克服経験から語る「コリン性蕁麻疹」の原因、症状、検査、治療方法、無汗症の難病との関連など
コリン性蕁麻疹とは? 〜ピリピリ・チクチクとした厄介な痒み〜
こんな症状、身に覚えはないですか?
このうちいくつか該当するものがあれば、「コリン性蕁麻疹」(英語名:Cholinergic urticaria)である可能性が高いです。普通の蕁麻疹との違いは、「汗」が関係していることです。
身近な芸能人では、韓国の人気グループ、BTS(防弾少年団)のV(テテ, キム・テヒョン)さんも、昨年コリン性蕁麻疹であることを告白し、話題となりました。アイドルの佐々木舞香さんもコリン性蕁麻疹だそうです。
私自身、2019年にコリン性蕁麻疹を発症し、春〜夏は直射日光に当たるだけで蕁麻疹が出るほどの重症でした。著しくQOL(生活の質)が下がる病気です。常に保冷剤を携帯し、約半年間は日常生活もまともに送れないほど辛かったですが、現在は治療により大幅に改善し、仕事も問題なくできています(その治療過程の記事も最後に載せました)。
他の患者さんの役に立てればと思い、自身の経験をシェアすることにしました。
この記事では、自身の経験も踏まえつつ、コリン性蕁麻疹の概要についてご紹介していきます。
蕁麻疹の種類
蕁麻疹には一般に、以下のような種類があります。(参考元リンク)
急性蕁麻疹:毎日のように繰り返し症状が現れる蕁麻疹のうち、発症して1ヶ月以内のもの。細菌、ウイルス感染などが原因となっていることが多い。
慢性蕁麻疹:毎日のように繰り返し症状が現れる蕁麻疹のうち、発症して1ヶ月以上経過したもの。原因が特定できないことが多い。
物理性蕁麻疹:機械的擦過や圧迫、寒冷、温熱、日光、振動などといった物理的刺激により起こる。
アレルギー性蕁麻疹:食べ物や薬剤、昆虫などに含まれる特定物質(アレルゲン)に反応して起こるもの。アレルゲンに結合するIgEという血清蛋白が関与する。
コリン性蕁麻疹:入浴や運動などで汗をかくと現れる蕁麻疹。ひとつひとつの膨疹(皮膚の膨らみ)の大きさが1~4mm程度と小さい。10代〜30代に多い。
コリン性蕁麻疹の画像
こちらがコリン性蕁麻疹の写真です。
膨疹が小さいのが特徴で、他の蕁麻疹との区別がつきやすいです。膨疹は汗の穴(汗管)に一致していることが多いです。場合によっては毛穴に一致していることもあるようですが、いずれにせよ、毛穴や汗管に一致して膨疹ができるのが特徴のようです。
コリン性蕁麻疹の症状
チェックポイントとしては、記事の冒頭で示したような症例が多いですが、重篤な症状では、血管性浮腫、めまい、気管支喘息、腹痛、嘔気、アナフィラキシーを伴うこともあります。
一般的には、入浴や運動や辛い食べ物などにより身体が温まるときや、緊張やストレスや不安を感じたとき(心理的要因)に、ピリピリ・チクチクとした痒みや痛みの症状が出て、ひどければコリン性蕁麻疹として膨疹が現れます。膨疹は数分〜数十分で消えることが多く、氷や保冷剤などで冷やすとより早く消失します。私の場合は胸や腕、手の甲などによく出ました。ひどい時は全身に出ます。
汗が出てくるまでがとても辛く、逆に汗がよく出てくると、痒みは消失していきます。参考までに、これは私の感覚値をグラフにしたものです。
ランニング時、数分経って身体が温まってくると、痒みが現れます。汗が十分に出るまで痒みは続き、ダラダラと汗が流れると痒みはほとんど消えていきます。入浴やサウナでも同じです。
注意が必要なのは、蕁麻疹が出ず、ただ猛烈なピリピリ・チクチクとした痒みに襲われるだけの場合もあるということです。これも現象としてはコリン性蕁麻疹と同じなのですが、目に見える形で症状が出てこないために、医師も診断がしづらく、病気(病名)に気付けない患者が多くいると思われます。
関連する話として、これは先日、ネットで見つけたコリン性蕁麻疹に関する質問と、医師による回答です。
この医師の方は「コリン性蕁麻疹ではないのでは」と否定気味ですが、私は質問者の症状は、明らかにコリン性蕁麻疹と同じものだと思います。夏場よりも冬場に特に辛くなる傾向は、コリン性蕁麻疹患者であれば身をもって経験しているはずです。この患者さんも、形としての蕁麻疹が出ていないだけで、症状としては同じでしょう。
蕁麻疹が出る手前の段階の症状(痒みや痛みのみ)は、「コリン性疼痛症」とも呼ばれているそうです。
とはいえ、この質問と回答は2007年のものなので、当時は今よりもわからないことが多く、仕方ないのかもしれません。コリン性蕁麻疹のメカニズムについては今も研究が続いています。
