新しい時代のフリーランスの「暮らし方」を考える
家具・家電付きで1週間から住める「NOW ROOM」
川崎駅近くに「slash kawasaki」というホテルがある。その一階はレストラン兼コワーキングスペースになっていて、快適な空間なのでよく利用している。
先日ここで仕事していると、偶然にも数年ぶりの友人と再会した。同じくフリーランスである彼は、「今はNOW ROOMっていうサービスで、このホテルに1週間滞在しながら仕事してるんだ」と言った。「1週間も?」なんだか、楽しそうな働き方をしている。
そのとき初めて、「NOW ROOM」という興味深いサービスの存在を知った。
NOW ROOMを利用すると、マンスリー賃貸、ホテル、民泊、ゲストハウス、シェアハウスなど多様なタイプの部屋から好きな場所を選んで、最低1週間から住めるという。期間は1ヶ月でも半年でも2年間でもいい。マンスリー賃貸からも選べて、かつここまで長期で借りられる点が、Airbnbやホテルのサブスクとは異なる特徴だ。
他にも、こんな特徴がある。
・1週間〜、1万円台/週〜で住める
・家具・家電付きで身ひとつで暮らせる
・部屋探しから入居、支払いまで手続きはオンラインで完結
・審査が通りやすい
・ホテル/ゲストハウス/シェアハウス/マンスリー賃貸など全国31万室以上掲載
家具・家電付きだから、必要最低限の荷物だけで、気軽に長期滞在が可能となる。マンスリー賃貸であっても、敷金や礼金がかからない物件も多い。
HafHやADDressに代表される宿泊系サブスクといい、この賃貸プラットフォームのNOW ROOMといい、近年「泊まる」「暮らす」系の新しいサービスが色々と出てきて面白いことになっている。働き方の変化は以前からあったが、コロナ禍でその流れは加速した。そして働き方の変化は、暮らし方や生き方の変化とも密接に結びついている。
とくに、基本的に出社する必要のないフリーランスにとって、これまで物理的な制約といえば「対面でのミーティング」くらいのものだった。しかし、もはやミーティングすらオンラインとなったのだから、どこでも働けてしまう。ということは、どこに暮らしてもいいのだ。
「旅を仕事に」から、「転々と暮らしながら働く」に
4年前のフリーランスになった当初は、「旅を仕事にするんだ」と意気込んでトラベルライターを名乗っていた。好きなところへ旅をして、好きなように文章を書いて生きていきたい。そういう憧れがあった。だが、長く継続するのは難しかった。旅費は自腹だし、原稿料も微々たるもので、旅をすればするほど赤字になった。おまけに、2週間旅行に出かけても、当然その間の家賃はしっかりかかる。
やっぱり、旅を仕事にするのは難しい。けれど、NOW ROOMについて調べながら、「あの頃と状況は変わっているのではないか」と感じた。
もし、家賃を払いながら定期的に1〜2週間の旅行に出かけるくらいだったら、いっそのこと、賃貸を引き払って、その分浮いたお金でNOW ROOMを利用して、住む場所を変えながら働いてみるのもありなんじゃないか。
現在の働き方について考えてみると、旅のエッセイを書くこともあるけど、オンライン取材をして旅とは無縁のインタビュー記事を書くことも多い。オンラインだから当然どこからでも取材できるし、原稿もまた、長崎だろうが札幌だろうが、パソコンさえ開ければ場所を問わず書ける。
だからもはや「旅を仕事に」と意気込まなくても、全国各地で転々と暮らしながら働ける。「暮らし方」や「働き方」そのものが旅のようになる。ライターに限らず、フリーのデザイナーやプログラマーなど、そうした働き方が可能な人は、今やかなり多いのではないだろうか。
いつもとは異なる街に泊まる楽しさ
コロナ禍になり、ほとんど都内から出られていない。今年も全然旅行ができないまま9月に入り、ぼくの心と身体は新しい刺激を欲していた。
「そうだ、気分転換に都内のホテルにでも泊まってみようか」
先日、ちょうどHafHがキャンペーンをしていたので入会し、9月に3ヵ所のホテルに泊まることにした。
最初は、麻布十番の「THE LIVELY」というホテルに泊まった。
麻布十番駅から地上に出て、飛び込んできたケヤキの木のある広場がどこかヨーロッパ風で、かつて南フランスを旅していたときの街角の記憶を呼び覚ました。
そのすぐ近くのカフェのテラス席には、外国人ファミリーが談笑している。そんな光景を見て、さっそく非日常感に包まれた。やっぱり場所を変えるのはいい。新しい刺激に脳が活性化され、良いインスピレーションが湧いてきそうだ。
街を歩いていると魅力的なお店がたくさんあるが、1泊では3軒くらいしかお店を回れない。次に麻布十番に行ったら絶対これを食べよう、というお店が既にいくつかリストアップされた。この辺りに住んだら楽しいだろうな。1週間でも2週間でも余裕で楽しめるだろう。夜や早朝の街を歩くのも、やはり泊まるからこそ味わえるものだった。
