見出し画像

ゼネコン設計者が、家を買い、リノベし、住んで、売って、次に行く話

つい先日の話、僕がリノベーションの設計をした僕の家が売れた。

丁寧に言うと、中古マンションを購入し、リノベーションをして、一定期間住んで、売却に出し、買い手が見つかった、というのが今の状態。

2019年に初めて物件を購入して今に至るから中々激しいスピード感。もちろん当初からこうなることを想定してたわけでは全くなかったから、引越だの、売却の契約手続きだの経験したことのないバタバタの状況を乗り越えてようやく一息つけているところだ。

なので、まだ記憶が鮮明なうちにこれまでの経緯をひとしきり書き連ねておこうと思った。

というのも、「中古マンションの選び方」とか、「こんなリノベーションをした」とかそういう記事はまぁ少なからずあると思うのだけど、物件購入のきっかけから、リノベを経て、売りに出すまでを横断して書き連ねるのは中々ないと思っている。僕の備忘録的な意味と、これから中古マンション購入や、リノベに挑戦しようとしている方に、少しでも何かの足しになればと思い、個人的見解を書く。

みなさんそれぞれのフェーズがあると思うので、自分にあったパートを読んでいただければ幸いである。多分、相当長くなるから。

1.きっかけ 自邸を作り続けるビジョン

元々こういう活動をしてみたいと思った一番最初のきっかけは、
「自分のデザインを自分の全責任において作りたい」という極めてシンプルな想いだった。

自分は建築設計を専門にしていて、普段は竹中の設計部に勤めている。
入社してからずっと10万m2を超えるオフィスを連続で担当し続けてる。いわゆるビックプロジェクトというやつ。

会社での仕事にもちろん誇りはあるし、到底自分一人では関われないような経験をできているのは大前提だけど、

会社での仕事はいい意味でも悪い意味でも、いち中堅社員が責任を負い切れないと感じている。

守られてるからデザイン的挑戦ができる一方、先輩、上司、またはその上、さらにその上との協業やチェックによって様々な決定がなされる。もちろんそこにはたくさん学習があるし、発展があるし、きっかけは自分でも、思いつけないようなデザインに昇華される幸せな環境であることは間違いない。

ただ、それとは全く異なる世界線で、会社員ではなく、個人の活動として挑戦をしたい、するべきだ、できる、と考えたのが今回のきっかけだった。

しかしそこには大きな問題がある。個人の活動しようにも、超シンプルに「そんなプロジェクトなんて存在しない」ということ。
個人としてなんの実績もない僕に、パッとクライアントが現れる訳がなく、僕のやりたいようにデザインをさせてくれ、なんてそんな虫のいい話あるわけもない。

待ってても好転しないんだ、って去年30歳を迎える時に気付いた。
ならば背負えるリスクを背負うしかない。

プロジェクトは自分で仕込む。クライアントは自分、デザインも自分。

建築家においてそれは一択。自邸しかない。

自邸という実績をさっさと残す。自邸なんて一生に一つじゃなくたっていいと思っている。ローン組んで35年間住まなきゃいけない道理もない。家族構成も変われば必要となる間取りだって変わる。30歳の時住みたい家と、家族を築いて45歳で住みたい家は全く別の様相であるべきなのは言うまでもない。

「中古マンションを買い、自分でリノベーションの設計をし、一定期間住み、ライフスタイル、家族構成が変わったら売る。それを原資に次の家。」

描いてみれば誰でも思いつくようなあほみたいな話だけど、実際にこのビジョンがぼんやり浮かび始めたのが、実際に物件を選び始めた頃だった。

なので今回30歳で作る自邸は、自邸であり、自分をプレゼンできるショールームとする。SNSでどこからでも発信し、伝えられる時代。建築的・空間的に魅力的なモノを作れれば、今後建築家として僕にプロジェクトを頼む人が出てくるチャンスに繋がるはず。

そして、ゼネコンに勤めていればそれなりの与信がある。逆に言えばそれは僕のバックグラウンド。ゼネコンに勤めるんだね、ってちょっと冷めた目で見てきたゴリゴリアトリエ出身の教授などなどにエルボーかます意味でも、自分のバックグラウンドを活かしきるいいチャンスとも言えるのではって思った。

