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私たちの日常の地続きにアリエルが存在する実写版『リトル・マーメイド』

実写版映画『リトル・マーメイド』が公開される少し前、アリエル役のハリー・ベイリーがカリフォルニアのディズニーランドで「Part of Your World」を歌う映像が公開されました。在宅勤務の合間、昼休みにご飯を食べながら何気なくこの動画を観たのですが、素晴らしい歌声と表現力、そして「確かにそこにアリエルがいる」 という感覚に思わず涙が溢れてしまいました。
アニメーションの焼き直しではなく、今この世にアリエルが実在したらこんなヒロインなんだろうな。人間界に対するただの“憧れ”ではなく、自分は違う世界に飛び込みたいんだ、という内に秘めた意志の強さがある、地に足の付いた(人魚なので足はないのですが…)ヒロインなんだろうな、ということが、このたった3分半ほどの動画からひしひしと伝わってきました。

それからずっと映画公開を楽しみにしていて、遂に観てきたので、その感想を残しておこうと思います。ハリーの歌声が聴きたかったので字幕で観てきました。音楽好きなので、主に音楽の観点からの感想です。
それぞれの曲について書いている箇所に公式YouTubeの映画内映像の動画も貼っているのですが、まだ映画を観ていない方は動画は観ずに、まずはぜひ映画館で楽しんでいただきたいです。映画館の方が何倍も感動します…!

原曲よりキーを上げた「Part of Your World」

映画が始まって最初の歌唱は「Part of Your World」です。元々上記の歌唱映像を観ていたのですが、映画館の大きなスクリーンと良い音響で聴くのはまた別格の没入感で感動しました…
この「Part of Your World」、アニメ原曲よりキーが1つ、つまり半音上がっています。アニメ原曲の方は穏やかな歌い方で、高音も声を張るというよりは裏声っぽく歌っている感じですが、今回のハリー・ベイリー版はキーが高く、高音もしっかり声を張って歌っています。ハリーの良さが活きる音域と歌い方なのかもしれませんね。
このような歌い方の違いがあることで、原曲は「憧れ、諦め」という印象なのに対して、今回はもっと差し迫った憧れや意志の強さを感じました。
ディズニーが過去のアニメ作品を実写化する時、時代に合わせて、登場人物たちに生い立ちの背景や細かい人格を加えているように感じます。実写版『アラジン』のジャスミンが、かなり自立したヒロインに描かれていたことも強く印象に残っています。
今回の実写版『リトル・マーメイド』でも、ディズニーはアリエルの地に足の付いた意志の強さを表したかったんだろうな、というのが、この「Part of Your World」一曲だけ見てもよく分かりました。
ディズニーの『リトル・マーメイド』はアニメと今回の実写版の他にミュージカルもあり、私は劇団四季のものを観に行ったことがあります。ミュージカルはアニメをかなり忠実に踏襲していて、アニメの世界のファンタジー感、非日常感を舞台で直接感じられるのが醍醐味ですね。余談ですが、「Part of Your World」の日本語歌詞は元のアニメ版より劇団四季版の方が、リズムと歌詞が合っている気がして私はより好きです…!あとミュージカル版のオケはストリングスが原曲よりドラマティックになっている感じで、それもすごく良いです。

アニメやミュージカルがファンタジーや非日常を重視している感じがするのに対し、実写版はやはり現実味を重視しているように感じます。時代設定は現代ではないものの、私たちの日常の地続きにキャラクター達が存在しているような、そんな感覚をディズニーの実写版からは感じます。「非日常で気分転換」というより、「自分も明日からまた頑張ろう」と思える、そんな実写版となっていて、勇気をもらえます。

1オクターブ音が上がる「Part of Your World(Reprise)」

こちらは王子を助けた後にアリエルが歌う名シーンですが、曲の最後に原曲にはない1オクターブの跳躍があります。これがまた、高音を地声で張って歌うハリーの良さを引き出していて大感動でした…散々書いているように、ここでもアリエルの意志の強さが強調されています。