このように、たとえ皮膚科を受診しても、あまりこの病気に詳しくない先生だと「それはコリン性蕁麻疹とは関係ない」と診断されることもあるようですのでご注意ください。専門医のいる大学病院などがおすすめです。
私も初期は、蕁麻疹はなく、痒みだけでした。それが徐々に症状が悪化し、蕁麻疹が出てくるようになりました。治るときはその逆で、蕁麻疹はもう半年間出ていませんが、痒みだけの症状は今も時々あります。
コリン性蕁麻疹の原因
コリン性蕁麻疹のメカニズムはまだ完全には明らかになっていませんが、人が発汗するときに分泌される「アセチルコリン」が関与していることがわかっています。
アセチルコリンは、副交感神経の神経伝達物質として一般的に知られていますが、その他にも運動神経や交感神経の神経伝達物質として利用されています。発汗を促す働きのある神経伝達物質です。
人間は体温調節をするために汗をかきます。体温調節を担っているのは、脳の視床下部という部位。これが体温上昇の情報をキャッチすると、汗腺に「汗を出して!」という命令を出します。この際に分泌されるのが神経伝達物質のアセチルコリンです。
汗腺で汗がつくられると、汗管という管を通り、皮膚の表面に出てきます。
汗をかくことによって、皮膚などの組織に広く散らばるマスト細胞(肥満細胞)が活性化します。すると、「ヒスタミン」というかゆみを引き起こす物質が放出されます。これがコリン性蕁麻疹につながるといわれています。
また、コリン性蕁麻疹に遺伝性はありません。
汗が原因と聞くと、夏が辛くて、冬は症状が出ないと思われがちですが、実はそうでもないのです。ほとんどの患者は、むしろ気温の低くなる秋や冬に悪化しています。
汗がしっかりとかけている状態では、痒みの症状もなくなるのです。夏は日常的に汗をかいているため汗の出口(汗孔)が開いていますが、秋から冬は閉じてきてしまいます。
そのため、汗が皮膚にとどまりやすく、発汗時に蕁麻疹が起こりやすくなります。大切なことは運動や入浴によって、毎日汗をかく習慣を持つことです。これにより汗腺機能を改善していくことができます。
コリン性蕁麻疹の検査・診断
コリン性蕁麻疹は、運動や入浴などによってできる発疹(膨疹)が出現するといった病歴から診断されることが多いです。しかし実際には、診察時にそのような発疹が確認できることは少ないです。
そのため、膨疹が出たときの写真を撮り、医師に見せることで、コリン性蕁麻疹の判断がつきやすくなります。また、アセチルコリンを皮内注射して皮疹が誘発されるかを確認する方法もあります。
コリン性蕁麻疹の治療
治療は、他の蕁麻疹と同様に抗ヒスタミン薬(ザイザルやビラノアなど)の内服が第一選択です。抗ヒスタミン薬には様々な種類がありますが、どの薬が効くかには個人差があるため、主治医と相談しながら服用と変更を行っていく場合があります。市販の飲み薬よりは、医師に処方してもらうのがいいでしょう。
抗コリン(アセチルコリンの働きを阻害する)作用のある抗アレルギー薬を処方される場合もあります。漢方薬を服用される方もいるようです。
また、後述する無汗症や減汗症が関係している場合、内服薬では効かないケースも多く、より強力なステロイド・パルス療法で治療することもあります。
指定難病「特発性後天性全身性無汗症(AIGA)」との関連
コリン性蕁麻疹患者の多くに、「汗が出なくなった(無汗症)」「汗の量が少なくなった(減汗症/低汗症)」「体の一部から汗が出なくなった(減汗症/低汗症)」など症状が見られます。
実は私もこのケースで、指定難病に該当する「特発性後天性全身性無汗症(AIGA)」になっていて、それが原因でコリン性蕁麻疹になっていました。おそらくコリン性蕁麻疹患者の中には、少なくない割合で、無汗症あるいは減汗症患者がいると思います。
AIGAも、20代前後ぐらいの若い男性、特にスポーツをしていた人が発症するケースが多いようです。横関教授曰く、自己免疫性の無汗症ではないかと言われていて、発汗低下以外の自律神経障害はきたさないのが特徴です。
まずは、最近汗が出づらくなったと感じることはないか、汗が出ない部分はないか、などよく自分の身体を確かめてみてください。運動したり、サウナに入るとわかりやすいです。
以上がコリン性蕁麻疹の概要でした。
さらに患者の方に向けて、私自身の無汗症とコリン性蕁麻疹の治療・回復までの流れや、コリン性蕁麻疹の効果的な対処法など、より具体的かつ重要な情報を下記の記事に書きました。実際に「コリン性蕁麻疹が良くなった」というメッセージもたくさんいただいていますので、ぜひ参考にしてみてください。