追い風のようにデフレもデフレ。どうみようにもインフレに転がる機運は感じられない。銀行は金を貸したくてしゃあない。超低金利は少なくともまだ続くだろう。

あとは、なんの実績もない僕に対してプロジェクトを頼む人は皆無なのは言うまでもないけど、僕が作った、その場にすでにあるモノに対して、それを気に入り、買いたいという人は必ず居るだろう、という無根拠な気持ちもあった。

…という感じで、きっかけとして勢いや覚悟はそれなりにキマッてたわけだが、当然数千万の人生最大の買い物。おいそれとノリで決められるわけがない。

次では物件選びについて書き連ねたい。

2.物件選び 建築家×ミニデベロッパー

さて、具体的な話に入り込んでいきたい。

この自邸プロジェクトは、リノベーションによってインテリアを素敵に作り込むことはさることながら、同等か、もはやそれ以上に不動産でスベらないことがスーパー重要となることは言うまでもなかった。

ひたすら建築設計や意匠に従事し切ってた自分にとっては、これが一番の大きなハードルであるし、おそらく多くの人が賃貸から中々抜け出せない要因であると思う。

みんな当然自分のデザインしたいけど、それをやらないのは、単純な話、不動産がよくワカラナイからで、すごく未知で、加えて胡散臭さが充満した領域だからと感じる。

この不動産領域はめちゃくちゃ大事な、建築デザインとはもう一方のベクトルである。

この「やりたい自分の建築デザイン」と「不動産価値」の両睨みが出来ないと「自邸を作り続ける」スキームは成り立たないと思っている。
建築家とミニデベロッパーのようなスキルの橋渡し・往復が不可欠となる。
これはどっちが欠けることも許されない。

どんなにいいリノベーションをしたとして、それはハコのガワにすぎない。築何年・徒歩何分・坪単価いくら、という抗えない不動産価値がまず最低限抑えられているかは大前提となるし、逆にどんなに不動産的諸元が良くても、内覧時にその空間に住みたいと思えないと何にもならない。

六本木や恵比寿に、立地にあぐらをかいた残念クソ物件は山ほどある。まさに両睨みが必要なのである。

で、僕がどのように物件を選んだかと言うと、とにかくsuumoとの睨めっこ、内覧の嵐だった。
地道だけど相場感掴むにはそれしかない。少なくとも向こうから営業かけてくるようなワンルームマンションに答えは100%無い。

内覧数は10~15くらいだった。言うてもそんな多くないと思う。
最初はそれこそ不動産的価値にウェートが乗った港区系をsuumoで身漁っていたけれど、内覧して肩を落とす事がしょっちゅうだった。「こんな仕上げでこんな梁型ボコボコで狭くて暗くてこんなたけぇのかよ…」港区をディスってるわけではなく、自分が背伸びして選べるくらいの相場感のマンションは少なくともそんな所ばっかりだった。

少しエリアを変えて、というのを繰り返し、2019年の後半についに三宿近辺にて中古マンションを購入した。


ちなみにsuumoの検索ではJRと東京メトロの徒歩10分圏内、東京都心で西側を中心にしながら割と広く探してた。

見つかった三宿の根強い人気エリアは渋谷駅から一駅で徒歩10分圏内、また築20年いかないので、リノベ界隈からしたらまだ築は浅い方。60平米弱で、当時の住宅ローン控除適用ギリと言った所。最終的な価格交渉での指値も大幅に受け入れてもらえたので、不動産価値の総合アベレージとしてはかなり高いのではという自己評価。

上記、不動産的価値を抑えた上で、僕が決め手としたのは2つの要素だった。

・天井高さ2700mm
リノベでまず見て欲しいのは天井高さ。(もしくは上階のスラブ下端高さ)不動産は残念なことに床面積でしか価値を計らないイタイ領域だが、空間的にもっとも重視すべきは気積と僕は思う。日本の中古マンションで見慣れた2400前後の天高からすると2700なだけで全てのプロポーションが全く違って見えてくる。リノベーションでは触れない所で、もう僕のリノベーションは始まってるワケだ。
言わば、建築を建てる敷地が公園に面してるか、まちづくり条例がかかってしまってるか、埋設物がないか等、新築からすればそう言う要素に似てくる。

