再生医療事業を手がけるセルソースが圧倒的な成長を遂げている理由
バイオベンチャーと聞くと、事業の不確実性が高く、株価のボラティリティも大きくなりやすいという理由でなかなかポートフォリオに組み込みづらいと考える投資家は少なくないと思います。
しかしそんな中で、創業以来ずっと黒字を出しながら、驚異的な成長を遂げている珍しいバイオベンチャーがあります。再生医療の領域で事業を展開するセルソースです。同社の売上高と営業利益のグラフを見ると、バイオベンチャーとは思えない推移となっていることが分かります。
また、株価の推移を見ると、2019年10月の上場以来株価は約6.3倍にまで成長しており、PERも100倍を超える水準となっています。
この会社を色々分析していくと、普通のバイオベンチャーと異なる点が色々と垣間見えて非常に興味深かったので、今日はそんなセルソースの事業内容や強み、今後の成長性等について詳述していきます。
セルソースの創業経緯
セルソースは、2015年11月に、CEOの裙本(つまもと)氏と、取締役の山川氏の共同出資により設立されました。
裙本氏は、大学を卒業してからセルソースを設立するまで住友商事に勤務していました。自ら「最も過酷な環境に配属してほしい」と申し出た結果、入社から3年目のときにロシアに派遣され、ロシアで約5年間を過ごしたようです。このロシアでの経験が、現在の「ミニマル」や「効率性」を非常に重視する裙本氏の考えや忍耐力に繋がっているようですが、この辺りの詳細についてはNewsPicksのインタビューで語られているので、是非一度読んでみてください。非常に面白いです。
そんな裙本氏、5歳の頃から剣道一筋で、社会人になってからはトライアスロンチームにも所属するというバリバリのスポーツマンであるようですが、トライアスロンチームに所属している経営者の先輩方と話しているときに、「自分も新しいチャレンジをしてみたい」と思うようになったとのこと。
当時の住友商事に全く不満はなかったようですが、以下の3つの自由を手に入れることが「成功」だと考え、そしてそれを手に入れられるのは「自分に投資をして起業することだ」と考えるに至ったようです。
その結果、裙本氏が選んだ領域は、これまで自身が経験してきた領域とは全く異なる「再生医療」。
公開情報をもとにこの領域を選んだ経緯を簡単にまとめると、概ね以下のとおりだと考えられます。
単に儲かるかどうかだけではなく、心の底から自分が打ち込むことができ、かつ社会課題の解決につながる領域を探していた
そんな中、2014年に、再生医療の実用化推進を目的として「再生医療等安全性確保法」が施行され、再生医療に必要な細胞加工の外部委託が可能となった
再生医療は今後さらにニーズが拡大していくと考えられるが、各医療機関が重い設備投資負担を負って細胞加工のための施設を持つのは難しいため、複数の医療機関から細胞加工を一手に引き受ける「再生医療のセントラルキッチン」が今後求められる可能性があった
更に再生医療は、日本全国で約2500万人以上が抱えているといわれる「変形性膝関節症」をはじめ、多くの人が抱える病気の解決にもつながる
そのため、再生医療の領域は、市場性も社会的なニーズも十分あると考えられる
当時の裙本氏は医療に関する専門的な知見もなければ、業界での豊富なコネクションもあるわけではありませんでしたが、トライアスロンチームのチームメイトであった山川氏と共にこの再生医療の領域でセルソースを創業するに至ったとのことです。
セルソースの事業内容
ここからは、現在セルソースがどのような事業を手がけているのかを見ていきます。
セルソースは現在、主に以下の事業を展開しています。
再生医療関連事業
脂肪・血液由来の組織・細胞の加工受託サービス
コンサルティングサービス
医療機器販売
コンシューマー事業
化粧品及び美顔器の一般消費者への販売
直近2期間の事業別売上高推移を見ると、再生医療関連事業が約95%を占めていることが分かります。
それぞれの事業内容について、具体的に説明していきます。
再生医療関連事業
再生医療関連事業では、各医療機関が患者から採取する脂肪や血液を預かり、組織・細胞を加工して医療機関に戻すという事業を展開しています。
そもそもセルソースが手がけるこの「再生医療」が何なのかということについて、少しだけ説明しておきます。
