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柳宗悦からデザインを学ぶ「立場なき立場」【designer’s values deck #001】

世の中のさまざまな知見を通して、デザイナーとして大切にすべきあり方を考えてみる「designer’s values deck」。柳宗悦の「立場なき立場」を通して、立場、わかりやすさ、説得力、本質、ロゴデザインを考えてみる。


本質から目を逸らさないための「立場なき立場」

「立場なき立場」は柳宗悦の「工芸の道」の中で取り上げられている言葉だ。(これ以外にもデザイナーとして、自分のあり方を考えさせられるとても学びの深い文章だった。)冒頭で柳が、自分がどのような立場から考えているか、前提としてを語った言葉が「立場なき立場」である。

“立場なき見方というが如きは無意味であるか。そこにはなお哲学的疑義を挿む余地が充分に残る。なぜなら「立場」は畢竟一個の立場に過ぎないからである。多くの立場を同時に選ぶことは許されていない。だが多くの立場のうちの一個であるなら、そこに絶対値はなく、相対的意義に終るではないか。一つの権利主張ではあっても、権威とはならぬ。だが権威なくしてどこに真理の至上性があろうか。立場より、さらに徹底したものは、「立場なき立場」というが如きものではないであろうか。”

引用 : 柳宗悦 (1928).工芸の道

僕らは物事を理解する時、何かしら自分たちの中にある考え方と結びつけて理解する。それが分かるための助けになるし、説明する時にも、分かりやすさにつながる。きっと立場抜きに物事を考えるのはすごく難しい。

一方で立場をはっきりさせることで見過ごしてしまうこともたくさんある。ベタベタな話だが「ウサギとアヒル」の絵がまさにそうだろう。

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出典:https://commons.m.wikimedia.org/wiki/File:Duck-Rabbit_illusion.jpg

ウサギであると言う立場を取ると、それはすごくわかりやすいが一方でアヒルにも見えるという事実を見失ってしまう。それはわかりやすさを得るために本質から目を逸らすことだと思う。

難しいのが「これはウサギである可能性とアヒルである可能性があります」と言う人より、「これはウサギである」と言っている人の方が、一見説得力があるように思えてしまうことがよくあると言うことだろう。僕らはわかりやすいことを選びがちだが、そこには抜け落ちている部分が幾らか含まれていることによくよく注意しないといけない。

柳は、立場なき立場を実現するのは直感だと言っている。(柳の言っていることからは少しずれる気がするが)例えばある立場から見ていたときに「当てはまらない場合もあるなぁ」とか、「違和感があるなぁ」みたいな感覚を大切にできるかどうか、ということな気がする。
ただ現実にはウサギであると言っていた人が、アヒルでもあると認めることは案外難しい。立場が変化する人に対して、一貫性がないから信用できないという判断をしてしまうことも多い。それがいくら本質を捉えていたとしても。


デザインに結びつけて考えてみる。

デザイナーとして物を考える時、わかりやすさを求めてデザインの立場に縛られすぎないことが重要だと思うことがよくある。

例えば、どこかの企業のロゴをデザインしようと言う時を考えてみる。
デザイナーとしてはよく、

デザイン表現として面白いか
オリジナリティがあるか
競合と差別化ができているか

と言うことが主な議論になりがちだ。これは世の中一般にも同じことが言えて、「ダサい」とか「別のロゴに似ている」みたいなことばかりが評価の基準になりがちだ。

一方で、行動経済学的な立場から考えて見ると、オリジナリティーが高すぎる表現が果たしてエンドユーザーに受け入れられるものになるのか?と言うような疑問も出てくる。
マーケティングコミュニケーションの立場からすると、デザイン表現として面白いことが、かえって企業の普段の姿と食い違って一貫性や信頼感を貶める可能性もある。
他にも戦略の観点、インナーブランディングの観点、ビジネスモデルやら再現可能性やら視認性やら考え出すと切りがない。

ひとくちににデザインのクオリティと言っても、どこにその尺度を置くかはすごく難しい。

デザインの立場により過ぎると本質を見失いがちだが、一方で、じゃあ全く立場を抜きに議論できるか?と言ったら、あまりに問題が複雑すぎて、どこから考えていいか分からない。議論ができない。だから良いデザイナーであるために大切なのは、「立場なき立場」から物を観れるかどうかであるように思える。

デザインの判断軸以外にどれだけ有効な軸をたくさん持っているか。
あまりに単純な結論が出た時に、違和感を感じ取れるか
議論のしやすさや、提案の説得力だけを求めて問題を単純化しすぎていないか。

そんなことがデザイナーとして大切なことだと思う。

今回のvalus deck

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