・吹き抜け、螺旋階段、ルーフバルコニー付き
「ちっちゃい頃からの憧れ★」というシンプルな理由。

なので、不動産諸元の総合点を高くキープするのを確認した上で、ほぼ空間の祖型にひとめぼれのような形で購入を決意した。

まだ僕は一つしか買ったことがないので偉そうなことは言えないが、もし物件選びで悩んでいる人にアドバイスするとすれば、断言できるのは、完璧な物件など存在しないということ。

絶対的に気に入ったという一要素で決めたりとか、マイナス要素だけど目をつむれる範囲を自分で決めておくべきと思う。

面倒くさい購入事務手続きをしていくと必ずマイナス要素に出くわす。その難関をクリアしていくためにも、「イイ」と思った一要素に購入するだけの価値があるか天秤にかけるくらいのシンプルさで決めた方がいいと個人的には感じている。

もう少し待てばいい物件が出てくることは確かだし、それは何年後になるか分からないし、もうすでに市場に出てるかもしれない。そんなこと言えばキリがない。ある程度の「いてまえスピリッツ」が無いと何もことは前に進まない。一番大事になるのは物件を見定める目と決意力だと思う。

3.リノベ設計編 仕事から帰ってきて設計

さて、ここからが一番やりたかったお楽しみゾーン。デザインの話だ。
そもそもの物件選びや、家族構成やライフスタイルの変化に応じて自邸を作り変えるビジョンの中で、「30歳の子供のいない夫婦」いわゆるDINKSだからこそ挑戦できる空間にしたいと考えていた。

設計期間は約4か月ほど。フルリノベーションでない一室の設計からしたらかけすぎなくらいだろうと思うが、

そうは言っても平日は22~24時くらいまでは仕事をしていて、仕事から帰ってきてから「おっしゃもう一勝負」という感じなので大目に見て欲しい。初めての住宅の設計というのもあったので、余裕をもって設計期間を設けていたと言ってもいいのかもしれない。ヒーヒーだったけど笑

天井高さ2700mmを生かし、螺旋階段とトップライトからの光が明るい空間を作るという既存とのコラボレーションを考えた時に思いついた間取りは豊かなワンルームだった。

二人暮らしで一方が仕事で家にいない、ということも多い。そういう時に最大の気積として豊かに空間を感じられることが重要と考えた。

しかし、日頃会社で行っているどデカいオフィスの設計とは建物のスケールが全く異なり、1/50でA3にすっぽり入るのには感動する一方少し怖気づくこともあった。しかし、これで自分の作品が残せると思うとこんなに嬉しいプレッシャーもない。

中々自分が持っているだけの知識だけでは、、というところもあり、友人のツテや、先輩のつながり、webから直接、など駆使して工務店さんを決めていった。

最初はハードラインにもせずスケッチでの概算を3社にお願いをした。フルリノベーションでなく、部分リノベーションだったので、全体価格は500万で考えていた。このくらいの価格だと、忙しいと言ってまともに取り合ってくれない可能性もある。なるべく早くに工務店さんをフィックスしたかった。

2020年の初めには工務店さんがスムーズ決まった。決め手になったのは、

「工務店さんが図面を引かない=図面代を取られない」        

「現場管理費のパーセンテージ」                  

「HPの他の作品クオリティ。(デザイン的な取組に対して乗り気な土壌か)」

以上三つである。相見積をとったはいいが完全に一択だった。
↓お世話になった工務店のルーヴィスさん。

実際最初に出てきた見積は500万を目標にしていたのに1000万近い見積になってしまったので、まったくコスト感のないゴミくそ設計者丸出しだったのだが、2週に一度くらいの工務店さんとの打合せと日々のメールやり取りを通じて色々教えてもらいながら、いじっていくところの要素を絞っていき、プランのリアリティを上げていった。

