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[34] 隠れ家はあじさい

ひとけのない時間帯をねらったのは
なぐさめの花に
こっそり 会いにゆくため
それだけではなくて
川辺の空気が与えてくれる
ささやかな憩いを
期待して

しげしげと ながめていると
きみは現れた
のこのこと裏側から
ハナから敵対心なんてなかった
ぴかぴかの
光沢であるきみは
妖艶な花の色にも負けてはいなかった
ただの目立ちたがり屋には思えなかった
コガネムシか
カナブンか
花好きならば ハナムグリだろう
あんまり見つめすぎたせいか
きみは身を隠した
もぞもぞと裏側へ

先日も先客がいて
かわいらしいベニシジミがあそんでいた
きみたち
知り合いではないのかな?
ただの願望にすぎないけれど
やさしく語らう声と
ひそやかな
恋があってほしい

ちょっと失礼して
裏側をのぞきこむと
きみの姿は もうどこにもない
こわがらせたのか
気に障ったのか
もしかすると
ここはきみの隠れ家だったのかもしれない
もう二度と
戻ってこない
そんな気がする

雨に濡れたあじさいは
さびしさに
寄り添ってくれるから
だれにも見つからないように
枯れるまで
足を運ぶよ


※逃亡銀河の鼠たち
(探りあてた光にすがる 後編)

お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。