見出し画像

「彼女は頭が悪いから」感想

読後感が苦々しい。そして怖い。
東大生強制わいせつ事件をモデルにした小説。
加害者は東大生と東大大学院生5人の男子学生。
逮捕者が出て事件が報じられると「東大生と親密になりたい勘違い女が優秀な東大生の将来を台無しにした」と被害者側の女子大生がネットバッシングに遭うという……
で、さらにその後バッシングした側が批判されたという。
私はこの事件をあまり知らなくてネットニュースで少し読んだ程度だったけど、実際その一連の現象が起きたであろうことは容易に想像できる。
ネットユーザーでありツイッターユーザーだから。

小説を読んだ限りでは「悪質なヤリサーじゃん最悪すぎて引くわ」と思うんだけど、何故か被害者がネットリンチされるんですよね。
勘違い女どうこう言ってるのはどうせ普段からなんJとかで女叩きしてるチー牛だろと単純に思ってしまうけど、そんな単純なもんじゃないんですね。
まずそれより先に、加害者とその親たちが最後まで分かってなくて怖い。
東大に入るような頭脳を持ってるのに最後まで素で分かってなさそうなのが怖すぎる。
『あんたネタ枠ですから。だれも、あんたとヤリたいなんて思ってませんでしたから』のくだりも、いやそういう問題じゃないからとしか言いようがない。
話通じてなさすぎて。
才媛は少しでも人間らしさを取り戻してくれたらいいですね。

東大生も慶応大生もお茶大生も身近にいないから、そういうのが少し滑稽に見える点がいくつかあった。
東カレの世界の人たちには日常なんですかね。
でも東大生に限らず、こういう『自分より格下と認定した相手はどれだけバカにして嗤ってもいい』と思ってる人は実際いる。
もしコミカルに寄せた作品だったら彼らの傲慢さ思い上がりっぷりを姫野節で痛快に斬ってくれたのかな。

それはいいとして、東大生協でベストセラーになったんですね。
東大生の反応が気になる。
世間では東大生全員が全員高校まで陰キャ極めた痛い大学デビューだと思ってるわけではありませんので……
同級生たちが勉強以外の楽しいことに夢中になっている間に努力した人を私は尊敬します。

アマゾンレビューで低評価つけてる批評に「主人公を純粋で清廉な処女として持ち上げすぎてて気持ち悪い、被害に遭ったのがそうじゃない女だったら同情できないとでも言いたげで気持ち悪い」という旨のものがあったけど、なんかずれてると思った。
姫野作品のヒロインとしては珍しいタイプではあると思いますが。

最大に恐ろしいのが、「どうせ女が東大生狙いだったんだろ」と誰もが思ったかもしれない、誰でも加害者になるかもしれないというところなんですね。
ゲス心で追及したくなる、誰かを悪者にして叩きたくなるということに身に覚えがあるので……
読後感が胸糞と言いましたが、ラストに少しだけ救いがあります。
三浦紀子教授のような存在がすべての被害者の近くにあればいいのに。
この小さな救済があったから辛すぎる展開も最後まで読めたと言える。

まったく関係ないですが、「桑田佳祐のやさしい夜遊び」でビクターの小野朗氏(東大卒)が『小野ちゃんは青学とかバカにしてるもんね?』とちょいちょいいじられるのを見て、冗談交じりでも多少なり確執はあるんだろうなと思ってしまう私です。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?