最高のエンタメ「Under the Sea」

めちゃくちゃ凄かったです。曲が終わった時、映画館であることを忘れて拍手しそうになりました。公式YouTubeで動画が上がっていますが、映画館で観る方が500倍は感動しますので、ぜひ映画館で観ていただきたいです!
元々世界中でたくさんの人々に愛されているこの曲、音楽の素晴らしさはもちろん、リアルなCGで描かれたたくさんの海の生き物たちが一緒に踊っている描写が圧巻です。「良いシーンを作るんだ」というディズニーの覚悟や気概を感じましたし、ディズニーのクリエイティブは世界一だな…とこのシーンを観て実感しました。

生き物たちが可愛くほっこりする「Kiss the Girl」

魔法のためにアリエルとエリック王子をキスさせようと、セバスチャン、フランダー、スカットル達がムード作りに奮闘しながら歌う「Kiss the Girl」は、生き物たちの可愛さが引き立てられていて、物語の中で随一のほっこりシーンとなっています。ハラハラするアクションシーンとの対比で、物語に緩急がつきますね。ついでにエリック王子も可愛かったです。アニメのエリック王子は爽やかイケメンという印象でしたが、実写版のエリック王子は頼れるリーダーでありつつ可愛らしさもあり、王子の品格というより一般人っぽさがあり、親近感の湧く人柄でした。エリック王子も映画ならではの生い立ちや人物設定がされていてメッセージ性を感じますので、まだ観ていない方はぜひエリック王子にも注目して映画を観てみてください。

とにかくラップが格好いい新曲「The Scuttlebutt」

今回の実写版では、アニメでの楽曲に加えて新曲となるオリジナル曲が3曲加わっています。その中の一曲がこの「The Scuttlebutt」です。Scuttlebuttとは噂、ゴシップというような意味で、スカットルが「エリック王子が結婚するらしい」と伝えに来る楽曲となっています。スカットルとセバスチャンによる早口のラップ調の楽曲なのですが、めちゃくちゃ格好よくて印象に残りました。スカットル役のオークワフィナも、セバスチャン役のダヴィード・ディグスも元々ラップをやる方々なので、本人たちの持つ個性を生かしつつ、他の楽曲とは違う魅力を持った楽曲として、劇中の良いアクセントとなっています。
公式YouTubeには英語版に加えて、各国の吹替メンバーがリレー形式で歌う20言語バージョンも上がっているので、そちらの動画を貼っておきます。ディズニーの吹替はいつも世界中でしっかり雰囲気が統一されているのが凄いですよね。

最後に

今回の実写版『リトル・マーメイド』、キャスティングに賛否両論ありますが、私はとても楽しく観て、感動しました。特にしがらみを感じずに観ることができるのは、私がこれまで生きてきた中で問題を感じず、良くも悪くも能天気に過ごしてこれたからなのだろう、と実感しました。エンタメ作品としてこの映画を純粋に楽しめる環境にいることに感謝しなければ、と思います。
私は学生時代に20年ほどクラシックバレエをやっていました。白人文化で生まれたクラシックバレエは今では世界各国に広がっており、白人キャラクターを、日本人含む白人ではない人種が演じることが当たり前の環境に身を置いてきました。そのため、今回の実写版『リトル・マーメイド』を観てもキャスティングに対して特に何も思うことはなかったのですが、バレエのような文化に触れていない人の中には、元々のキャラクターと違う人種が演じることに違和感を感じる人も多かったのかもしれません。日本の作品も海外で実写化され、日本人キャラクターを欧米人が演じるようなことも増えていると思うのですが、「プリンセス」という概念が人々のイメージに浸透しているのもキャスティングの難しさを高めているのかもしれません。
「バレエをやっていたのもあって、キャスティングに違和感を感じなかった」と言いましたが、一方で日本人バレエダンサーが世界で差別にあう話も度々聞きますし、一朝一夕でどうにかなる問題でないことも分かります。私自身、言葉は乱暴ですが「実力で黙らせればいい」と思うタイプで、今回のハリー・ベイリーはまさに批判も跳ね除ける圧倒的な実力の持ち主です。内容には納得いかない、という方も、せめて音楽の素晴らしさを純粋に楽しんでもらえたら…そんな風に願っています。

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