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腹ペコと鉄器の意外な関係性〜鉄器の与太話〜

腹が減っては戦はできぬ。
昔からある有名な言葉ですね。お腹が減ったら何も手につかないじゃないか。そりゃそうだ。

人間に限らず、生物は生きている限り腹が減ります。
機械だってそうです。燃料がないと動きません。
つべこべ言う前に飯を食え」というのはウチの家訓です。今考えました。

飯がなかったら人は死にます。
それを利用した戦術として「兵糧攻め」というものも考案されました。
でもほんの200年くらい前までは、別に兵糧攻めされなくても、ちょっと作物が不作になっただけで餓死者が続出していたんです。
なんで?そりゃ農業技術(や食糧の保存技術、輸送術)が発展していなかったから。
200年前でそれなんですから2,000年前なんてもう人がバッタバッタ死んでいきました。

飯の量は大事です。人の集団は「まかなえる飯の量まで」しか大きくなれないからです。
10人分の席しかない隠れ家的レストランに30人で予約したら張り倒されますよね。
地球上70億人が暮らせているのは、「少なくとも70億人分以上の飯が毎日安定供給できているから」なんですね。

じゃ、飯はどうやったら増やせるのか?
今の時代は分かりませんが、古代の時代についてなら、僕は分かります。
「鉄を上手く扱えるようになればいい」のです。

・テツ×メシ?

「鉄を上手く扱えるようになるとメシが増える」って、そんな「風が吹けば桶屋が儲かる」的なこと言われても分かりませんね。
これから説明していきましょう。

そもそも、なんで古代の環境ではメシを食いっぱぐれたのか考えましょう。
ずっとず〜っとむかし、古代ローマよりもずっと昔の紀元前1万年くらい前までは、基本的にはメシのアテというものは毎日地面から生えてくる作物とか、そのへんをぶらついてる小動物がメインディッシュになったわけです。
毎日ハンティングに出かけてメシをとってくるわけです。
獲ったど〜!」って言っても最近の若い人には通じないか。まぁそういう世界です。

それが、紀元前1万年前くらいに、大革命が起こりました。
「メシを毎日取りに行くって、効率悪くね?」と気付いたわけです。天才かよ。
ならどうするかというと、「生えてる葉っぱとかちっこい動物とか獲ってきて、俺らの家の近くで育てればいいんじゃね?」となったようで、この頃から狩猟採集生活から農耕牧畜を中心とした生産経済に移行するわけです。
これを食料生産革命といいます。大革命です。

でもこの頃は人類皆等しくその道ゼロ年のド素人ばっかりでしたから、めっちゃくちゃ苦労しました。
まず、土を耕すとか、水をまくとか、そういったことにたどり着くまでに数千年かかりました。数千年ですよ、数千年。キリスト復活してから今までの流れを2回くらいは繰り返せるくらいの時間が過ぎました。

で、天水農業(雨水だけで農業)から灌漑農業(川から水路を引いて農業)に至ったのが、大体紀元前6,000~5,000年くらい前。
これだけでもめっちゃくちゃな進歩でしたが、それでも全然メシは取れませんでした。
麦の粒で言うと、一粒まいたら2~3粒取れるかな?くらい。
もう全然ごはんがない。ランチバイキングなんて王族の夢だった。

で、これがいつ進歩したかと言うと、地域差はありますが、中国だと大体紀元前500年頃〜紀元前400年前くらいの間だったと言われています。
ここで何が起きたかと言うと、「鉄を使った農具が普及した」んですね。
ようやっと冒頭の話に戻れた。苦節1万年。長かった。

なんで鉄を使った農具が普及すると農業の進歩なの?」って言われそうなので、素人ながら農業について首を突っ込もうと思います。
さて、農業で大事なのは、「土を耕す」技術です。
土の表面の部分だけではまだ栄養が乏しく、奥の方に浸透しているので、上手くこの栄養分を混ぜっ返して均等にしてやる必要があるわけです。

で、この耕すという作業、意外と大変です。
これまでは木製の農具を使っていたわけですが、それだとどうしても軽い!
軽いから土に上手く刺さらない、刺さらないから地面の奥の方を上手く表面と混ぜ返せない!混ぜ返せないから栄養が上手く行き渡らず、作物があまり育たない、となるわけです。

ここで鉄の農具の登場です。
鉄の農具と言っても、木の農具の刃先に鉄をつけただけなのですが、それだけでも土を混ぜる能力が大幅にアップします!
深いところまで掘れるから栄養のある土を表面まで持ってこれて、そのお陰で作物がパワーアップできるわけですね。

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ヨーロッパでは中世にこのような変化が起きたのですが、このとき、食糧の生産量が3倍にもなったと言われています。
鉄の農具を使えるだけで、夕飯の量を3倍にできるようになったわけです。

・テツ×メシ×ヒト?

ここで冒頭のお話に戻りましょう!
一瞬だけ話に出しましたが、人の集団って「メシの量までしか大きくなれない」わけですね。
ここで食糧の生産量が増えた増えたと言っていますが、これにはどのような意味があるのかというと、単純に考えれば、集団が許容できる人数が増えたわけです。

機械が登場したのはここ数百年でしかなくて、それまでは「国力=マンパワー」であったわけです。
つまり、人数が増えるということはそのまま生産力がアップするということにつながってきます。
これまでは人手不足から出来なかった作業にまで手が回るようになってきたわけですね。

更に、これまでは中々余ってこなかった、仮に余ってもちょっとした飢饉で吹き飛んでしまった食糧が、だんだんと余るようになってきました!
余った食糧はどうなるのかというと、売ればお金に換えることが出来ます。
余らせた食糧それ自体がそのまま資産として評価されるようになったわけです。

これは貨幣経済が一層発展するための契機となりました。
誰もお金を持っていないと経済は回りませんが、食糧が余るようになってみんながある程度お金を持つようになり、社会全体の経済的なレベルが大きく上昇したわけですね。

・まとめ

ここまで見てきたように、「鉄の発展」が、「食糧を増産」させて、更に経済にまで影響を及ぼしました。
このように、鉄を上手く扱えるようになるということは、たしかに人類史に大きな意義をもたらす出来事だったわけですね。

世界史や日本史の教科書で意外と見落としがちな社会史、農業史、技術史ですが、ここに隠されている意義は実はかなり重要だったりします。
これをしっかりと抑えておくと、政治史や文化史を覚える際の助けとなるかもしれないので、覚えておきましょうね!

ライター:布施川天馬

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