まず、人間の体には何十兆もの細胞が存在していますが、細胞の中には「幹細胞」というものがあります。
幹細胞は、簡単に言うと「いろいろな姿に形を変えられる」細胞で、平常時には活動していないものの、細胞が損傷したり細胞が減少したことを感知すると自ら細胞分裂を行い、傷ついた細胞や不足した細胞の代わりとなり、身体機能を修復するという働きがあります。
また、損傷した組織を修復する機能を担う別の成分として、血液中に含まれる「血小板」があります。
血小板は止血作用があることで一般的に知られていますが、様々な成長因子を放出することで、組織の治癒過程において細胞の働きを調整する機能も有しています。中でも、血液を濃縮することでつくることができる単位容積当たりの血小板の割合が多い血漿は、PRP(多血小板血漿)」と呼ばれています。
このような幹細胞やPRPを直接患部等に注入すると、人体が持っている自然治癒の機能を強化させたり、炎症を抑えたり、細胞を若返らせることが期待されています。そして、このような機能に着目して様々な疾患に対応していく医療が「再生医療」だというわけです。
セルソースは、再生医療関連事業の一環として、以下のサービスを手掛けています。
脂肪由来幹細胞加工受託サービス
医療機関が患者から採取する少量の脂肪組織を預かり、幹細胞を抽出、培養、凍結保存した上で、医療機関に戻すサービス。
血液由来加工受託サービス
医療機関が患者から採取する血液を預かり、その血液からPRPを作成し、活性化させ、成長因子等を取り出して濃縮・無細胞化した後に凍結乾燥を施した「PFC-FD」を作成した上で、医療機関に戻すサービス。なお、「PFC-FD」の加工作成技術はセルソースの特許技術。
FatBankサービス
医療機関が患者から採取する脂肪組織を預かり、脂肪組織を劣化させない超低温の環境で長期間の保存を行うサービス。必要な脂肪組織を安全な場所に長期間保存できるため、医療提供時に都度脂肪を採取する必要がなくなり、医療機関及び患者の負担が軽減される。
こういった再生医療はこれから更に普及していくと考えられていますが、先述のとおり、各医療機関が細胞加工やPRP作成のための施設を持つとなると、かなりの設備投資負担が生じてしまいます。
そのため、セルソースが複数の医療機関から細胞加工を一手に引き受ける「再生医療のセントラルキッチン」としての役割を担うことで、各医療機関は膨大な設備投資を実施することなく、再生医療を始めることができるようになるわけです。
現在は、「変形性膝関節症」という、膝のクッションの役割を果たす軟骨が加齢や肥満等の様々な原因により磨り減ってしまい、膝関節に炎症を起こしてしまう病気を主な対象疾患として医療機関へアプローチしているようです。
変形性膝関節症は、これまではヒアルロン酸等を打つか、手術により人工関節を入れるかしかできず、「ヒアルロン酸注射は効かないけど、人工関節はまだ早い」という中等症患者に対する最適な治療方法が存在しないという課題がありました。
セルソースは、このボリュームゾーンである中等症患者に対して、再生医療という新たな治療の選択肢を提供することでこれまで急成長を遂げてきています。
また、セルソースは、上記の加工受託サービスに加え、医療機関が患者に再生医療を提供する際に必要となる申請・届出業務に係る書類作成等を支援する「コンサルティングサービス」や、医療機関が患者から血液及び脂肪等の組織を採取するために必要となる機器を販売する「医療機器販売」も手がけています。
コンシューマー事業
セルソースは、創業初期は再生医療関連事業ではなく、美顔器の販売で収益を確保していました。
というのも、創業初期はセルソースにまだ実績がないことや再生医療が黎明期であったことから、病院に再生医療の営業に行ってもほとんど相手してくれなかったとのこと。そのため、再生医療関連事業だけで1期目から黒字化することはほとんど不可能だと考えられていたようです。
しかし、セルソースはVC等から資金調達をしていたわけではなかったので、赤字を出し続けるといつかキャッシュが尽きてしまいます。そこで、キャッシュフローを獲得するために、美顔器と化粧品の販売をスタートしたようです。といっても、美顔器や化粧品は自社で製造するわけではなく、メーカーから大量に仕入れてそれをアマゾン等のECで販売するという形態で事業を展開していました。資本金9,000万円のうち3,500万円を使って、1,000台規模で大量に仕入れるという勝負に出た結果、これが飛ぶように売れたことから、再生医療の赤字を補填しながら1期目での黒字を達成したようです。
