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#327 『認知心理学者が教える最適の学習法  ビジュアルガイドブック』ヤナ・ワインスタイン (著), メーガン・スメラック (著), オリバー・カヴィグリオリ (著), 岡崎善弘 (翻訳), 山田祐樹 (読み手)


科学的に正しい学習方法を教室へ!:効果的な学習方法とよくある誤解

近年、教育の分野でも科学的根拠に基づいた指導法が注目されています。しかし、多くの教育実践は、依然として教師の経験や直観に基づいて行われているのが現状です。

今回は、効果的な学習方法とその根拠について、認知心理学の観点から解説するとともに、教師が陥りがちな学習に関する誤解について具体例を挙げながら説明します。

教師が陥りがちな学習に関する誤解

  • 効果がない学習方法を生徒に指導している可能性

    1. 多くの生徒は、教師から効果的な学習方法を教わらずに、自身の直観に基づいて学習方法を選択しており、「参考書を読み返す」という学習方法を良い学習方法だと考えている生徒もいるかもしれません。

    2. 参考書を読み返すことは、一見効果的なように思えますが、実際には非効率的な学習方法です。 なぜなら、教科書を繰り返し読んでも、深いレベルで情報を理解したり、記憶したりすることは難しいからです。 さらに、人は、自分の直観に反する情報よりも、直観を支持する情報を探そうとする傾向があるため、一度「読み返す」という学習方法を決めてしまうと、他のより効果的な学習方法を試そうとしなくなる可能性があります。

    3. 教師は、最新の研究に基づいた効果的な学習方法を学び、生徒に指導する必要があります。

  • 「右脳型人間」「左脳型人間」といった誤った神経科学の知識を広めている可能性

    1. 「数学が得意な人は左脳型、美術が得意な人は右脳型」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。 特定の課題を行う際に、片方の脳半球がもう一方よりも活動的になることは事実です。 しかし、この事実をもって「右脳型人間」「左脳型人間」と分類することは適切ではありません。

    2. すべての認知機能は、脳全体に分布している複数の領域が協調して連携した結果として成り立っています。 多くの神経科学者は「右脳型」「左脳型」といった分類を否定しており、このような誤解は、神経科学に対する知識不足ではなく、むしろ強い関心の裏返しとして生じている可能性があります。

    3. 教師は、生徒に誤った神経科学の知識を教えないよう、注意する必要があります。

  • 学習スタイルを重視するよう生徒に指導している可能性

    1. 「学習スタイル」とは、学習者の好みや得意な学習方法を指します。 例えば、「視覚優位」「聴覚優位」「体感覚優位」といった分類が一般的です。 しかし、学習スタイルに合わせた学習方法を採用することが効果的であることを示す科学的根拠は存在しません。

    2. 多くの教師は学習スタイルを重要視しており、効果があると信じ続けています。 しかし、学習スタイルを過度に重視すると、生徒が特定の学習方法に固執し、他のより効果的な学習方法を試さなくなる可能性があります。

    3. 生徒に誤った情報を伝えないためにも、学習スタイルを過度に重視することは避けるべきです。

効果的な学習方法とその根拠

効果的な学習方法として、分散学習、検索練習、精緻化、具体化、二重符号化などが挙げられます。 以下では、それぞれの学習方法について詳しく解説します。

  1. 分散学習

    1. 分散学習とは、学習時間の間隔を空ける学習方法です。 試験直前にまとめて学習するよりも、数日~数週間の間隔を空けて学習する方が、学習内容の定着度が高まります。 これは、一度情報を少し忘れることで、思い出すための努力が必要となり、その努力が記憶の強化につながるためだと考えられています。

    2. 分散学習を効果的に行うためのヒント

      • 試験が数か月先であっても、毎日少しずつ学習する時間を確保しましょう。

      • 各授業の内容を、授業の直後と、数日後、数週間後に復習するようにしましょう。

      • 1週間分の学習計画を作成し、計画通りに学習できているか記録しましょう。

  2. 検索練習

    1. 検索練習とは、一度学習した内容を、記憶の中から思い出す学習方法です。 例えば、教科書を読んだ後に、教科書を見ずに内容を説明してみたり、問題集を解いてみたりすることが挙げられます。 検索練習は、記憶の定着と理解を深めるために非常に効果的です。

    2. 検索練習の効果を高めるためには、ある程度の難易度が必要です。 つまり、完全に思い出すことができない程度の少し難しい問題に取り組むことが重要です。 また、検索練習は、分散学習と組み合わせることで、より効果的になります。

    3. 検索練習を効果的に行うためのヒント

      • 教科書を読んだ後、教科書を見ずに内容を説明してみましょう。

      • 問題集を解き、間違えた問題を繰り返し解きましょう。

      • フラッシュカードを作成し、単語や用語の定義を覚えるだけでなく、実際に文章の中で使えるように練習しましょう。

      • 小テストを頻繁に実施することで、生徒に検索練習を促しましょう。

  3. 精緻化

    1. 精緻化とは、学習内容について、「どのように?」「なぜ?」といった質問を投げかけ、深く考える学習方法です。 新しい情報を、すでに知っている知識と関連付けることで、理解を深め、記憶に残りやすくすることができます。

    2. 精緻化を効果的に行うためのヒント

      • 授業で習った内容について、「どのように役立つのか」「なぜ重要なのか」を考え、ノートに書き出してみましょう。

      • 新しい知識を、過去の経験や知識と関連付けて考えてみましょう。

      • 学習内容を日常生活と関連付けて考えてみましょう。

  4. 具体化

    1. 具体化とは、抽象的な概念を理解するために、具体的な例を用いる学習方法です。 例えば、「希少性」という概念を理解するために、航空券の価格が、搭乗日が近づくにつれて高くなるという例を挙げることができます。

    2. 抽象的な概念を理解するためには、複数の具体例を提示することが重要です。 具体例を通して、抽象的な概念がどのような場面で適用されるのかを理解することができます。 また、生徒自身が具体例を考え出すことができれば、より深い理解につながります。

    3. 具体化を効果的に行うためのヒント

      • 抽象的な概念を学習する際には、具体的な例を複数挙げてみましょう。

      • 複数の具体例を比較し、共通点と相違点を見つけることで、抽象的な概念の理解を深めましょう。

      • 自分で具体例を考え、先生や友達に確認してもらいましょう。

  5. 二重符号化

    1. 二重符号化とは、言葉による情報と言語以外の情報(図や絵など)を組み合わせて学習する方法です。 情報を異なる形式で符号化することで、記憶に残りやすくなるだけでなく、理解も深まります。

    2. 二重符号化を効果的に行うためのヒント

      • 教科書の説明文と図表を関連付けて理解しましょう。

      • 学習内容を絵や図に表してみましょう。

      • 図表を見ながら、説明文を作成してみましょう。

最後に

この記事では、科学的根拠に基づいた効果的な学習方法と、教師が陥りがちな学習に関する誤解について解説しました。

科学的な知見を取り入れることで、より効果的に学習を進めることができます。 この記事が、学習方法を見直すきっかけになれば幸いです。

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