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詩:赤方偏移の彼方の鯨

燃え尽きた恒星が
シュヴァルツシルト半径を超えて
己を呑み込み

漆黒の穴である
星の鯨に成り果てる

鯨の口に落ちるものは
事象の地平線に踏み止まったまま
永久に落ち続ける

落ちたものは次第に赤くなり
そして暗くなって口の中に消える

銀河をまとい 星の海を彷徨う鯨達は
時々ぶつかり合い 喰らい合う
星々の悲鳴を撒き散らしながら
互いをすり潰しあって融合し
更に大きな鯨になる

そうして成長した末
果てしない時の果てに蒸発する巨大な鯨

そしてまた
巨星の崩壊と共に生まれる小さな鯨

そうした鯨達を 見る事は出来ない
それは数字の上や
重力の歪みや
電波の叫びなどから
微かに浮かび上がってくる影でしかない

それでも 赤方偏移の彼方の鯨は 確かに存在する

目に写らなくても
数式に否定されても
星々を呑み続ける
星の鯨達の歌声は響き続ける

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