現在の主力商品は、「シグナリフト」というブランドで、洗顔、美容液、クリームの3種類となっています。
また、今年に入ってからはYouTuberのヒカル氏が提供している化粧品ブランド「ReZARD beauty」とのコラボで、美容液やハンドクリーム、美容クリームを販売しています。
セルソースは、かねてより「D2C」のモデルから「BtoBtoC」のモデルに移行していくと宣言していますが、このコラボはまさにそのアクションのひとつだと考えられます。
ちなみに、BtoBtoCのモデルへの移行を目指しているのは、D2Cの場合は自社で広告宣伝投資を行いながら販売を行っていくことが不可欠となる一方で、企業やインフルエンサーがプロデュースする化粧品の製造をセルソースがサポートするという形に切り替えることができれば、自社で広告宣伝投資を行うことなく収益機会を獲得できる状態を実現できるからだとのことです。
冒頭で見たとおり、現在は全社売上高に占める化粧品・美顔器の売上高比率は小さくなっていますが、22年10月期の2Qから3Qにかけて、化粧品販売等の売上高が大きく伸びていることが分かります。
ヒカル氏とのコラボ商品の販売がスタートしたのが4月25日であることに鑑みると、3Qの化粧品売上が大きく伸びたのは、この商品の売上が化粧品事業に寄与したためであると推察されます。
驚異的な成長を裏付ける競争優位性
ここからは、セルソースがなぜ再生医療の事業で黒字を維持しながら脅威的な成長を遂げているのかということについて、幾つか考えられる同社の競争優位性の観点から迫ってみたいと思います。
技術力と信用が蓄積されていること
セルソースの再生医療サービスを提供している提携医療機関数の推移を見ると、非常に堅調に伸び続けていることが分かります。
なぜここまで提携医療機関数を伸ばすことが可能となっているのでしょうか?筆者の考察を少し述べてみます。
高い技術力
先述のとおりセルソースは、血液由来加工サービスにおける「PFC-FD」の製造技術について特許を取得しています。PFC-FDは、PRPを更に活性化させて、血小板に含まれる成長因子だけを抽出して濃縮していることから、成長因子の量がPRPと比べて約2倍だと言われています。
また、PFC-FDは成長因子を濃縮した後に凍結乾燥したものであることから、保存期間も長く、常温での管理が可能だと言われています。
このようなPFC-FDをはじめとする高い技術力を有していることは、医療機関を開拓する上で有利に働いているものと考えられます。
既に一定の加工受託実績が蓄積されていること
セルソースは、脂肪由来幹細胞加工及び血液由来加工の両方で、既にかなりの件数の受託実績を積み上げています。
医療機関としては、自分達の行った治療によって万が一にでも患者に問題が発生してしまうと、信用毀損により今後の事業運営が困難になるリスクがあるため、外部に委託する際はその委託先の信用を慎重に見極める必要があります。
その中でセルソースは、既にかなりの受託実績が蓄積されていることから、実績が積み上がっていない会社と比べて信用度が非常に高くなっていると考えられます。
このような状況下で再生医療の領域に目をつけて仮に大手の創薬企業等が参入してきたとしても、既に実績が蓄積されているセルソースの方が有利な状態がしばらく続くのではないかと推察されます。
強固なガバナンス体制
セルソースの社外役員の構成を見ると、錚々たるが顔ぶれとなっていることが分かります。
現時点でセルソースは役員陣のスキルマップを開示しておりませんが、プロ経営者、日証協理事、弁護士、医療・病院管理学領域における学者等、非常にバランスの取れたガバナンス体制が取られているのではないかと推察されます。
正直、美容や再生医療の業界には、適法・適切な治療を行なっているかどうかが怪しい事業者も存在するのが実態だと思われますが、これほどの経歴・スキルを持たれた役員陣が就任しており、かつ上場しているという事実は、新規に医療機関を開拓する上で実はかなりのアドバンテージになっているのではないでしょうか。
