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7年の歳月

昔、沖縄の北谷町に「Seaside Cafe」という小さなカフェがあった。

窓からは海が見えて、素敵なBGMが流れていた。お昼時になると名物のフレンチトーストを求めてアメリカ人のお客さんがよくやってきて、店内には英語が飛び交っていた。そんな非日常的な雰囲気がとても好きだった。

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社会人2年目が終わろうとしていた2013年2月、急に長期休暇を取れることになり、慌てて沖縄行きを決めたのは、村上春樹の本を読んだ影響だった。毎日の通勤ラッシュと仕事のストレスで心身ともに疲弊していたぼくは、ハワイで早朝から原稿を書き、その後ランニングをするという彼のライフスタイルに強く憧れた。

その頃のぼくは、旅行会社のサラリーマンで、その先のキャリアのことは描けていなかった。ただ、「もっと自分らしい働き方がしたい」という漠然とした想いだけがあった。

ひとまず沖縄で、村上春樹のようなライフスタイルを体験してみようと思って、北谷町の海沿いのホテルで連泊し、朝から10kmほどランニングして、その後気に入ったカフェで原稿書くという生活を実際にやってみた。

あのとき、とにかく切実だった。会社では毎日のように怒られ、精神的にボロボロになっていた。学生時代の友人たちは、それぞれの道で活躍し始めていて、海外でチャレンジする人もいたし、起業する人もいた。それなのに自分は、普通の仕事すらまともにできなくて、とにかく情けなくて、悔しかった。

とはいえ、いきなりフリーランスになって食べていけるだけのスキルもなかったし、結局会社に依存するしかなかった。給料がないと生きていけない。ただ、自分の思うことと、会社としての方針にズレがあるときは、苦しかった。

「こうした方が効率がいいのではないか」と思っていても、以前何かを提案して怒られたことがトラウマになっていて、ぼくは恐怖で、余計なことは何も言わないようにしていた。そんな臆病で情けない自分がまた嫌だった。

自分が思ったことを、誰の許可も取れずにやれるような、そんな人生を送りたいと常々思っていた。

沖縄に来たぼくには、辛さ、恐れ、悔しさ、焦りなどの感情が堆積していて、「とにかく変わるきっかけを作らなければ」と切実だった。でももうひとりの自分は、「きっと変われる。必ず糸口はある」と信じていた。

ランニングをしながら自分の素直な感情と向き合い、Seaside Cafeでノートに書き出した。そのうち、頭の中が整理されてきて、大切なエピソードや、自分がもっとも心地良くなれる「在り方」を思い出せた。

それは、「好奇心に従うこと」と、「ありのままを発信すること」だった。

学生時代、誰かを喜ばせようとか、感動させようなんて思ってもいないのに、ただ、自分が好きなことをやって、それをブログで発信していたら、「勇気をもらいました」とか「感動しました」と言われた経験があった。それを思い出したとき、「これで生きていきたい」と思った。ただそれだけのことだった。

このとき書いた文章は、自分にとって大切な思い出である。

リフレッシュして東京に戻ったぼくは、その後、自分が会いたい人にたくさん会って、どうしたらぼくも会社を辞めて、自分の力で生きていけるのか、自分らしいキャリアを歩めるのかを、模索し始めた。

出会った人たちが魅力的な方ばかりだったから、お裾分けする気持ちで文章にしてブログやSNSで発信していたら、それが結果的にぼくの文章力を磨き、フリーライターへの道につながっていった。思わぬ形で、道が開けていった。


昨日、7年ぶりに北谷を訪れた。

今朝ホテルから思い出のコースをランニングをしたら、「Seaside Cafe」は、もうなくなっていた。

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ただ、カフェの跡地に立ったときは、懐かしくて、嬉しかった。あのとき、あの窓から眺めたこの海の景色が、心の整理を手伝ってくれた。ぼくにとって大切な場所だ。

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7年の歳月は、ぼくの心情も大きく変えた。あのとき感じていた「切実さ」や「渇望」などの感情は、今はほとんどない。それだけ、自分の目指していた生き方に、近づけたのだと思う。

だけど一方で、手放しでは喜べない面もある。7年前の自分には、病みながらも、ものすごいエネルギーがあった。それは、「変わりたい」というエネルギーだった。

思うに、あの気持ちこそが、ぼくの「伸び代」だった。今は、そこそこの現状に満足してしまっているのか、あのときほどの強い気持ちがない。それが少し寂しいし、「お前の人生、それでいいのか?」とも思っている。

今の働き方や生き方が、自分をもっとも生かせている形だとは思っていないし、まだまだ色んな経験をしてみたい。

「お金になるからやる、お金にならないからやらない」ではなく、お金に関係なく「やりたいからやる」生き方をしたい。

きっと、働き方は改善された一方で、7年前にはなかった「恐れ」も、生まれている。

この7年間、色んな試行錯誤をしてみて、怒られた経験や失敗した経験も何度かあった。その悪い方の記憶が、心の深いところにいつまでも残っていて、発想や行動や挑戦の妨げになっている感がある。

せっかくまた北谷に来たのだから、再度自分と向き合い、これからの生き方を考える時間にしたい。

・ぼくは何を恐れているのか?
・改めて、どんな生き方・在り方をしたいか?
・これからどんな仕事をしたいのか?

誰の目を気にするでもなく自由に書き出してみて、未来に向けた新しい一歩を踏み出したい。

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