ひっぱるもの

一話目。

まずは自分の体験談を書こうと思う。これは僕がこの気まぐれな投稿をはじめようと思いついたきっかけとなる話だ。

最初の投稿日、2021年2月15日。まさにこの日の未明に起きた出来事である。

昨夜、私は深夜12時頃に床についた。疲れていた訳でもなく、ましてや無性に眠気を感じていた訳でもないが、明日(厳密には今日)の仕事に備え、早く寝ようと目を閉じて横になっていた。

ふざけたもので寝ようとすればするほど眠れないものである。それでもいろいろと考えごとを巡らすうちに睡魔が訪れる。意識や思考は比較的明瞭なのだが、体は眠っているようで動くのがすごく面倒に感じる状態になっていた。

目を閉じてからどれくらい経っていただろうか。不意に部屋の中、頭の上の方で、はっ、と人が息をするときの音が聞こえた。僕は鈍感な性格で、たいていは気のせい、あるいはただの「物音」で済ませてしまう。だがなぜか私はふと誰何の声をあげたくなった。深い考えはない。ただなにも答えがないことを確認したかったのである。

「誰だ」そう言おうとしたのだが、声が出ない。声帯が思うように機能しない。声を出そうとする意識や発声のための動きははっきりしているのだが、現実に「だれ」の音が出せないのである。

「あ…え…」振り絞るようにかろうじて声らしきものを出す。何度も挑戦し、四度目くらいにようやく音らしきものが出た。

その瞬間である。掛け布団がすごい勢いで頭の上に向けてひっぱられた。「え?」腕が掛け布団との摩擦で体の上の方にひっぱられる感覚と、頭が布団の中に入ることで息苦しくなった感覚を鮮明に覚えている。その瞬間は怖さよりも「なぜ?」という疑問が先に沸き起こった。まるで頭の上のベッドの下に布団が引きずる形でひっぱられている感覚である。

「はっ!」
覚醒した。体が動く。
私は掛け布団を頭からかぶるかたちで寝ていた。
先程の出来事が現実だったのか夢だったのか、違いが分からないが、息苦しさと腕の布が擦れたような感覚が残っている。
腰から下がむき出しになるくらい、掛け布団はずり上がっていた。

今まで金縛りにあった経験は何度かあるが、このような経験ははじめてであった。

この家で体験した、不思議な出来事はこれだけに留まらない。些細な、本当に些細な体験、夢現と現実の境が分からなくなるような体験が何回かある。

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