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[28] 祝福するひまわり

おおきなひまわり
ほがらかに 笑んでいる

息せききって
駆けてくる
花壇につまずき ころんでも
血色のよい顔をかがやかせている
「ついにあの方と
 結ばれることになりました」
よそ行きのおめかしに
身を包んでいる
「なにもかも
 あなたの激怒のおかげです」

いつだったろう
ふるえる
華奢な両手で
見惚れてしまうほどの うつくしいナイフ
のどにあてがいながら
「こんなにも苦しいのなら
 真っ赤に染まりながら逝きます」
なぜあいつなのか
あふれる
怒りのような憎しみ
それだけの覚悟があるのなら
そのヒステリックを丸投げしてみろと

「狂気の勝利というものです
 至極の幸福 噛みしめる奇跡
 あなた
 あのとき声を荒げてくださって
 ほんとうにありがとうございました」
艶めかしいくちびるは
この瞳の荒涼を知らない
濁り
腐り
枯れ果てたことを知らない
にぎる鍬に
憎悪がこもっていることを知らない

「祝福してくれるでしょうか
 深海で眠ったふりをしている魚たちは当然
 生い茂る夏草たちはどうでしょう
 絶えた甲殻たちもよみがえったようですし
 嗚呼 みな
 わたしたちのみらいを
 祝福してくれるでしょうか
 ねえ あなた どう思いますか?」

おおきなひまわり
ほがらかに 笑んでいる

乾いた土に目をやれば
ひからびて まるまった
ねずみいっぴき
それに倣い
じっと
うごかないでいよう


※逃亡銀河の鼠たち
(逃げのびた闇のなかで 前編)

お読みいただきありがとうございました。なにか感じていただければ幸いです。