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The Choice 人生の底で自由を得る話

1ヶ月間、英単語と格闘しつつ読み終えました。
The Choice「選択」 。
副題は、Even in hell,hope can flower「地獄の中でも希望は咲く」

作者のエディスイーガーは
生き残ったアンネ・フランク」と呼ばれています。

そしてこの本は、生存率数%の虐殺収容所、アウシュビッツ収容所を生き残った彼女の半生を書いた自叙伝です。

戦後一躍有名になった「アンネの日記」はドイツの秘密警察から隠れ住む生活が中心でした。
この本はその続きのようです。強制収容所から、戦後、現在いたるまでの時間を穴埋めします。
そのため、「アンネが経験できなかった」人生をエディスの体験で補完しているように読み取れるのです。

「生き残ったアンネ・フランク」と銘打ったのは糸井重里でしょうか?
すばらしいコピーライト。納得のストーリーでした。

まず印象的だったのは、突然の不幸。
収容所で家族と死に別れるシーンです。

「死の天使」と呼ばれた医師、メンゲレがポーランド、アウシュビッツに輸送されてきたユダヤ人を問診します。

そして、ユダヤ人1人1人に「右」、「左」と指示をする。言われた囚人はそのとおり、右の列、左の列に並びます。

右の列は、労働力として生かされるひとたち。エディスと、彼女の姉は右の列へ。

反対に、母親や祖父母はその場で左の列へ。
その列は、労働に不十分とされ、そのままガス室に送られる運命をたどりました。
しかし、その時には何も知らされません。

後日、カポ(囚人役人)からエディはこう言われます。
もう母親のことは過去形で話したほうがいい

16歳の少女にとって、この突然の別離がどれほど苦しかったか。しかも、事故ではなく、故意に。1人の医師に生死を決められたのです。指先だけで。
想像を絶します。

その後、彼女と姉は、幸運にもアウシュビッツの門を再びくぐり、解放されることになります。

しかし、すぐに幸福になったわけではありません。
ナチスドイツは崩壊しましたが、ユダヤ人差別はまだ根強く残っていました。ヨーロッパを離れ、自由の国アメリカに移住しても、そこでも貧富の差、貧しさから起きる衝突が絶えません。

それがあっても、そして、アウシュビッツ、ナチス・ドイツを心の枷として引きずりながらも、最終的にそれらをどう心の中で精算していくのか。それがこの本の読みどころです。

この克己を印象付けるシーンがあります。
アメリカに移住したエディスは、その後精神科医になります。そして、仕事の一環として、心の回復、トラウマの克服に関する講演の機会を得るのです。

しかし問題はその場所でした。
会場はドイツ。しかもイーグルネスト(鷹の巣)の間近だったのです。
イーグルネストは、かのヒトラー本人の別荘があった場所です。

過去の凄惨な風景がフラッシュバックし、手が震えるエディス。いったん講演依頼を断ろうとしますが・・・

彼女の夫から、背中を押されます。

If you don't go to Germany then Hitler won the war.
もし君がドイツに背を向けるのだったら、ヒトラーはあの戦争に勝ったことになるよ。

すでにヒトラーはいない。その死者に対して、恐怖を持ち続けていたら、一生エディスは彼の影に怯えて過ごすことになってしまう。荒療治かもしれませんが、その恐怖の本拠地と、エディスは向き合い克服すべき。そう彼は励ましたのです。
しかし、そう応援する彼自身も同じ立場。家族の多くをホロコーストで失っており、心の傷は深いはずです。

たどたどしく読んでいた手も止まるほど、目頭が熱くなりました。

その後、彼女が何を選択し、今に至ったか・・・ぜひ続きを読んでいただきたいです。

わたしに関係無い話なのか?


戦中、収容所の話題なので、今の生活とはかけ離れた戦争記録として読むこともできます。
しかし、エディスの口ぶりが、そんなことは無い、昔も今も、たとえ収容所の外でも、心の病に苦しんでいる人はいる。そう教えてくれます。

他のアウシュビッツ体験者の話と違うのは、本の相当ページが、彼女の患者について割かれている点です。

彼女自身認めているのです。確かに、収容所は過酷で、自分にとっては地獄だったけれど、誰よりも辛かったと優劣をつけたいのではない、と。
辛さに差異はない。1人1人、自分だけの収容所の記憶がある。だから、自分の人生だけではなく、自分にそれを教えてくれた患者の人柄や、やりとりも記録されているのです。

彼女が何度も繰り返す言葉があります。
タイトルの通り、The Choice(選択)です。
何を選ぶか。どんな言葉を選ぶか、どの態度を示すか、そしてどの道を選ぶか次第で、人生は変わる。
時と場所を選ばず、例え一番酷い瞬間、収容所の中でも、自分らしく生きることができる。
自分の体験を通して示してくれているからこそ、説得力があります。

戦争記録としてだけ読むにはもったいない。

過去に引きずるネガティブな気持ちがある人にこそ読んでほしい。
「読むクスリ」として、うってつけの処方箋です。

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