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【活動紹介】手仕事を生かした共生の場作り~特定非営利活動法人アーツ&クラフツビレッジ~

 様々な社会のニーズ・課題に取り組むNPO法人や、コミュニティ活動に積極的に関わっている団体の活動をご紹介します。
 今回は、岡山県北部の美咲町にある廃校を再利用し、木工や染織の工房活動を行いながら、国内外のアーティストの活動場所の提供、障害のある方への支援、田舎暮らしを学ぶ活動など、様々な取り組みを行っている「アーツ&クラフツビレッジ」についてお届けします。

(アーツ&クラフツビレッジはどのような団体ですか)
 『アーツアンドクラフツ運動』とは19世紀末から 20世紀初頭にかけて、イギリスを中心に繰り広げられた運動です。世界に先がけて起こった産業革命によって、工業化が進み、中世から続いてきた手仕事が隅においやられ、人々は農村から都市へ労働者として出て行き、技術の進歩は生活の物質的豊かさ、便利さとともに労働の喜びを奪い、自然を破壊し、公害をもたらしました。こうした流れに反して、生活に美と労働の喜びを求める人たちが、『手仕事の復権』を唱えて、アーツアンドクラフツムーブメントという運動を起こしました。デザインだけでなく、当初から環境保護運動や地域福祉とも結びついた社会運動でもありました。
 アーツ&クラフツビレッジはこのアーツアンドクラフツ運動の精神を今に受け継ぐべく、木工作家の長尾泰典と染織家の原田豊美によって、1992年に岡山県美咲町の廃校を再利用し、家具と染織の工房として設立し、約30年間活動してきました。この間 、国内外の多くの若者に活動場所を提供し、障害を持った人々への木工や染織の指導も行ってきました。近年は過疎化がさらに進み、耕作放棄地や空き家も目立つようになり、工房活動だけなく、ルーラルスクール(田舎の学校)を開き、田舎暮らしを学ぶ活動にも取り組んでいます。

写真1ロケットヒーターベンチのあるアーツ&クラフツビレッジのカフェスペース(家具等は全て手作りです。)

(法人を立ち上げようと思ったきっかけは何ですか)
 今回、法人化するに至ったのは、これまで約30年間、個人工房として実践してきた活動をさらに地域に定着させ、次世代に継承していくために、社会的にも認められる公的組織にしていくことが最良の道であると考えたからです。私たちが目指す活動が、営利目的でなく、地域や社会に役立つものであり、多くの市民に参加していただくことが不可欠であるという点から、特定非営利活動法人格を取得することを考えました。
 現代社会において、アーツアンドクラフツ運動が示した問題点はさらに深まっています。生きづらさを感じている全ての人々、とりわけ心身に障害を持つ人、高齢者、こどもたちが、安心して暮らせる社会を実現するため、自然、芸術、工芸を軸に、新たな生き方を学ぶ場所として、必要な事業を行い、地域福祉、地域生活に貢献するとともに、地域に根ざした都市交流や、国際交流を通じた豊かな社会づくりに貢献することを目指します。
 
(現在、どのような活動をしているのですか)
 最初の事業として、アーツ&クラフツビレッジの本館の隣にある旧保育所だった建物を手作りで改装し、4月1日から就労継続支援B型事業所あなぐま舎を開所しました。
 名前の由来は、あなぐまの棲む豊かな自然に恵まれた里山で、工芸家も障害者も地域の方々も共に生きることができる共生の場をつくっていきたいという思いからです。

写真2あなぐま舎メンバー(校庭のサクランボの収穫)

 まだ利用者は少ないのですが、自然に囲まれ、木工房や染織工房が隣にある利点を生かして、一般的な内職はせず、手仕事と農作業を軸に、楽しい仕事をしていこうと模索中です。校庭にあるサクランボを収穫してジャムを作ったり、エルダーフラワーのお花や梅の実を摘んでジュースを仕込んだり、野草を摘んでお茶を作ったり、小さな畑も利用者と共に作っています。仕事はアーツ&クラフツビレッジの家具工房、染織工房から個々の利用者の特性にあった手仕事の作業を請け負い、工賃を得ています。
 山間部なので、送迎は必須です。またランチは事業所内で手作りしています。自分たちや地域の人が育てた野菜を中心に、良い調味料を使い、美味しいランチを食べています。見学やボランティアのお客様が一緒に食卓を囲むことも多いです。まだまだ利用者は少ないのですが、これから仲間を増やしていきます。

