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[30] 蛍星の運動会

厳かな火に炙られ
ほんのり
赤く染まったゆうぐもに
触れたいと
    ぬぬ ぬぬ
うでをのばしても
指先が
なまぬるい風に 遊ばれるだけ

衰えることなく 居残っている
さびしさのじかん
宝石箱かかえるように手放さないのに
性懲りもなく
また……
ほしがるばかり 見つめるばかり
はずすことのできない
照れ屋隠しのお面はチープ
カケラかき集め
みなぎりだした生気の顔も
かなしいかな
もろく
負けるたび 夜には剥げ落ちてしまう
燃焼されることを拒むゆえ
捨てにも行けない
ニセモノの慧眼と鼻っ柱

両腕に噛みつこうとする
奇獣と珍獣が
門扉のそとで唸りはじめると
ゆるされる行為は
まかりまちがえば 支柱となる
いっぽんぎな弱腰を
藍の宵闇の庭に
植えそろえることだけ

しずけさ期待して 見あげた夜空には
たくさんのホタルボシ
おおきな蛍光は
           る
    る    ぐ   ぐ
  ぐ   ぐ    る
    る
かけっこ
かけっこ
        ぴか
  ぴか        ちか
      ちか
鳴りやまない
大声援
熱戦を繰りひろげる運動会に
まぜてはくれないかと
    ぬぬ ぬぬ
うでをのばしても
またたく間に 飛び去ってしまう
星あかり

うつくしいものには
いつまでも とどかない
恨めしい
この両腕


※逃亡銀河の鼠たち
(逃げのびた闇のなかで 前編)

お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。