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今までの参加レコーディングを振り返る Vol.16 アンディ・エズリン Ballad 2002

今までの参加レコーディングを振り返る Vol.16 アンディ・エズリン Ballad 2002

ジャズの全盛期、1930年代から60年代まで、いわゆる今でスタンダードと呼ばれる曲たちは当時のヒット曲ばかりでした。ブロードウェイやティンパンアレイ、ミュージカル、映画のテーマ曲、など。

時代は流れていき、ジャズがアートフォームの一つとして確立されるに従って、こういった流行歌を演奏する機会も減っていき、もっと自分の表現を求めてオリジナル曲を演奏する人たちが増えていきます。
その一方でジャズの良き時代の演奏にこだわり、伝統を守る人たちも沢山いて、そのアーティスト達はスタンダードナンバーにこだわり続け、今でも1920年代から40年代に作られた曲を演奏しています。

どれが良いということは一概には言えません。古いスタンダードナンバーは、ジャズを演奏するのに向いている作曲法が取られていることもあり、演奏し続けられる理由は十分にあります。近代のヒット曲はわざとそれとは違ったスタイルで作られている事もあって、アドリブを取りながら展開するのに向いていなかったりもします。

これは主にアメリカでの話です。取り上げられるスタンダードはたまに、シャンソン、クラシック、そして南米の曲なども含まれます。

それでも徐々に、古いスタンダードが中心の選曲が圧倒的に多いのがジャズという分野の現実です。

中には、これに真っ向から対抗して、わざと現代のヒット曲を取り上げるアーティストもいます。
マイルス・デイビスなどはその代表的なアーティストで、マイケル・ジャクソン、シンディ・ローパーの曲を演奏して皆を驚かせました。
そもそも、マイルスが台頭してきた1940年代後半に演奏していたのは当時の流行歌。マイルスにとっては流行しているものを演奏することはごく自然なことだったのかも知れません。

さて、日本はどうでしょう?数々の名曲が生み出されていますが、ジャズで演奏される機会は圧倒的に少ないかと思われます。ジャズピアニストの中村八大さんが作曲した「上を向いて歩こう」は世界的大ヒットで取り上げられる機会が多い作品かと思います。しかし、その後、日常的にジャズで演奏される曲があるかと言えば、企画された特別な機会を除いてはあまりないと言えます。

これに疑問を持った音楽プロデューサーの木全信さんが僕にまとめて日本の曲をジャズで演奏したアルバムをシリーズで作って欲しいと、話を持ちかけてくれました。

1990年代後半、その当時は僕はニューヨーク在住であり、アメリカのジャズシーンにもそろそろ溶け込んで、アメリカやヨーロッパでの演奏活動も軌道に乗ってきたところでした。

しかし、僕自身もずっと「なぜ、日本の流行歌がジャズの演奏であまり取り上げられないのか」という疑問をずっと抱いてきました。

それまでも日本の流行歌をジャズで演奏したアルバムというのは時折発売荒れていましたが、どちらかというとBGM用に作られたものが多く、ピアノトリオがガッツリと取り組んだものは無かったように思います。

そこでピアニストのアンディ・エズリンにお願いして、シリーズで10枚作ることになりました。アンディは近年ではデビッド・サンボーンのグループに参加していたり、映画やドラマの音楽で賞をとったりしている素晴らしいアーティストです。

日本の流行歌を演奏するということなのでアレンジは僕が全曲担当することになりました。新しいアレンジを一度に4日で5枚分録音するという、マイルスもびっくりのマラソンセッションです。
アレンジもジャズが好きな人も楽しめて、しかも原曲を知っている人も楽しめるという、ある意味一番ハードルが高いもの。
当時、まだコンピューターやインターネットがそれほど発達していなかった事もあり、手書きでの譜面の作業を移動の飛行機の中などで行って間に合わせた思い出があります。

録音はほぼ1テイクか2テイクとってどんどん順調に進みました。この辺りにアンディと、ドラマーのザックの瞬時に音楽を把握する能力の高さに驚きましたが、彼らにとっては当たり前のことのようでした。

録音は1999年に行われ、シリーズで10枚発売されました。その後、バラードばかり集められ一枚のアルバムにしたのがこの「Ballad」です。

ジャズとして聞き応えがありつつも原曲を知っている人も楽しめるものを日本の流行歌でもできるという可能性がひらけた思い出として、僕の活動の中でもその後の指標として強く記憶に残っているアルバムです。

日本にもいい曲がたくさんありますね!

追記、Apple Musicに違う形で30曲集めたアルバムがあります。もちろん個別のものもあります。


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