きめ細かい設計の話は本当に積もり積もってしまうので、後ほどポートフォリオを載せる。

4.リノベ工事編 壊して初めてわかる

さて、コストも何とか500万で入るだろうとまとまってきたところで年度初め頃に現場が着工した。

今回の計画の場合、風呂・トイレ・キッチンは変えない部分リノベーション(築がそこまで古くないのでまだまだ十分使えると判断した)だった。どこを壊す、どこを残すの判断は解体着工時にするから、実質最終的なプランの大枠は決まっていないといけない。

解体すると、また仕事の時とのギャップに驚かされる。

仕事は新築を取り扱っているので、当然通り芯からの追い出しで物がとりつく位置を決めていくが、今回の場合、僕が管理会社さんから取り寄せた建物竣工図を基に、ある程度実測を加味しながら作図して設計図としており、

当然解体すればその内法の寸法が初めて露わとなり、多少のズレが生じてくる。

それに現場見てみて初めて気づくこともたくさんあり、「あぁ!こうできるではないか!」とかいう発見がたくさんある。

そういうのを現場の中でスケッチして、工務店さんに伝達して、ということも多々あった。

これまた仕事だったら現場着工して契約図として握ったモノを変更するハードルは中々パワーのいるものだが、建築主兼設計者である故、それなりに融通は利く。あとは工務店さんとの相談だけだ。その辺のダイレクトな調整、全決定権が自分にあってプロジェクトを回せる面白さがあった。

当然うまくいったことばかりでなく、作り付けの棚の扉の軌跡が排気口のチリに当たってしまうーとか、

フローリングの割付をどこから開始するか、というまだ決めてないと思っていたところがもう施工始まってしまっていたーとか、

経験がないから故のミスはチリツモである。こればっかりはしょうがない。。場数を踏んでいくしかないとすごく実感したし、最終的なクオリティに大きく問題になるようなことが無かっただけ良かった。

ただ職人さんとダイレクトにやり取りできるのですごく楽しく幸せだった。

モルテックスの左官の度合とかはわざわざ施工を土曜日にしてもらって張り付いて確認しながらやらせてもらったし、

部分リノベならではな、既存の壁ラインと同面で見せるためのパテさばきなど、プロセスを間近で見られたのがかなり楽しかったし、血肉となる知識となった。


5.住む 自邸=自分を売り込むショールーム

何はともあれ完成し、引越を完了させた。

建築学科に入り設計を学び始めたころからぼんやり描いていた、「自分で設計した家に住む」夢がリノベであるにはせよ叶った形である。

率直に嬉しいし、家にいるひと時ひと時が充実感に溢れる気持ちがあった。こればっかりは言葉にしづらい。QOL爆上り!とか言ったらすごく安っぽく聞こえてしまうのだけど、そういう感覚に近い気はしている。なんとも言い難い幸福感。

しかし、僕からすればここで終わりではない。いかにこの家を、つまりは僕を売り込むかが重要になる。

まず作成したのはポートフォリオ。この辺は慣れっこ。爆速で仕上げる。
デザイン的な話はここに集約されてるので、今回は触れません。

このようなポートフォリオをとにかく思いつく限りのいろんな媒体に送り倒した。結果的には打率は3割程度かと思うが、本当にありがたい話いくつかのメディアで取り上げてもらうことができた。その中でも一番大きな影響力を持っていたのがarchitecture photoさん。掲載された瞬間に色んな友人から反響があった。

ただ、自分でもビビるほどの快挙・奇跡だったのはArchDailyの掲載だった。

こういうのは掲載申請フォームがHP右上とかに乗っているから、タダだし精神で、乗ればラッキーでめげずに送り続けることをお薦めする。

後はやっぱり嬉しかったのは紙媒体。数少ないリノベーションに焦点を当てているLiVESさん。しかも表紙を飾れたのは快挙以外の何物でもない。

リノベーション雑誌にありがちな「暮らし」ばかりを撮るのではなく、「空間」を撮ってる、僕としてはとても嬉しい取り扱い方をしてくれている。

こういったシーンではなるべく「竹中工務店設計部 伯耆原」で押していった。自邸を作る、という目的もさることながら、個人名を売っていくことも僕の中でかなり大きな意味を占めている。