研究開発の負担が少なくて済む構造にあること
セルソースのPLの販管費内訳を見ると、非常に面白い構造になっていることが分かります。
バイオベンチャーであるにもかかわらず、研究開発費が非常に少ないのです。一般的にバイオ関連会社が大きく赤字を掘るのは、莫大な研究開発費をかけているからです。実際に、他のバイオ関連会社と比較しても、セルソースだけ明らかに研究開発費率が低くなっていることが分かります。
その結果、セルソースは、バイオベンチャーでありながら、30%を超える非常に高い利益率が確保できています。
なぜこのようなことになっているのでしょうか?ヒントは、セルソースが手がける再生医療の特徴にあります。
通常、医薬品というものは、特定の疾患を治癒することを目的として開発・製造されます。例えば、ワクチンは、特定のウイルスに対する抗体をつくることを目的としてつくられているものであり、当然ながら1つのワクチンをつくれば複数のウイルスに適用できるはありません。
一方で、セルソースが手がける幹細胞治療やPRP、PFC-FD療法は、ひとつの薬品によって人体の複数箇所に効用を与えることが期待されるという点に最大の特徴があります。例えば採取したPRPを膝に注入すれば変形性膝関節症への効果が期待されるし、子宮に注入すれば不妊治療への効果が期待されるということです。
セルソースの研究開発費が非常に少ないのは、一度幹細胞を培養する技術やPFC-FDを製造する技術を開発してしまえば、様々な疾患に適応できるようになり、それ以上規模の大きい抜本的な創薬研究を行う必要がないからであると考えられます。
つまり、事業から収益を確保することができれば研究開発のコスト負担が軽い分非常に高い利益率を確保することができるようになるという、構造的な優位性が存在すると言えるのです。
マーケットニーズの察知とサービス開発が秀逸であること
セルソースは、医療機関向けに再生医療の加工受託事業を展開していますが、それ以外にも様々なサービスを提供しています。
例えば、先述した再生医療の法規対応サポートや医療機器販売等のサービスです。
セルソースのような「再生医療のセントラルキッチン」が存在することで医療機関は多額の設備投資を行うことなく再生医療を開始することができるわけですが、実際に始めようと思ったら認可取得等の手続や機器の購入等を行う必要があります。これは、医療機関が再生医療を開始するにあたってのハードルとなり得ます。
そんな中、セルソースが法規対応サポートや医療機器の販売等を通じて全面的にサポートしてくれることで、医療機関としては最小限のリスクで再生医療のサービスを開始し、新たな収益機会が期待できるようになります。
つまり、法規対応等のサービスを提供していることで、医療機関を開拓するにあたってのハードルを下げることができることができていると考えられるのです。
その他にも、セルソースは今年の6月に、再生医療の技術を人間だけでなく他の動物領域にも拡大していくために、ペット保険シェア No.1のアニコム損保を子会社に持つアニコム ホールディングスと業務提携したことを発表しています。
これにより、アニコムの動物病院や、アニコムグループの営業力を駆使して獲得した動物病院に対して再生医療サービスを提供することを企図しているとのことです。
この動物領域での事業はスタートしたばかりなので、現時点で収益貢献はほとんどしていないはずですが、将来的に大きく収益貢献していくための打ち手のひとつだと言えます。
これらのサービスは、「素晴らしい製品を開発したので、使ってください!」というプロダクトアウト型ではなく、「マーケットでこのようなニーズがあるから、こんなサービスを提供しよう」というマーケットイン型のアプローチを採っていないとなかなか提供できません。
そんな中でセルソースは、このマーケットイン型のアプローチを徹底しているという点に大きな特徴があります。
実際に裙本氏も、NewsPicksのインタビューにて下記のような見解を述べられています。
つまり、セルソースは徹底したマーケットイン思考で業界のニーズを鋭く察知し、そのニーズに合致するサービスを、適切なパートナーも上手く巻き込みながら開発するという点で非常に優れていると考えられるわけです。これが、同社の驚異的な成長を裏付ける一因になっていることは間違いないと思います。
