マンチェスター・シティ「降格」の危機②ーこれは「民事事案」である。「強制捜査権」の有無、「証拠採用」の範囲を整理する。
プレミアリーグ(EPLと称す)対マンチェスター・シティー(シティーと称す)の独立委員会での聴聞がこれから、10週間に渡って行われる(調べた限り非公開である。ここでは公聴会しかなった。)
我々が、これから行われる聴聞会をウォッチしていく上で幾つかのことを頭に入れておかなければならない。ここでは、それらを整理しておこう。
まずは、大前提であるが、これは「民事事案」であるということだ。プレミアリーグ(EPL)もマンチェスターシティー(以降シティー)も、株式会社である。決してイングランドの刑法違反が問われているのではなく、EPL内の罰則適用の問題であるということだ。
そのため、EPL側には「強制権」がない、強制捜査等で「証拠」を集めることができないのである。また、証人喚問を強制することもできない。
これは、EPL側が「シティーが調査に協力しなかったこと」を罰則の対象に含めていることからも分かるであろう。シティーには「調査協力義務」しかないのである。
EPL側が罰則の適用対象としているのが、大きく分けて、この「調査協力義務違反」と「不正会計」の二つである。ここで、注意が必要なのは、シティーは上場企業ではないことである。
例えば、マンチェスターユナイテッドはニューヨーク証券取引所に上場している。そのため、もし「不正会計」を行ったならば、日本で言う公正取引委員会の調査の対象となる。
もちろん公正取引委員会は「強制捜査権」をもつため、「調査協力義務違反」は、「司法妨害」となりイングランドの刑法に反することになる。また、偽証罪等も適用されるので、個人に刑罰が及ぶということにもなってくる。
以上の「強制権」がなかったということが、この問題のEPL側の捜査が約4年間に渡った理由である。
しかし、民事事件であるということは、証拠採用の敷居が下がる。EPL側の主張の根拠となっている「証拠」は、2018年11月にドイツの新聞デア・シュピーゲルが1週間に渡って、掲載した記事の基となった「証拠」である。
この「証拠」は、ポルトガルの内部告発者がハッキングしたマンチェスター・シティーの関係者の電子メールとされている。
刑事事件では、違法に収集された証拠であるので、その採用の可否が大きな争点になるが、民事事件まして独立委員会では、証拠採用の裁量権は大きく委員会に与えられるだろう。
以上が、この事案が「民事事案」であるという大前提から導き出せる事柄を整理したものである。まずは、「強制権」の有無、「証拠採用」の範囲という基本的事項を押さえておこう。
次回は、EPL側が本件に適用されると主張する、UEFAのファイナンシャルフェア・プレー、EPLの"Profitability and Sustainability(PSR)"というルールと、2021年に加わった"Associated Party Transaction(APT) rules"、を整理しよう。
大筋は下記記事に書いた。ぜひよんでもらいたい。
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