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シティー「降格」の危機③ープレミアリーグはクラブを株主とする株式会社である。ビジネスモデルの概略

前回の記事では、「ルール」の話、すなわちマンチェスター・シティに適用される財務規則の話に入ると予告したが、その前に、ここではこの聴聞の利害当事者の話をしたいと思う。

まず、プレミアリーグの組織について、知っておかなければならない。プレミアリーグは株式会社である。株主は所属する20クラブである。それでは、降格したらどうなるか。昇格したチームに株を譲らなければならない。これにより、株主が変わり、元の20クラブの株主に戻る。

株式会社であるので、株主総会で「ルール」を決めることになる。また、当然人事も株主総会で決まることになる(後に議論する。)

このことを頭に入れると、今回はお目にかかれない「争い」が起こっているのである。要するに、会社が自らの株主(シティー)を独立委員会に訴えているのである。逆はよくある。例えば、株主代表訴訟等である。

降格する可能性が極めてないチームにとっては、株主であるプレミアリーグの資産価値を上げることが、自らのクラブの資産価値を上げることにつながる。クラブはプレミアリーグの持ち株会社と考えれば良い。そのため、プレミアリーグの売上(放映権料等)が上がる限り、オーナーとしては、極論どこが優勝しようと、分配金も上がり、資産価値も上がるのである。

スポーツ・ビジネスは極めて難しい。なぜなら、投資が結果につながることが極めて少ないビジネスであるからだ。例えば、スポーツビジネスで最も強いカルテルを組んでいるNFLではサラリー・キャップが設けられている。つまり、各クラブが選手に使えるお金は平等である。それでも、10勝以上するチームと1勝もできないチームが出てくるのである。

10年以上前、プレミアリーグには補強にお金を使ってくれないオーナー達がいた。例えば、マンチェスター・ユナイテッドのオーナー・グレーザー家は、毎年、サポーターからお金を使わないと批判されていた。

これは、クラブ買収のスキームに大きな問題があった。我々が不動産を買うときと同様に、クラブを担保に借入をしクラブを買収したのである。そのため、分配金(キャッシュ)の多くは借入金の返済に回ったのである。選手を買うには短期的なキャッシュが必要になる。まずは移籍金である。そして、これは余り語られないが、高額の選手を買うと高額な給料を払わなければならない。当然、これもキャッシュで払われる。

そして、ここで登場したのが、石油王や中東の国営ファンドである。彼らは、無尽蔵にキャッシュを持っていた。それに対して、昔からのオーナーは元々高額な選手を買うキャッシュを持っていなかった。擁護すると、そのようなビジネスモデルではなかった。

そのため、シティーやチェルシーにどんどんお金を使って欲しかった、なぜなら、自らがお金を出さなくても、スターがどんどんリーグに来てくれればリーグの価値が上がり、自らのクラブの資産価値が上がるからである。

そして、現在である。プレミアリーグには、積極的に投資をしてより勝利という結果を出したい新しいオーナー達が参入している。彼らはUAEやサウジアラビアの王子ほど、キャッシュを持ってはいないが、いずれも他の事業で成功を収めたビジネスマンで、いわゆる「ビリオネア」である。

昔からのオーナー達はこの「ビリオネア」にクラブを売るのであるが、おそらく自らが買収したときの、数十倍の価格でクラブを売却したと思われる。皮肉なことに、ついに多額のキャッシュを得た。

この新規参入者は、キャッシュを使うことにためらいない、つまりスポーツビジネスで短期的に儲けようとは思っていない。自らのクラブの資産価値を上げることが目的である。しかし、ビジネスマンとしては、中東の国営ファンドのような理不尽な投資はできない。彼らは、投資家である。リターンのない投資は行わないだろう。

この新規参入したオーナー達(ビジネスマン)が増えたことが、プレミアリーグ内での潮目が変わった理由である、と私は考える。プレミアリーグ内にも、不透明なお金の流れを是正したいという声が増えてきたのである。

これは、後に語るが、プレミアリーグがシティーの問題に本格的に着手したのは、UEFAよりはるか後である。UEFAの追及が「時効」の問題で頓挫した後に、乗り出している。このことからも、プレミアリーグはシティーを黙認していたことが想像できる。



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