ゼネコンにおける設計者の職能もどこまで担保されているか、いつまで会社に必要としてもらえるか分からないと僕は本気で思っている。もはや調整者じゃないかって思うことだって多々ある。いつだっていなくなれるように助走は開始しておくべきだろう。(だけどそうするとローン組めないのよね、というジレンマ。)

こうしてどうにか自邸プロジェクトそのものを自分のショールームとする目的を果たすことができたと思っている。

1番最初のやりたいきっかけだった、自分でやったと胸を張って言い切れる作品を作り、個人の名前を、ある程度世に出すことができたという意味では、本当に決意して行動して良かったと思っている。


6.売る リノベで価値は上がったか

さて、また話が不動産側に戻る。すごくドライに人格を変える必要がある。じゃないと僕はデザイナーじゃなくなってしまう。

竣工して数ヶ月、コロナ期間も真っ只中だった。中々働き方改革にメスを入れられないゼネコンといえでも、流石にそうも言ってられず、在宅勤務がかなり取り入れられるようになってきた。夫婦共に同じ会社である故に、在宅のタイミングもどうしても被ってしまうので、どうにも手狭を感じざるを得なかった。

そして最初相談したのが「カウカモ」というツクルバさんがやっている中古マンションの販売サイトだった。

半年くらい住んだ段階だったので、最初売る気は毛頭なかったのだけれど(あかんやん)、カウカモのサイトはとても素晴らしく物件のプレゼンがされていて、そのサイトに乗れることの反響もすごかった。

なので少し話を聞いてみよう、というところから売却の話が出てきた。話を聞いていると、価格設定は売主ができて、まだ手放すのは少し寂しいけど、様子を見たいということであれば相場より強気に設定してみればよい、というラフさがあった。

実際、建築のプロが自分のリノベを見て空間としてどう思うか、というのももちろん気になるのだけれど、建築を専門にしていない一般の方々がどう思うのか、すごく気になるところがあった。

というところで、反応を見るためにもとりあえず売りに出してみようとなったという経緯だ。

そこから実際内覧者は30組を超えるほど来て頂き、ほぼほぼ毎週土日対応をした。正直、バリくそ面倒くさかった。この曖昧な気持ちでの売り出しはあまりお勧めしない。良かったことと言えば、毎週家が片付くことくらい。

60㎡のワンルームという特殊な間取りであっても、これだけのリアクションが得られるんだ、ということ、そして、内覧は来るけど買いはしない、というのも分かった。

また、振り返ってみると夫婦よりも単身の方が多い。やはり夫婦となるともう一部屋欲しいというリアルな意見がどうしても出てくる。一人暮らしならこの間取りは最高。問題はお金だけ。というのが浮き彫りになってきた。

そしてそこからまた約半年がたち、在宅勤務が夫婦共に定着し、本当に自分達も手狭を感じてきてしまった。もう一部屋欲しいな…と切に思い始め、価格も見直したところで買主さんが現れた。

実際、僕のリノベーションによって価値は上がったのか、本当のところそれは分からない。というのも、どんなリノベーションをしようとも、ガワが新しくなればその分の価値は上乗せできるものである。「僕が」やったことによる価格の上り具合は不明だ。ベースは立地・築年数など不動産価値で評価されている。

デザインによって価値が上がった、Archdailyに掲載されたから付加価値がついた、とデザイナーとしては思いたいところだし、なくはないと思うが、全てデザインのおかげというのは建築家のエゴだと僕は思う。

ただ、結果的にはインテリアをすごく気に入ってもらえたし、買主さんがここに住もうと決意する後押しになったことは間違いない。指値をしたことによって相場より安く買って、僕がリノベしたことで相場より高く売ることができたのは事実だ。(これは調べれば誰でもわかることなので)

