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シティー「降格」の危機⑫ー株主貸付の補足、シティーのスポンサー契約、APTルールの今後


前回まで

前回では、シティーの訴えによって、パンドラの箱が開き「株主貸付」という、無利息で返済期限のないオーナーによる貸付が「公正な市場価値」に則らなければならない、との評決が出たことを紹介した。今回は、その補足とシティーの主張が認められた、もう一つの論点を紹介しよう。

株主貸付に関する補足

まず、「株主貸付」である。UEFAの財務規則には、「株主貸付」が「公正な市場価値」に則らなければならないことが規定されている。

そのため、このルールが「ひょうたんから駒」のように突然出てきたものではないということだ。今年の2月にルールが改訂されたとき、決議によって意図的に免除を認めたということだ。

考えてみてほしい。改めて、各チームの株主貸付の概算額の表を載せるが、このような巨額のお金がみすみすと見逃されるはずはないことは、素人の私でも分かる。

出典 イギリス紙 The Times

1位のエヴァートンの額は、4億5100万ポンドである。約866億円である。2位のブライトンが、3億7300万ポンド、3位のアーセナルが2億5900万ポンドである。

デッド・エクエティ・スワップ

アーセナルの2024年~2025年の選手サラリーの総額は、約2億ポンドである。上記は株主貸付の総額なので、いつ使われたか分からない。また、クラブがオーナーに返済しているのかも分からない。

しかし、選手のサラリーはキャッシュで支払われるため、アーセナルはキャッシュが必要になれば、かなりの部分、株主貸付に頼っていたことが分かる。

アーセナル・ファンの皆様(私も)は、これを見て今後のアーセナルについて暗い気持ちになるかもしれないが、確かに財務戦略については、考え直さなければならない。

しかし、合法的に債務を株式に変換できる方法(いわゆるデッド・エクエティ・スワップ)があるので、当面の資金繰りには困らないだろう。これは、アーセナルが長い格闘の末、オーナーが1人になったことによって可能になった。

オーナーが複数いると株式割合が変化するため、いさかいが起こる可能性がある。逆に、アーセナルの場合、オーナーが1人になったため、株主貸付をどんどん増やすことができた。

他の「株主貸付」が多いクラブも上記の方法で、当面の問題を解決すると予想されている。問題となるのは、利息をいつの時点まで遡って適用するかである。前の記事では、間違えていたがイングランドの商業利息は、年率8%〜10%のようだ。エヴァートンに適用すると、最低でも3600万ポンドである。例えば、サラリーが500万ポンド(10億円弱)のかなりいい選手を7人雇える額である。

不認可のシティーのスポンサー契約はどうなるのか?

シティーは、今回の「争訟」で多くの論点について異議を申し立てていた。そして、主張が認められたのが上記の「株主貸付」の問題と、あと一つは「エティハド銀行」と「ファースト・アブダビ銀行」とのスポンサー契約が「不当に阻止」されたということである。

シティーは、スポンサー契約が「関連当事者取引」であるということは争ってはいない。しかし、その「公正な市場価格」を決める手続きに欠陥があった、ということを主張していた。

この手続きを簡単に述べると、スポンサーとの契約に合意すると、その契約についてプレミアリーグに「公正な市場価格」であるか、お伺いを立てなければならない。

認可されれば契約が履行される。しかし、不認可の場合、再度、契約を見直さなければならない。そのために、プレミアリーグの方で1万件に及ぶ過去の取引事例のデータベースが各クラブに提供されることになっている。

シティーは、このデータベースにアクセスして、契約を見直そうとしたのであるが、プレミアリーグが一方的に手続きを阻止した。そのため、「エティハド銀行」と「ファースト・アブダビ銀行」とのスポンサー契約が成立しなかった。

この主張が認められたため、「エティハド銀行」と「ファースト・アブダビ銀行」とのスポンサー契約は、再度、締結される予定だ。そして、このことに関してプレミアリーグに損害賠償請求をシティーが行う可能性が指摘されている。

今後、APTルールはどうなるのか?

今後、APTルールはどうなるのか?プレミアリーグ側は、当初APTルールは、一部に瑕疵があるがそれを修正すれば合法である、としていた。そのため、来週に緊急総会を開き迅速に解決をしようとしていた。

しかし、ここに来てトーンが変わってきた。「短期的な解決は不可能である」として、プレミアリーグのコンセンサスを図り、じっくりとルールを作り直すということだ。

この背景にあるのは、シティーの攻撃的な姿勢である。再度シティーに不利益なルールを作るならば、「いつまでも訴訟を起こす」とシティー側の代理人が宣言している。

プレミアリーグは、昨年、弁護士費用を5,000万ポンド使った。昨年の主な係争は、エヴァートンとレスターに対するものであった。今年の弁護士費用は、いくらになるのか懸念を示しているオーナーが複数いることが分かっている。

以上が、補足である。次回は、この事案に関して緊急株主総会の話が漏れてきたら、それについて書こうと思うが、UEFAの方でもファイナンシャル・フェアプレーに代わる新しいルールが制定されたので、そちらを書くかもしれない。




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