きっとこの夜を忘れられない

週末、好きなアイドルのライブに行った。

私の推しは年末で卒業が決まっていて、今は活動休止中です。だから今回のライブは出演していない。それでもそのグループのライブに行ったのには理由があった。

推しのことは本当に大好きだし、尊敬もしている。推しの生き方や言葉に救われた夜もたくさんある。推しの生み出すパフォーマンスに、言葉に、表情にきっと恋をしていたのだと思う。どんなときもキラキラしていて、メンバー思いで、ファン思いで、誰よりも「アイドル」という仕事に対して誠実な姿を見せていた推しが本当に好きだった。ううん、今も好きだよ。

推しに出会わなければ、自分がこんなにしっかりアイドルのファンになるということは無かったと思う。自分が人生の中でこんなに何かに夢中になれるなんて思っても見なかった。これは本人が活動に戻ってきたらちゃんと伝えなくちゃいけないなと思っている。絶対伝える。

そんな推しがいないグループのライブを見て、私は満足出来るのだろうかとは正直思った。年末で推しが卒業して、来年から私は変わらずグループのヲタクでいられるだろうか、そんな不安もあった。

3月の武道館の後のFCイベントはバイトだったから、帰宅してから配信で見た。それを見た時はやっぱり少し寂しかった。推しを含めた活動休止組のいないパフォーマンスは、いるはずの場所にいるはずの人がいない、推しの歌割りのはずなのに推しの歌声が聞こえてこない、それがものすごく寂しくて、パフォーマンス以外のトークやバラエティパートはたくさん見たけれど、パフォーマンスだけは繰り返し見ることが出来なかった。

それでもこのグループがアイドルとして走り続けていくのを見ていたいと思ったのはゴールデンウィークの肉フェスのステージだった。
ゴールデンウィークが終わったらすぐにツアーが始まるというのもあって、メンバーも気合いが入っていただろうし、コンディションもそこに向けて万全に仕上げていっていたというのもあると思う。もちろん推しの歌割りのはずなのに推しの歌声が聞こえないとか思わなかったわけではないけれど、それを超える「楽しい」があった。このグループのライブを見ている時にいつも感じていた「楽しい」気持ちが沸いてきて、「ああ、私は推しが好きなだけじゃなくて、このグループのことが大好きなんだ」と改めて思った。良いこと。

思えば武道館の時も二階席だからと持って行った双眼鏡をほぼ使わなかった。グループが生み出す世界観が好きだったから、だと思う。推しのことは豆粒みたいなサイズでしか見えなかったけれど、それすらも楽しかった。何度もダンス動画を観たから推しの立ち位置がどこかもわかっていたし、バックモニターでもたくさん抜かれていたけれど、上の席から見るフォーメーションとかはやっぱり新鮮で、その景色を覚えていたくて、双眼鏡はほとんど使わなかった。(一曲だけ、撮影可能の曲で推しの顔を脳裏に焼き付けるために撮影しないで双眼鏡で推しばっかり追っていたけれど)

それに推しが活動休止に入って一ヶ月経ったくらいの特典会で他のメンバーとお話したことの中で、「推しのことが好きなのはもちろんだけど、グループのみんなが大好きだからこうして会いに来ることを選んだんだよ」という言葉が自分の口から出たことも思い出した。推しがいないから価値がないなんて思ったことは一度も無かった。

肝心のライブの内容は、まだツアーがファイナルを迎えていないのもあるから中身については触れないでおく。別にネタバレ禁止ではないのだけれど、この記事を読んでセットリストのネタバレ踏んで嫌な気持ちになられても困るし……。
でもめちゃくちゃ良かったとだけは書いておく。本当に楽しかった。この曲がこの時代にこのメンバーで見られるなんて!っていうのヲタクは大好き。コール曲も泣き曲も満遍なく散りばめられていて、満足度☆5。いや☆100くらいあげたい。それくらい楽しかった。

会場を出て、駅までの道を歩いている時、ふと立ち止まって息を吸い込んだ。
今回の会場は横浜だったから、夜景が綺麗だった。このグループのライブにしては珍しく昼間は晴れていて、少し暑いくらいだったけれど、日が落ちたら涼しくなっていて、風が気持ちよかった。
熱の籠もったライブハウスの空気も心地よかったけれど、そこから出て新鮮な空気を吸い込んだ瞬間、少しだけ涙が出た。

今までもいろんなライブや舞台に足を運んだ。アイドルのライブもバンドのライブも、大きいシアターも、小劇場も行った。そういえば帰り道、楽しかった思い出を胸に駅まで歩く時間が好きだった。良いパフォーマンスを見た日は世界がキラキラして見えた。初めて特典会に参加した日の帰り道は上がる口角を抑えきれずに思わず早足になった。レスをもらえた日はあまりの衝撃に笑いながら走った。ライブが楽しすぎたあまり、無意識で一駅分歩いて帰ったこともある。

だけど泣いたことはなかった。

まだ夢を見ているみたいだと思った。楽しさと寂しさが共存している、そんな感覚だった。きっとこの夏のはじまりの夜を忘れることは一生出来ないんだろうと思った。

推しの卒業発表があったのが去年の6月。今よりももう少しだけ夏に近づいた夜のことだった。朝から何もかもが上手くいかなくて、バイトには人生初の遅刻をした。かなり落ち込んで帰りの電車に乗ってスマホを開いた時、真っ先に目に飛び込んできたのが「今後の活動について」の文字だった。
思わず小さく「うそ……」と呟いた。
なんで。どうして。推しが何を考えているのかがわからなくて、夜中までTwitterの鍵アカで繰り返し呟いた。いわゆるお気持ち表明だった。それでもなんとか受け入れなくちゃと思って、次に何か言うなら3月の武道館の後にしようと決めた。それ以来今日までこれといったお気持ち表明はしていないし、今後もするつもりもない。そして今書いているこれもお気持ちのつもりはない。時間はかかったけれど、少しずつ自分の気持ちに折り合いをつけていくことには成功した。(それでもたまに、辞めてほしくないよ~と思ってしまう時はあるけれど)

推しがいない世界を愛していけるかはそのときになってみないとわからない。でも推しがいなくなってもグループのことは変わらず大好きだと思う。推しがそこにいたという証明であり、きっとこの先も推しが人生をかけて形作ってきたものや魂はどこかで感じることが出来るから。
それにきっと、推しがアイドルを辞めて一般人に戻っても、メンバーたちとの絆は変わらないだろうなと思っている。メンバーである以前に親友だって、いつか言っていたのを思い出している。

推しが最後まで笑顔で、全力でアイドル人生を駆け抜けられますように、という祈りに似た何かで今は心の中がいっぱいでいる。

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