医療機関との距離が非常に近いこと
セルソースが提携している医療機関の数は既に1,300を超えていますが、セルソースはプラットフォーマーとして医療機関と関与しているわけではなく、営業により開拓を進め、提携後も直接医療機関とコミュニケーションをとっています。つまり、医療機関との距離が非常に近いと言えるのです。
製薬会社がインターネット上で医師にアプローチできるサービスを提供している代表的な会社としてエムスリーが存在しますが、製薬会社以外にも医療機関にアプローチしたいと考えている事業者は数多く存在します(例えば、医療機器メーカーや健康機器メーカー、医療機関向け経営管理ツールのベンダー等)。
そのような中でセルソースは、この「医療機関との距離が近い」という特徴を活かして、医療機関にアプローチしたいと考える事業者に対してマーケティング支援サービス等を提供しています。
例えば、サイバーダイン社と提携して、リハビリに活用されているHALを用いた身体の機能改善プログラムを医療機関向けに提案することを行なっていたりします。
このように、医療機関に対して医療機器や健康器具を販売したり、医療機関向けのクラウドサービスの導入を提案するといったことが、広告費をほとんどかけることなくできてしまうため、様々な形で事業を展開できる可能性があると言えます。
そのため、提携している医療機関の数が多く、かつ各医療機関との距離が非常に近いということは、間違いなくセルソースの強みの源泉になっていると考えられます。
現在掲げている成長戦略
垂直的かつ水平的な成長
そんなセルソースですが、垂直的成長と水平的成長の両方を実現する成長戦略を掲げています。具体的には下記のとおりです。
対象診療領域の拡大
対象地域の拡大
マーケティング支援、データ活用、予防医療等の領域への参入
現時点では変形性膝関節症の市場をメインターゲットとしていますが、先述のとおり、再生医療は横展開がしやすい構造となっているため、現在手がけている整形外科領域だけでなく、産婦人科、形成外科、脳神経内科等、呼吸器内科等の領域にも参入していくことが可能となっています。その中でもまずは形成外科及び不妊治療の領域に展開していくとのことです。
また、現在は国内を中心に事業を展開していますが、まずはアジアを中心に整形外科領域での事業を広げていくとのこと。
最初はマレーシアからスタートするようですが、海外展開を行う際はパートナーとの連携が不可欠になるとの考えの下、マレーシア国内で6,000院のアクセスを持つ大手総合商社とアライアンスを組みながら事業展開していく計画を立てています。
マレーシアでの事業展開の計画については、下記の動画で詳細に説明されているので、是非ご覧ください(13:40〜)。
加えて、先述したマーケティング支援だけでなく、データ活用や予防医療の事業も手がけていくことを狙っています。こちらも現在エムネスやアシックス、オムロンと提携していることが上図から分かりますが、今後も提携パートナーを増やしながらバーティカルに事業を拡大していくものと考えられます。
セルソースインフィニティ
このような成長戦略を実現するために、セルソースは「セルソースインフィニティ」という成長モデルを掲げています。
研究成果から臨床実績を生み出すことで得られるブランドや信用を元に、様々なステークホルダーとも提携しながらサービスを開発、そしてそこから生まれるキャッシュを更に研究へ。というサイクルを高速で回すことで、他社との差別化を図りながら成長するこのモデルは非常に秀逸だと思いました。
通常のバイオベンチャーの場合は、赤字を掘りながら①の研究に膨大な時間とコストをかけますが、先述のとおりセルソースはここに膨大な時間とコストをかける必要がないため、高速で実績を溜めていくことができるようになっています。
また、化粧品メーカーの会社の場合、通常は儲かった資金を広告宣伝投資に使っていきますが、セルソースはこれを再生医療事業の研究開発に投じることで、技術力の強化や他領域への参入を可能にしているわけです。まさに創業初期に美顔器の販売事業から生まれる利益を再生医療事業に投じていた構造と似ています。
このセルソースインフィニティを高速で回すことで、莫大な資金調達等を行うことなく、自社で十分なキャッシュフローを確保しながら、先ほど述べた垂直的かつ水平的な成長を遂げていくことが狙いなのだろうと推察されます。
