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流星セレナーデ(第1話)新体制

 ミサキがクレイエールに入って二十年目の春が巡ってきました。見た目は二十代半ば過ぎですが、実年齢は今年で四十二歳、サラも中学三年生です。本来なら高校受験なんですが、中高一貫の女子校に進学してくれたのでノンビリしたものです。そうそうケイも中学受験に成功してくれています。まあ、相当尻叩きましたけどね。

 クレイエールの方は大きな人事変更がありました。綾瀬社長が退任されたのです。その前に例の密談場所の料亭で相談を受けたのですが、

「私は来春で社長を退任する」
「では後任は高野副社長ですね」
「いや高野君も一緒に退任する」

 綾瀬社長と高野副社長は三歳違いですから、高野副社長が社長になっても短期政権にならざるを得ないので避けられたのかもしれません。高野副社長も勇退となると序列でも実績でも、

「えっ、では立花専務の昇格ですか」
「立花君は副社長になってもらう」

 ミサキの頭の中は『???』がひたすら回っていました。コトリ専務が副社長なら、まさか人の年齢を優先して、

「では結崎常務が昇格とか」
「結崎君は専務になってもらう予定で、香坂君は常務の予定だ」

 密談場所に集まるのは社長、副社長、コトリ専務、シノブ常務、ミサキと佐竹本部長の六人です。これは綾瀬体制がスタートしてから不動のもので、会社の序列上からもトップ・シックスとしても良いメンバーです。あの綾瀬社長が三女神を越えて子飼いの佐竹本部長を選んだのでしょうか。

「では佐竹本部長ですか」
「佐竹君はそのまま営業本部長を続けてもらうことになる」
「では誰を?」

 社長はニヤッと笑い、

「お待たせした、入って来てくれ」

 襖を開けて入ったきたのはユッキーさん。

「小山君が新社長だ」
「えっ、でもまだ係長・・・」

 そうしたらコトリ専務が、

「ミサキちゃんらしくない。ユッキーは首座の女神だよ」
「それはそうですが・・・」

 そしたらユッキーさんが、

「だいぶもめたのよ。わたしはコトリが社長になるべきだと言ったんだけど」
「それはアカンて、ユッキーみたいにややこしいのを部下に使えるかいな。どんだけコキ使われたか。あれだけコキ使うのに何かあれば、

『わたしは秘書ですから』

こうやって逃げちゃうんだから。やっぱりトップはユッキーじゃなくちゃ組織は落ち着かないってこと」
「でもクレイエールの社長ぐらいだったら代わりばんこでもイイじゃないの」
「ダメ、これは四千年前から決まってること」
「決まってないわよ、あの時だって」
「こんだけクレイエールの規模が大きくなっちゃうと、何語でも話せるユッキーの方がイイの。コトリだって英語やイタリア語ぐらいは話せるけど、ヒンディー語やスワヒリ語、中国語とかアラビア語とかになると苦手やから」
「それぐらいすぐに覚えられるでしょ」

 お二人の会話を聞きながら、ここ数年間のクレイエールの大躍進の原動力はお二人の力によるものだと思い返しています。クレイエールは国内でこそ一流企業でしたが、海外部門は弱かったのです。

 そこで利用したのがエレギオンの金銀細工師。この名を世界に轟かすためにコトリ専務はエレギオン発掘隊長になり、ナショナル・ジオグラフィックまで引っ張り込んでいます。この企画は大当たりで、超高級ブランドのクール・ド・キュヴェはエレギオンのウルトラ高級ブランド・イメージと連動し、今やエルメスにも迫ろうとする勢いです。

 クール・ド・キュヴェの大成功に乗じて、クレイエール・ブランドの抱き合わせの売込みにも成功をおさめています。クール・ド・キュヴェは高価過ぎて手が出せない人もクレイエールなら手が出ると高い人気を誇ってるぐらいでしょうか。ですから国内より海外の方がクレイエールはかなり高級なイメージになってくれています。

 エレギオン・ブランドの使用はマルコがうるさいのですが、そこはそれ、マルコさえ頭が上げようのないエレギオンの四女神がクレイエールに君臨していますから、

『ボクが口出しできるような人々じゃないよ』

 まあそういうことです。ただここで一つ心配なことが、

「綾瀬社長、小山秘書の抜擢は女神からすれば当然ですが、女神は受け継がれて行きますが・・・」
「そうだ、エレギオン王国がそうであったようにだ。クレイエールもこれからそうすべきだと判断した。千年王国なんてものじゃない、クレイエールもこれで三千年王国になる。なあ、高野君」
「はい社長、エレギオンの四女神がそろう幸運を活かさない手はありません。小山君が入ってわずか五年足らずでクレイエールは日本のローカル企業から、世界的大企業にあっという間に成長しています。これほどの手腕の人物が永遠にトップに座り続けるのは我が社にとって他に選びようのない選択です」

 綾瀬社長は会長になられ、高野副社長は相談役に退かれました。これだって、

「財界のお付き合いぐらいは女神たちよりワシの方が慣れてるから、せめてもの御協力といったところだ」

 かくして二十八歳のユッキー社長は誕生。業界では驚きをもって迎え入れられましたが、さすがはユッキーさん、どこに出席されても堂々としたものです。新体制は、

 ユッキー社長
 コトリ副社長兼クール・ド・キュヴェ及クレイエール事業本部長
 シノブ専務兼経営戦略本部長
 ミサキは常務兼ジュエリー事業本部長

 だったはずなのですが、総務部長の兼任がなくなった代わりに、

「ミサキちゃん、ブライダル事業本部も見といてね」

 でもってミサキとシノブ専務は取締役に昇格。こりゃ、本当に古代エレギオンが現代のクレイエールに復活した感じがします。帰り道に夜空を見ると、

「あっ、流れ星」
「ミサキちゃんは何を願ったの」
「サラとケイの幸せです。コトリ副社長はやっぱり男ですか」
「うふふふ、それもあるけど、エレギオンでは違った意味もあったの」
「なんですか?」
「セレナーデよ。またそのうち教えてあげるわ」

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