登山とダイエット②
ちょっと休憩しようよ
思わず言ってしまった。僕より細く、性格も柔らかい彼が上から振り向いてくれた。
ほんなら、給水タイムやな。
いやいやちょっと上から目線の言い方。だけど、ありがとう。感謝します。ほんまにありがとう。
また少し登り、同じことを繰り返す。
少し話そうや。人生についてとか。景色についてとか。最近のニュースとか。
また登り始めて、背中も見えなくなる。
もう友達ではない。あいつはもう、友達ではない。どんなに優しい言葉をかけられても、こちらからお断りだ。もう、友達ではない。
前日に用意してリュックに入れた水がすぐ空っぽになる。
だから言ったやん。多めに持ってきて困ることないからだって。いやいや、毎日そんなに水飲まないし、多めに500mlのペットボトル2本持ってきたけど…。
もう、こいつとは絶好だな。でも今は道もわからないから、山を降りてから、絶交しよう。ゼーゼー、ゼーゼー、自分の呼吸が限界に来ていることがわかる。また背中が見えなくなってきた。
膝が痛くなってきた。もともとヘルニア持ちだし、腰も重たくなってきて、膝に手をついて登る。
モー嫌だ、逃げ道がないではないか。ずっとコイツの冷たい背中を見続けて、ボロボロになって、一体どこまでいけばいいんだ。
あとどれぐらいかな。
ついに、聞いてしまった。聞こう聞こうと思っていたが、なかなか言い出せなかったセリフ。あとどれぐらいかな。この言葉がこんなに重く感じたのは、高校時代のラグビー部で先輩が笛を吹くまで終わらないランパス以来だった。
期待と怨念を込めて聞いた。
怨念が伝わったら、いやいや、それなら来なきゃ良かったやん。と言われたら心が壊れる。怨念が伝わらないように、明るく言ったつもりだった。
こんなつもりじゃなかった。たかが600mの山に登ることなんか大したことじゃないと思っていた。富士山は3000m以上。たかが、たかが、たかが…
もうすぐやでー
おっ、もうすぐなんや!
もうすぐなら行ける。俺は行ける。600mの山頂に立てる。
ほんとはもう少しなら体力を残してたんや俺は。山頂に立って、爽やかな笑顔で写真を撮れるだけの体力と気力は本当は残してるんよ。なめたらアカン。大人やもん。
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