つ。

例えば、振り込め詐欺にあった場合はどうだろう。
騙されたと気づいた後は、悔しく、情けなく、虚しさも感じる。
一方でマジックというのはすごく異質な場で、
マジシャンは観客を騙すし、観客も騙されに来ている。
つまり、騙すことを許されている場でもあり、騙されることを観客は認知している。

ある意味ではミステリ小説も似た構造だ。
著者はトリックを見破られないように、伏線を張りつつ描写をする。それを騙されたり、謎を解こうとする読者。
この構造をうまく落とし込んだ作品を作ったのが本作を初め、相沢作品の魅力だとぼくは思う。
ぜひそのような視点でも、読んでもらいたい。


ぼくの好きなマジック「トライアンフ」

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,263件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?