上がったことは確かだが、「僕がやった」ことによる上りっぷりは不明。というのが率直なところだ。


7.買う 2件目へ挑戦

世話しなく話を進めてきたが、ようやく最終ステップとなる。しかし、ここもやっぱり重要だ。

そう、次の自邸の話である。

自邸を建てる人自体は、ゼネコンに務めていようが何だろうが、ある一定数いる。それは一生に一度しかないご褒美のようなプロジェクトとして取り扱われている。しかし、最初でも言ったように、35年間そこに縛られる必要はないと考えている。という意味で、自邸を複数やる人はそうそういないのでは、と思うから、僕の場合、次が重要だと考えている。次を果たしてようやく僕はオリジナルに向かえる気がしている。(たくさん別荘持っている人は別ね…笑)

コロナによる劇的な変化があったので思ったよりピッチ早く、本当にバタバタで大変だったというのはあるものの、逆に捉えてみればそういうチャンスを今回得たと思っている。

もう一回、自邸を作る。次は、夫婦ともに書斎があり、今後家族構成やライフスタイルが変わっても対応ができる追従性を持った広い家が良い。

ということで実は既に購入を進めている物件がある。


一歩も止まらない。イケイケどんどんですよ。無事に決まると良い。

今度はフルリノベーションに挑戦することになる。今回部分リノベーションからのステップアップとしていいと思ってはいたが、仕事の作業量との兼ね合いで言えば完全に負担増ではあるので、自分で自分の首を絞めまくりだ。例えば仕事でコンペなどのピークと重なればこの活動は流石にキツいし、現業を疎かにすることは絶対にしてない。これは胸を張って言える。あくまで僕のサイドワークだから。

数万平米のオフィスと数十平米の住宅は同じ設計と言えどもプロセスからアプローチから何から何まで全く異なる。その何から何まで異なる事を同じ時間軸で両輪考えることは、相当脳みそに刺激を与える。「何を横道逸れてるんだ」と言われてしまうかもしれないが、オフィスを住宅的に考えたって良いし、住宅に都市を入れ込む視点はいつだって欠かせないと思うワケだ。
物事はそんな単純でないことは僕が一番分かっているつもりではあるが、そんな挑戦をしてみたい。

まぁ建築主兼設計者であるので、そういう現業との兼ね合いで無理が過ぎれば竣工を延ばせば良い。自分が納得のいくいい物を作ることが大前提。乞うご期待。必ずまた世に出せる物に仕上げて見せる。


8.まとめ

相当長くなってしまったけどようやくまとめ。

こういう話をしていると儲かった儲からない等の話が最重要として扱われてしまいがちだし、多くの人の興味がそこにあるのは重々承知なのだけど、

僕の場合、元々のモチベーションが「自分の作品を残したい」というところにあったのが重要なことだったのかなとここまで書いて気付いたりしてる。

つまり、賃貸で暮らしていたときに支払っている額分くらいは総じて支出となったとしても、「作品が1つ残せるなら全然いい」という精神で始まっている、ということ。

マイナスになるのは流石に家族の了承も得られないし、引越の負担含めて何やってるのってことになるから、最低限の不動産価値を抑える、というのは2章で書いた通りで、最終的な出口がどうだったかは6章の通りである。

正直まだまだ書ききれないことはたくさんあるのだが1万字の大台が見えてきてしまったので最後に。

リノベーションが単なるガワを綺麗におしゃれにすることとして超商業的に扱われている今のご時世に対して、すごく嫌気がさしてる。あくまで金儲けのためにしょうもなく目も当てられないリノベをしたマンションに建築を知らない素人が大金を支払っている状況が今だと思う。(それが本当に素敵と思っているならもう何も言いようもないのだけど)

既存の特徴を見極めて活かし、解体によって取り剥ぐことで見えてくる鬼気迫るような空間として生まれ変わらせ、確固たる「建築」に昇華させることが僕の目標だし、そんな物件が増えれば、せせこましい東京のマンションの中で豊かな気持ちで暮らせる人も増えるのでは、と考えたりもする。…というかいつか新築やりたいのだけど。

自分の作品を残すことがそういう外とのつながりや僕の役割になれればそんな嬉しい事もない。これはまだまだ先の大きな大きな目標だったりする。

以上、ゼネコン設計者が家を買い、リノベし、一定期間住み、売る話でした。ここまで長々とご清聴ありがとうございました。

何か深掘りしたいことなどありましたらDMでも何でもください。

フォロー・いいね、何卒宜しくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?