リスク事項
セルソースは、「事業等のリスク」を有報に詳細に記載してくれています。そのため、一部有報からの抜粋も含まれますが、筆者が考える同社のリスク事項をまとめておきます。
再生医療の関連法規制の改正による影響
再生医療はまだ黎明期であることから、これから再生医療を手掛ける事業者は増加していくものと考えられます。それにあたって、例えば脂肪由来幹細胞や血液を用いた再生医療による医療ミスが頻発したり、重篤な症状を引き起こす等の事故が起きた場合には、再生医療の実施要件が厳格化される法改正が行われ、再生医療を手掛ける医療機関の増加が鈍化する可能性があります。
また、現在セルソースが対象としている変形性膝関節症等の疾患は自由診療となっていますが、これらが保険適用となった場合、医療機関としては収益が診療報酬の点数によって決められてしまうため、セルソースに対して加工委託費の減額を要求する可能性があります。
その場合、セルソースの利益率が低減してしまう可能性があると考えられます。
特定の取引先に対する依存度の高さ
2021年10月期の売上高2,922百万円のうち、47.2%に相当する1,378百万円が、医療法人社団活寿会(以下、活寿会)及び活寿会が運営するクリニックとなっています。
活寿会は、「ひざ関節症クリニック」を展開する医療法人で、同クリニックはセルソースの共同創業者であり、取締役でもある山川氏により開院されています。
現在は山川氏は経営及び運営に関与されていないとのことですが、取引額が非常に大きいため、今後何らかの理由で同クリニックとの関係性が悪化したような場合、又は活寿会の経営環境が悪化したような場合、セルソースの
売上に影響を受ける可能性があります。
再生医療の風評リスク
先述のとおり、再生医療の領域はまだ黎明期であることから、今後様々な事業者が参入してくると考えられます。その中で、一部の事業者が医療ミスや事故を起こしたり、効果を実態よりも誇張するような広告宣伝が出回る等に起因して、再生医療業界全体に対するイメージが悪化し、治療を受ける患者数が減少するリスクがあると考えられます。
医療機関との関係性
セルソースは、医療機関との距離が近いという強みを活かして、マーケティング支援やデータ活用、医療機器販売等を手がけていることに言及しました。
この強みを活かしてセルソースが今後更に成長を加速していくことが期待されていますが、例えば医療機関に対してサービス提案を行いすぎたり、医療機関にあまりメリットがないサービス提案を行ってしまったような場合には、医療機関との関係性が悪化し、「セルソースと取引をすると色々な営業をされる」という風評が医療機関内で出回る可能性があると考えられます。
今後産婦人科や脳神経内科等診療領域を拡大していくにあたって、「整形外科とは価値観や考え方が違う医師が多い」といったことが起こることも考えられるため、このあたりのマーケティング支援等の提案については、医療機関との関係性が悪化しないよう十分配慮しながら行っていく方針を有しているかどうかは考慮すべきポイントかと思われます。
まとめ
セルソースは、2015年に設立されたばかりの会社でありながら、破竹の勢いでこれまで成長を遂げてきました。
それを可能にしたのは、再生医療という事業領域において、確かな技術力や蓄積してきた信用という優位性を持ちつつ、マーケットイン思考で業界のニーズを敏感に察知し、当該ニーズに合致するサービス開発をできているからだと考えられます。そしてこの戦い方こそが、バイオベンチャーでありつつも、他社とは大きく異なるポイントだと言えます。
まだまだ再生医療の業界は黎明期であり、様々な不確実性が存在する領域だと思われますが、世界の再生医療業界を牽引する存在になることを本気で目指している同社は、引き続き興味深くウォッチしていきたいと思います。
ということで、本日は長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
参考リンク
血小板、PRP(多血小板血漿)とは
http://www.igaku.co.jp/pdf/2021_beauty-02.pdf
ディスクレーマー
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