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2020/10/15『真夏の夜の夢』@東京芸術劇場

2017年に佐々木蔵之介さん出演の『リチャード三世』を観て、プルカレーテさんの演出にただならぬ衝撃を受けてから3年。初日を観たいと思ってチケットを早くから取っていました。だってこのプルカレーテ演出でメフィストが登場するなんて聞いたら観るしかないでしょ。幕が上がって本当に良かった。

(このツイートはこのチケットを取った時のものでした)

公演情報は公式にて。

ネタバレは極力なしにしたかったのですが、色々と自分のために残しておきたいことが多すぎるのでちょっと書いてしまうかも。未見の方は要注意です。

実力派の俳優陣

今回、席は前から2列目の下手側。どうしても観たくてプレオーダーでチケット取ったから、自分で座席指定した訳ではないんですけどね。

普段は割と舞台全体を俯瞰できる位置を取ることが多いので、舞台から近くて、大劇場で表情をこんなに堪能できるのが久々でした。観る場所によって違う楽しさがあるのも、舞台の魅力の一つですよね。

それもあって、今作で一番印象に残ったのは、何と言っても今井朋彦さん演じるメフィストフェレスの妖しさと存在感でした。

『リチャード三世』でも艶のあるマーガレットを演じられていて、その時も本当に素敵だったのですが、それとはまた異なる面を目の当たりにして、この方が演じることのできる役柄は無尽蔵に広がり続けるのだと圧倒されました。

人の形はしているけれど、人ではない。悪魔という奇妙で不思議な存在であることを、演技の絶大な説得力を以て観客の心を撃ち抜く。

敢えて風変りなイントネーションをつけた台詞回しや不敵な笑み、予測不能な挙動は悪魔そのもの。

本当に凄まじい俳優さんだなと改めて実感。

また、今井さん演じるメフィストと対になるパックを演じる手塚とおるさんも流石の一言。

惚れ薬のくだりで事件を巻き起こす張本人であるパックが、今作ではメフィストによって振り回される側になっています。そんな不憫な感じも愛すべきキャラクターとしてキュートに演じられていました。

あとは、鈴木杏さん。初めて生で彼女の演技を観ましたが、第一声で明らかにそこいらの女優とは違う気迫を感じて一気に引き込まれました。些細な仕草や台詞に凄みをまとっている。今月のNHK「プレミアムステージ」で彼女の一人芝居『殺意 ストリップショウ』が放送されたのを録画しているので、ますます観るのが楽しみになりました。

『真夏の夜の夢』×『ファウスト』?

相変わらず奇想天外な野田秀樹さんの潤色にも、良い意味で裏切られ振り回される。

『Q』(2019)も、同じくシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を主題にした作品でありながら、どうしてそれと「QUEEN」と「源平合戦」が出会ってしまったのか?という衝撃がありました。

今作は、『真夏の夜の夢』に加え、『ファウスト』と日本の割烹料理屋、そして『不思議の国のアリス』までも盛り込まれています。

ちょっとやりすぎでしょ、と思うくらい盛りだくさんのオマージュ。物語に何層にも及ぶ下敷きを敷くことで、さまざまな角度から畳みかけられるメッセージ。シェイクスピアも翻案の天才であったことを鑑みれば、むしろまっとうなやり方とも言えます。

設定が割烹料理屋である必要性に関しては、個人的にはあまりないと思ったのですが、意図が明確にあったのかもしれません(それなら私の読解力不足です)。

盲目な恋と勘違いによるドタバタの末、大団円で幕となる原作に対して、人間の良い部分も悪い部分も炙り出してしまった本作では、表面上事件が収まりめでたしめでたし、の結末にもどこか仄暗さが漂う。

人間関係もコミュニケーションも複雑化した現代では、一筋縄ではいかないのが常。そんな世の中の観客にとっては単純な結末じゃ物足りない。だから何か引っかかったまま帰り道に悶々と考えさせられるのがいい。

その他舞台を構成する要素たち

その他の要素で書いておきたいことは、まずはヴァシル・シリ―さんの音楽。『リチャード三世』の時もそうでしたが、鋭く脳髄を貫くような、本能を揺さぶるような音と旋律が魅惑的。不穏で鮮烈で、物語にスパイスを添えます。

また、衣裳やメイクや照明などの視覚的要素もキッチュでいい。

白塗り、ビニールの洋服、カラフルになったりモノトーンになったりする色彩。超現実的で、舞台という空間でしか成立しないと言っても過言ではない世界が繰り広げられます。

映像に関しては、大画面に登場人物の顔が映し出されたり、映し出された人物の大きさが変化したりと、文字通り枠に囚われない表現方法を可能にする。

映像を多用すると、動もすると安っぽくなりそうなんだけど、それを上手く調和させるのがプルカレーテさんの手腕かな。


総じて、プルカレーテ演出が私は大好きなので、また観る機会があったらいいのにな、と思います。

いつか彼のホームであるシビウ国際演劇祭にも行ってみたい。五感をフルに使って味わえる日が来ますように。


詳細にストーリーを記している記事は他にもありますので、もっと知りたい方は一読してみてもいいと思います。もちろん、実際に観ることをお勧めしますが!


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