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流星セレナーデ(第4話)ユダとの会談

 ハワイではユダが待っていました。レストランの個室で会ったのですが、ユダは随員も連れずに一人でやって来ました。服も枢機卿の赤の正装でなくラフな服装です。それでもユッキー社長とコトリ副社長にはユダが見えています。もちろんユダにも見られています。ユダは如才なく、

「これはこれは首座の女神、初めてお目にかかります」
「次座の女神とは神戸の聖ルチア教会以来ですな」
「ほほう、こちらは三座の女神ですか。今日は平和に行きましょう」

 食事は始まりましたが、

「ユダよ、要件は先に済ました方が良い気がするが」
「お望みならそうしよう」

 ミサキはユダを初めて見ますが、外見は知的な紳士風です。

「ユダ、知っておるのか」
「首座の女神よ、おそらくだがまず間違いない」
「でも一万年だぞ」
「そこを言われるとこの地球上で確認する方法はないが、そうである可能性は高い」

 三人の話を理解するには前提が必要です。ミサキたち神は母星でクーデターを起こし星流しになった流刑囚だそうです。これが原初の神なんですが、現代では両手に足りないぐらいしか生き残っていないと考えられています。

 その神の中で記憶を受け継ぐタイプはおそらく三人、ユッキー社長と、コトリ副社長と、ユダです。しかしユッキー社長とコトリ副社長は、五千年前に主女神から分身した神であり、それ以前の記憶はありません。

 ユダは二千年前にイエスを取り込むことによって記憶を受け継げるようになっただけではなく、原初の記憶もかなり取り戻しているとされます。実質として神の中で原初の記憶が曲りなりにでもあるのはユダだけと見ても良さそうです。

 こういう前提があった上での話になりますが、ユダの記憶によればセラーノ彗星は母星の宇宙船によく似ているとしています。見えるのかいなと思わないでもありませんが、ユッキー社長やコトリ副社長にも見えているとしか思えません。ひょっとして彗星騒ぎでお二人が楽観的なのは、彗星が宇宙船であることが見えており、地球には来るが激突などしないと知っておられるのかもしれません。

 三人の話の焦点は初っ端から飛躍してまして、彗星が宇宙船であるかどうかより、宇宙船の正体がどこからのものかになっています。ユダは母星の宇宙船の形態から母星のものの可能性が高いとし、ユッキー社長は一万年前からの形態の変化の可能性を指摘したってところのようです。

「証拠はないが傍証ならある。一万年前の母星はたしかにテクノロジーは極度に発達していたが、宇宙開発については既に斜陽技術になりつつあった。おそらく当時でも地球時間で千年ぐらいほとんど進歩していなかったはず」
「社会に不要な技術は進歩しないし、逆に退歩することもあるからな」
「技術としての完成度は非常に高かったし、それを保存する技術もあったが、改良する気もなかったぐらいだ」

 神の母星とされるところは、宇宙開発熱は遠の昔に冷め、長距離宇宙航海技術は古典的技術扱いだったみたい。ここでコトリ副社長が、

「ユダ聞いてもイイか。その母星のテクノロジーはアインシュタインを越えたのか」
「いや基本的には越えていない、ただ潜り抜けた」
「どういうことだ」

 ここはユダも詳しくは知らないとしてたけど、宇宙には時空の歪がかなりあるみたいです。現代の地球の科学でもブラックホールではそういう事が起こるらしいぐらいの知見はあります。そこの研究が極度に進められた末に、時空の歪みを利用した宇宙旅行が可能になったそうです。イメージとしてはトンネルとかバイパスとか、ドラえもんのどこでもドアみたいな感じかな。

「人工的に作れるのか」
「それは無理だったみたいだ。観察し発見する技術が発達し、それを利用するための宇宙地図が作られていたようだ」
「それは固定なのか」
「とは言えないようだ。変動はあったと聞いている」
「それを利用して地球に来たのか」
「そうなる」

 時空の歪を利用する技術は凄いけど、同時に宇宙開発熱を冷ます結果にもなったみたい。ある時期までは神の母星から地球までの時空トンネルは、半年から一年ぐらいのところにあったそうですが、それが変動で移動し五十年ぐらいかかるところになってしまったみたい。母星の人の寿命もユダから聞く限り人類と大差ないみたいだから、時空トンネルの入口まで往復百年は厳し過ぎたってところかな。コールド・スリープみたいな手法を利用すれば可能でしょうが、宇宙旅行から帰れば浦島太郎になってしまうのは嫌がられたぐらいのようです。