そして先週は、渋谷の「ザ・ミレニアルズ渋谷」というホテルに泊まった。
アートな空間に心が躍り、コワーキングスペースもあって仕事は捗った。この日とくに忘れられなかったのは、ランニングウェアに着替えて、代々木公園や国立競技場、外苑前と10kmのランニングをしたことだ。緑がいっぱいで本当に気持ちが良かった。
渋谷はよく来るのだが、普段はランニングしようという発想にはならない。だが、渋谷に泊まれば、荷物を置いて身軽な格好で走れるし、帰ってきてすぐシャワーを浴びられる。これこそが泊まることの良さだなと実感した。
ちなみに今調べたら、「ザ・ミレニアルズ渋谷」もNOW ROOMの物件として登録されていた。ここに1週間滞在したら、中目黒や広尾、三軒茶屋など、毎日いろんなコースでランニングできて楽しそうだ。
「宿泊」ではなく「滞在」することの良さ
HafHは引き続き使っていくつもりなのだけど、より長く滞在することで、また異なる楽しみ、異なる暮らし方を味わえるだろう。
思い出すのは11年前の夏、ベルギーを旅していたときのことだ。古都アントワープで泊まったホテルのおばちゃんに、いきなり怒られたのだ。
「このホテルに泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」
「空いているわよ。何泊したいの?」
「1泊です」
と言った瞬間、おばちゃんの目つきが変わり、怒声を浴びせられた。
「あなた、どうしてアントワープにたったの1泊しかしないの! この街には素晴らしい美術館がいくつもあるし、味わうべきものはたくさんあるのよ? たった1日でこの街の何がわかるっていうのよ! 最低でも3泊は必要よ。まったく、typical Japanese(典型的な日本人)なんだから!」
ゲストである自分が怒られるとは。日本では考えられない衝撃の出来事だったが、言われたことには納得できた。
さらに大きな心境の変化をもたらしたのは、海外添乗員時代の体験だ。
ヨーロッパのひとつの街に長期滞在するツアーがあり、ぼくは添乗員として同行する機会に恵まれた。そしてオーストリアのインスブルックでは計40日間、フランスのストラスブールでは計45日間過ごした。
今でもそれぞれの街の地図が頭に入っていて、現地での様々な思い出、人々との温かい交流を振り返ると、まるで「第二の故郷」であるかのような感覚がある。よく訪れていたカフェには馴染みの店員がいて、挨拶を交わすだけで居心地がいい。1泊の場合と1週間以上滞在することとの違いは、「街に馴染む」という感覚を得られるかどうかなのかもしれない。
また、慌てて観光する必要もないから、その日の天候や体調に合わせて出かけることができる。身軽な格好で、鉄道やバスでの日帰り旅行も楽しめる。陶器の絵付け体験をしたり、農家訪問をしたり、ワインの産地を訪ねたり、運河沿いのサイクリングをしたり、観光名所巡りとは異なる奥深い体験ができた。疲れたら、ホテルや街のカフェでゆっくりしていればいい。
そういう過ごし方を体験したことで、ぼくの旅のスタンスはガラリと変わった。フリーランスになってからは、できるだけひとつの国や街に長くいようと心がけるようになった。台湾は3週間かけて旅したし、ロシアでも2週間滞在した。そしてアメリカではサンディエゴのシェアハウスに住んで、3ヶ月間を過ごした。いずれも忘れられない思い出だ。
同様の過ごし方が、今は国内でもやりやすくなったということだ。ライターの仕事も、コンサルの仕事も、どちらも場所に縛られない。だから、いろいろな土地に滞在しながら、仕事をしてみるのもいいなと思っている。
単にいつもと違う土地で仕事ができるというだけではなく、その街で過ごすことによってインスピレーションを得たり、その土地での出来事を記事に書いたりと、どんどん可能性が広がる気がする。
たとえばNOW ROOMでこんな物件を見つけた。
北海道の小樽に、クラフトビールを飲めるビアバー「OTARU TAP ROOM」があるのだが、なんとそこに滞在できるらしい。日中は小樽のカフェで原稿を書き、夜はここでクラフトビールを飲み・・・なんて妄想が膨らむ。しかも今なら直前セールで月54,000円。1週間プランでも16,200円と安い。
長野にも、ミニキッチン、ベランダのある長期滞在者向けのホテルがあり、こちらも今なら直前セールで月64,600で過ごせる。自然を楽しめてとても良さそうだ。
ゲストハウスだけでなく、個室のホテルや賃貸物件もあるから、人と話さずに執筆活動に集中したいときなどは、そういう物件を選べばいい。旅のスタイルに合わせて、場所を決められるのはいい。
本当にNOW ROOMを使いながら、日本各地を巡ってみようかな。ちょっとやりたくなってきた。
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