写真3校庭に現れたあなぐまと猫

 もう一つの事業は、自然、芸術工芸に関わるワークショップの開催および講師派遣活動です。今年はアーツ&クラフツビレッジの周辺に生い茂る蔓性の植物、葛から糸を作り、布にするまでを学ぶ葛布ワークショップと、兵庫県赤穂市で続けられている伝統工芸の絨毯、赤穂緞通から生まれた座布団、赤穂ギャベの技法を学び、織り手を増やすためのワークショップの二つの活動に取り組んでいます。葛布ワークショップは本場である静岡県大井川から大井川葛布の村井龍彦氏に岡山まで来ていただいて、行います。
 アーツ&クラフツビレッジ周辺にたくさんある葛、生い茂って迷惑がられている葛の蔓を採集し、ススキで作ったムロで発酵させ、前の川で洗い流し、美しく白く輝く葛の繊維を取り出す作業は、この地にあるものだけでできるエコロジカルな仕事です。取り出した葛の繊維を、さらに割いて、特別な繋ぎ方で糸にしていき、織り機で織って製品にします。技術を習得できれば、今後あなぐま舎の仕事としても取り組んでいきたい考えです。 

写真4前の川で葛を洗って白い繊維を取り出す作業

赤穂ギャベワークショップも、幕末から続いたコットンの手織り座布団の技法を次の世代へ繋いで行く意義を兼ね、材料であるコットンの細い糸を合糸といって、糸巻きで12本に束ねていく作業をあなぐま舎で行っています。
 今後はグリーンウッドワーク(機械を使わず、生木を使って手仕事で家具や小物を作る)のワークショップなども行なっていきたいと思っています。
 
(コロナ禍での活動の苦労や発見などはありますか)
 4月1日にあなぐま舎がオープンしたのですが、コロナのため、相談事業所や福祉関係の事務所がクローズまたは面会できない状態が続き、利用者を増やすための営業活動が出遅れました。6月下旬以降やっと訪問活動を開始することができ、ホッとしています。
 ワークショップも対面での開催には、様々な問題があり難しいので、非対面での開催方法を考えていきたいところですが、ITやデジタル機器に強いスタッフがいないことが、今後の課題となっています。
 これまでいつも滞在していた海外からのボランティアが、コロナで今年は途絶えたことも寂しいことでした。

(今後の抱負、活動の目標はなんですか) 
 当面の課題は立ち上げたばかりのあなぐま舎の利用者を増やし、経営を軌道に乗せていくことです。法人設立が昨年末12月24日、その3ヶ月後の今年3月末に就労継続支援B型事業所の指定が下り、4月1日からあなぐま舎の開所という怒濤のスピードで事業が始まりましたが、やっとスタッフも日々の仕事に慣れてきたところです。6人いるスタッフもアーツ&クラフツビレッジ内や近くに住んでおり、仕事だけでなく、生活も共にする面もあり、豊かな自然を生かした共生の里、地域との関わりをもっと増やし、住みやすいコミュニティづくりを目指していきたいと思っています。
 公共交通が不便な山間部ですが、岡山、倉敷市内はもとより、関西圏、広島など遠隔地からも訪ねてくる方々があります。農村と都市の交流、また海外との交流もコロナ後は期待しています。

(自由にアピールをどうぞ!)
岡山県北部、美咲町にあるNPO法人アーツ&クラフツビレッジ
染織工房、家具工房、就労継続支援B型事業所あなぐま舎があり、様々な活動に取り組んでいます。
ぜひ、一度遊びにおいでください。
(来られる場合はメールで事前予約をお願いします)
〒709-3407 岡山県久米郡美咲町中3090
【Mail】npo.acv@gmail.com
【HP】  https://npo.arts-craftsvillage.com

【編集:山岸沙智夏(岡山県県民生活交通課)】

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