「また入口が変動したとか」
「可能性はある」

 この時空の歪みを利用した宇宙旅行技術だけど、植民までしたのは地球だけらしい。つまり母星と地球は良く似た環境で、宇宙服無しでも暮らせるぐらいだったからで良さそうです。かなりの規模の植民活動を行ってたらしいのですが、時空トンネルの変動により母星との連絡が不可能になったらしいとユダはしている。

「その名残がオーパーツと見て良いかもしれない」

 オーパーツとは技術発達史とは別に突然現れた先進技術の遺物ぐらいの理解で良いと思う。ユダの説明では母星からの支援が数千年かそれ以上の単位で途絶え、先進文明は退行し滅んでいったとしてる。

「ユダの時は?」
「五十年かけて運ばれたんだよ」

 だから星流しってところかな。意識だけで肉体はなかったから、生命維持装置も簡便で済んだらしい。そうなるとだけど、

「ユダの予想ではどちらが来る」
「近くに通路が出来ていたら両方かな。そうじゃなきゃ、意識だけ」
「じゃあ、また星流し」
「それは来てみないとわからない」

 ここまで話が進んで、やっとユダが女神に相談したいことがミサキにもわかった気がします。ユッキー社長が、

「どっちでも厄介だな」
「そういうことだ」

 現在の地球上に残る神は下手するとエレギオンの五女神とユダ、さらにユダがカードとして持っているらしい神しか残っていないのよね。たとえばだけど星流しの流刑囚であっても新たな神だし、かつてのような覇権を目指しての神同士の殺し合いが再現される可能性が出てくるんだ。

 神同士の殺し合いも厄介だけど、人も巻き込まれるし、一万年前とか五千年前、さらには二千年前に比べても地球のテクノロジーは発達してるから、被害は古代の比じゃないのはミサキにもすぐわかる。これが侵略目的でも同じ。

「平和友好使節の可能性は?」
「ゼロじゃないが、地球ぐらいの未開な文明と平和友好条約を結ぶ意味が乏しいだろう」

 ユダの話が深刻なのはミサキにもわかるけど、ユッキー社長はニコニコ笑ってるし、コトリ副社長なんて目がこれ以上はないぐらい細められてる。

「力は?」
「そこは微妙だ」

 これはユダも自信がないとしていたけど、母星の神には地球の神のような能力は無いとしている。どうもコトリ副社長たちが使っている能力は、どこかで突然変異的な要因が加味された可能性があるとユダはしている。

「あの時の流刑宇宙船だが、どうも欠陥があったみたいなのだ」
「欠陥とは?」
「放射能防護シールドがどうにも不良だったみたいだ。流刑宇宙船だからケチったのか、他の原因かは今となっては不明だが」
「今度は違う可能性があるとか」
「来てみないとわからない」

 意識に対しての放射能の影響と言われても不明だけど、その辺はわかんないよな。

「ユダは何を考えてる」
「ユダの言葉、さらには神の言葉だから信用もしないだろうが、私の今の目的のためには新たな神は不要だ」
「金儲けか」
「そうだ、人が争う分には儲かるが、神が絡むと破滅しかねない」
「では戦うと言うのか、これだけしかいないんだぞ」

 ユダは苦しそうな顔をしながら、

「その通りだ。地球に上陸され、分散されてしまえば手の施しようがなくなる」
「誘導か」
「それしかない」

 ここでユッキー社長が、

「地球から外すには眠れる主女神と、ユダが抱えているイエスを合わせても難しい。そもそもこの二人を解き放つリスクだけでも大きすぎる」
「それはわかってる。私とてイエスを離すのは怖い。だからせめて着陸点を誘導したい」
「海か」
「それしかない」

 ここでコトリ副社長が含み笑いをしながら、

「言うまでもないが信用しない。だが協力はしよう。お互いへの影響が一番少ないインド洋はどうだ」
「わかった」

 ミサキは息詰る思いで三人の会話を聞いていました。翌日には日本に帰国予定ですが、

「ねえユッキー、せっかくハワイまで来たんだから遊んで帰ろうよ」
「そうだね、コトリ、でも三日間だけよ。それ以上はシノブちゃんが可哀想」
「ユッキーも物わかりがイイ」
「じゃあ、ミサキちゃん手配ヨロシク」

 ひょっとして女神の秘書役ってこれなの。

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