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今はもう高校生じゃないけれど 柿喰う客の『変身』(2015)を観た

22歳、高校生どころか大学生でもなくなってしまった演劇ソムリエ いとうゆうかです。

今回は、YouTubeで「高校生のための演劇プロジェクト」として2015年に上演された、柿喰う客の『変身』を観ました。タイトルにリンクを貼っておりますのでこの時点で興味のある方はぜひ飛んでください。私の記事を読むのは二の次で大丈夫です。


この作品はYouTubeで観ていただけるので、極力ネタバレなしの観劇レポートを目指します。


この作品は、カフカの『変身』を原作とし、中屋敷法仁さんが構成・演出を手掛けています。

とはいえ、最初からカフカの物語が始まるのかと思いきや、その予想は裏切られます。高校生にとって絶対に馴染みのある「あの作品」と「あの作品」がドッキングしているのです。みんな大好きなあの2作品。現役高校生もそうでない人も、みんなが共通理解できる作品たちなので誰しもテンションが上がるはず。

こういうときに、教育の重要性を感じますね。教養がなければ理解できない芸術も娯楽もこの世にはたくさんある。逆に言えば、教養があると世界の色んなことを楽しめるんですよね。だから学ぶことは自由になるためのチケットなんだと思います。


また、約50分という上演時間も工夫が光るところ。50分と言うと、高校生の授業1コマと同じくらいです。ちなみに、高校演劇の大会も上演は1時間以内と決まっています。こういったところから、演劇体験の有無を問わず、「高校生のための」という点に特化していることが分かります。

この、「演劇体験の有無を問わず」というところも非常に大事なこと。演劇が好きな少年少女は、創り手がアプローチしなくても良質な作品を求めて劇場に足を運ぶ。けれどもそうではない高校生たちにとっては、手軽で身近な娯楽など他にもたくさんある。そういう層にこそ「こういう芸術をやってる人もいるんだ」って知ってほしい。知らなきゃ好きか嫌いかも分からないまま。

今でこそ「演劇ソムリエ」とか名乗っている私も、最初の演劇体験によって、演劇に対する苦手意識はかなり固まってしまった(くわしくはこちらを聴いてみてください)。だから、少年少女の感受性に対するリスペクトを忘れない創り手を評価したい。


キレキレの照明とそこに浮かび上がる3人の俳優の身体が物語を織りなすというのは、映像にはない体験だと思う。俳優が吐く言葉のシャワーを浴びて、観客は想像力を働かせる。観客が能動的に世界を作っていけるのが演劇の醍醐味。全て提示されていて、分かりやすいことだけが価値ではない。


高校生って、大人と子どもの狭間で、特にアイデンティティの確立に苦しむ時期かと思います。現実の受け止め方に悩んだり、進むべき方向はどこなのか考えたり。そういう感受性が繊細な時に、未知の文化に触れることは本当に大事だと思います。それでさらに悩めばいい。青春時代に悩み考えた結果出す答えは、その後の人生においても財産になります。

もちろん、年齢を問わず「自分とは何か深く考えたい人」「超現実な世界に耽りたい人」「初めて演劇を観てみたい人」におすすめです。

『変身』は常時公開されていますが、同劇団が5/6(水)まで期間限定公開している『いまさらキスシーン』と『美少年』も要チェック!



〈おまけ〉

カフカの『変身』ストーリーを久々に思い出した22歳の感想。未だに宙ぶらりん、なのに大人と呼ばれる年齢になってしまったな。名作とはいえ、未見の方には是非先に上演を観るなり原作を読むなりしていただきたいので以下に隠しておきます。個人的な本音。

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