見出し画像

「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」(2022) のバカバカしさに埋没した画期性

2023年10月27日週

チャドウィック・ボーズマンの死後制作され、アンジェラ・バセットがオスカー助演女優賞にノミネートされた「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーバー」をやっと観ました。

もっとタイムリーに観たかったのですが、マーベル映画は一応時系列があって未見作が積み上がってたり、毎回3時間近くの長尺だったりして、個人的には割と見るまでの心理的障壁が大きいのですよね…Dieney+独占配信だし。

マーベル映画の善悪二元論的な世界観や荒唐無稽さについては世の中に与える害悪の方が大きいと思っており、スコセッシ監督と同じく自分のスタンスは複雑なのですが、一応見てから文句を言うことにしています。笑

今のところ本作まで「ラブ・アンド・サンダー」を除き全作観ているのですが、どうも「マイティ・ソー」シリーズだけは苦手です。毎回後半30分〜1時間のお決まりの(プロレス)アクションシーンが観ていて辛く、睡魔に襲われてしまうのですよ。

そんな中、「ブラックパンサー」シリーズと「なんちゃらギャラクシー」シリーズの設定には画期性を感じており、毎回楽しみにしています。

「ブラックパンサー」シリーズの何が画期的なのかというと、まずは黒人中心のキャストです。前作のシリーズ1作目はBLM(ブラック・ライブズ・マター)ムーブメントの象徴的な作品となりました。

同時期に制作されオスカーにノミネートされた黒人キャスト中心の作品群にも見応えのあるものが多く、ハリウッドがこれまでいかに黒人側から見た歴史やストーリーを無視してきたか、目の覚めるような現実を観客に突きつけられました。

「ブラックパンサー」シリーズは、事実を元にしたものが多いBLM時期の映画群と違ってフィクションであり、ファンタジーではあるのですが、今まで見たことのない強すぎる黒人女性キャラの活躍を見るのが新鮮で、楽しく感じます。

主人公が黒人男性であれ、黒人女性であれ、映画そのものの出来には全く関係がないという不都合な真実を改めて実感させられます。

他の映画で見る機会の少ない見た目麗しい黒人俳優を発見する、という楽しみもあります。

今作「ワカンダ・フォーエバー」は、ワカンダ国が、奇跡を起こす鉱物「バイブレイニアム」を巡り、青塗りの「アバター」クリソツな種族のタロカン帝国が争います。タロカン帝国は水中のビジュアル描写が大変美しく、一見の価値があります。

マーベル映画アルアルの設定なのですが、面白いのは、その争いのきっかけが、なんとフランスやアメリカなどの国連加盟国がバイブレイニアムを狙ってテロ攻撃を仕掛けてくる、という筋書きになっているのです。

これって微妙に、というか真正面からongoingな政治批判になってませんか?そのサブプロットが途中でどこかに行ってしてしまうのが残念ですが、大人の観客が楽しめるポイントのひとつになってると思います。

また、今作で一番ムネアツなのは、一作目で主人公を演じたチャドウィック・ボーズマンの現実の病死をうまく利用して映画に深みを与えることに成功していることです。

チャドウィック・ボーズマン演じたキャラを救えなかったことで傷心の妹に掛けられるセリフが最高です。

"Only the most broken people can be great leaders"
(最も壊れた人間だけが優れたリーダーになれる)

マーベル映画のセリフに感動する事など一度もなかったので感心してしまいました。

後半1時間は例によって出来レースのプロレスが始まるのですが、これがまたバカバカしい限りで残念です。致命傷を負ったと思ったらどっこいまだ生きてる。この辺のお決まりの展開は、同じファンタジーアクションでも「ゲーム・オブ・スローンズ」の筋書きを少しでも見習ってほしいな、と切に思います。マーベル最新作「マーベルズ」の興行成績が悪く、飽きられてるという批評を読みましたが、その通りと思います。ただ、アクションシーンのビジュアルは見どころが多いことも付け加えておきます。

というわけで楽しみにしていた本作、尺が長すぎたりプロレスシーンの凡庸さもありつつ、実は黒人女性を主人公にした画期的な映画でした、ということで個人的な評価は四つ星です。⭐️⭐️⭐️⭐️


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?