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都市伝説だった技|スケボーの記憶 #5

少し間が空いてしまいました。34歳のぼくが中学時代のサイパンでのスケボーの日々を振り返るシリーズ、今回で5本目ですか。

前回は脱臼ということで、ちょっと痛々しい話でした。スケボーにケガはつきものですが、できればケガってしたくないですよね。受け身を知らずにこうなっちゃったので「転び方って大事だよね」という内容になっています。

あ、そうそう、マガジンも作成したので、よかったらフォローしてもらえると感激です。

今回は「都市伝説」という、ちょっとすごいワードを入れてしまいましたが、そこまで誇張はしていないような。スケボーの技の話になりますが、「それってほんとにできるん?」「これ実は無理なんじゃない?」みたいに感じていた技があったというお話です。

今でこそYoutubeもあればインスタもあるし、スケボーパークにいけばうまいスケーターの滑りだって見ることができます。でも、ぼくが中学時代の頃はというと、インターネットは使えば使うほどお金がかかるし、ミクシィなんてなければフェイスブックの「ふぇ」の字もでてきていない。DVDではなくVHSの時代です。

そういえば、当時VHSのことを「ビデオ」って呼んでましたけど、いま「ビデオ」というと全然違う意味になってますなぁ。

ぼくが当時「都市伝説なんじゃないか」とすら感じていた技の名前が、キックフリップです。蹴って(キック)回転(フリップ)させると。

技の解説を入れると、キックフリップというのは板を縦方向に回転させて着地する技です。以前ジャンプする「オーリー」という技に触れましたが、キックフリップはいわば「オーリー中に板を回転させて乗る」という動作です。

キックフリップも基礎的な技ではあり、これができるようになると180度横回転を入れたり、体もねじったりと難易度が上がっていきます。

当時のぼくは、とにかくVHSを見まくっていた。サイパンに1つだけスケボーショップがあって、あとはグアムに友達と行ったときにビデオを数本買ったりとか、そんな風にしてたくさんスケボービデオを持っていました。

すでにオーリーができていて、おそらく180オーリー(体も回転)とか、ショービット(板を180度横回転)もできていたと思います。その流れでステップを踏んでいくと「次はいよいよキックフリップだ」となるわけです。

ただ、ここが大事なのですが、当時のスケボー友達では誰もキックフリップはできていなかった。目の前でキックフリップを見たことがなかったんです。さっき「グアムに行ったときに」と書きましたが、たぶん、この頃はまだグアムには行っていない。グアムはスケボーレベルが段違いなので、行っていたらキックフリップは見ていただろうと思います。

だから僕にとってのキックフリップは、「ビデオではプロがやっている」というものでしかなかった。でも映像であれ、やっているんだからできるはずだ、と練習するわけです。これがこれが、全然できない。

それでビデオのキックフリップのシーンを「ガチャ!」と巻き戻しては再生、また巻き戻して再生、一時停止してフォームを見る。これをとにかく何十回と繰り返して脳に焼き付ける。「そういうことか!次はいけるぞ!」と意気込み、練習してみると「ぜんぜんできねー!」となる。これの繰り返しでした。

そうして練習していくと、だんだんと「これひょっとしたらCGなんじゃないか?キックフリップって実は人間の構造上できない動作なんじゃないか」とかって疑心暗鬼になってきます。できないことの言い訳でもあり、実際に見本を見てないことでの不安でもあります。「おれはこれを続けていいのだろうか...」みたいに手でつかめないものをつかもうとしているのではないか、と心配になってくる。

キックフリップは脱臼する前くらいから練習ははじめていたかもしれません。ただ、覚えているのは、キックフリップの成功へと大きく動きだしたのが脱臼後ということです。

ついに、友達のひとりがキックフリップ成功させちゃったんですよ。

いやぁ、もちろん悔しかったとは思う。先を越されたー!って。でも同時に「都市伝説じゃなかったんだ」と実感がもてた。これ以降、他の友達もどんどん成功していき、ぼくもできるようになりました。

振り返って思うのは、「目の前で生身の人間がやっている」という体験の威力です。今の時代、YoutubeやSNSでやばいレベルのスケーターの滑りはいくらでも見ることができる。それを見て「やべぇ!」ともなる。それと同時にその体験というのは、その滑りを目の前で見るのとは大きく違うということ。だって具体的なコツというのを教えてもらったわけでもないのに、「できるんじゃん!」とやる気がわいてきてできちゃった、というパワーがあったわけです。

ここで思い出すのが、コルク代表の佐渡島庸平さんの言葉。以前読んだコミュニティに関する本に書いてあったのが「コミュニティ内で、身近な人が大きな物事を達成すると、自分も"できるんだ!"という実感につながる」というようなものでした。(厳密な表現は違ったと思いますが...)

ぼくのこのキックフリップ体験を振り返ってみると、ビデオで見ていたプロの滑りというのは、いわば「遠い存在」だった。その遠い存在の人がいくらすごくても、なんだか実感がわかなかった。でも、自分にとって近い存在の友達が成功すると「ぬおー!できるんかーい!じゃあ俺でもできる!」と、救いとモチベーションが同時にわきあがってくるような感覚がありました。

テクニカルなコツとか、そういう「理屈で上達する」というのももちろんあるとは思いますが、それ以上にライバルであったり仲間であったり、そういう「存在」の動向が自分に影響を与えるインパクトというのはとても大きいんだなと思います。

ということで今回は、「これ実は無理なんじゃん?」と思っていたキックフリップという技ができるようになったきっかけのお話でした。ではまた。


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