吉沢拓真

編集。海辺や河川敷を散歩することが好きです。映画、読書ノートなど。どうぞよろしくお願い…

吉沢拓真

編集。海辺や河川敷を散歩することが好きです。映画、読書ノートなど。どうぞよろしくお願いいたします。

最近の記事

磯野真穂さん『ダイエット幻想』

 はじめてやせようと思ったときはいつごろだったでしょうか、またそれはどうしてでしょうか。著者はやさしく問いかける。それはおおよそ「どういう自分でいたら他人に受け入れてもらえるのかを考え始める時期」(本書13頁)であるという。  着たい服を着たいというよりも、その服を着た自分を認めてもらいたい、よりきれいに見られたいと思う気持ちは誰にもある。そういう承認を求める気持ちの複雑さにも著者は目配りする。「承認欲求がありすぎるとみなされるや否や、自意識過剰といった形で批判されたり、ひ

    • 安克昌さん『心の傷を癒すということ』

       阪神・淡路大震災で被災された方々の心の声に耳を傾けた精神科医、安克昌さんの文章が心に響く。震災後の活動をめぐる丁寧で精確な語りは、この流動的で落ち着かない状況にも確かな言葉を届けてくれる。  震災後の気分の落ち込みや高揚の激しさは、「その人の精神力が弱いからではなく、人間としてごくあたりまえのこと」であり、「異常な状況に対する正常な反応」であるということをまず明確化する(61頁)。体験を分かち合う相手がいない孤独感、生活が立ち行かなくなるのではないかという焦燥感、そしてな

      • 平野啓一郎さん『ある男』感想

         たとえば信頼していた相手の素性がまったくの嘘であることがわかったとき、あなたはどう反応するだろうか。過去は逃れられない呪縛であって、それを乗り越えることはできないのだろうか。  苦難の境遇が強いた自己嫌悪と自己欺瞞の果てに、まったくの「別人」として生きなおす方法はある。しかしその生もまた、それまでの半生とともに〈分人〉のひとつではないか。自分の過去を否定しようとしても無化することはできず、他者の正確な過去を知ることもできないなかで、それでもいま、ここにいる相手の全体を愛しう

        • 在宅の快と不快

           外での行動を抑制しなければならない状態が続いているので、家にいる時間は長くなっているのですが、恥ずかしながら家にいると仕事に集中できないことが多いです。 家に帰ることもできずに危機的状況に直面している医療関係者、研究者の方々もいるというのに、ばかげた言い訳のように聞こえるかもしれません。ですが、ちいさな一室に仮住まいする身にとって、家はなによりもくつろぐ場所であって、なかなか仕事をするモードに自分をもっていくことができない。いままで持ち帰りの仕事はカフェやファミレスで深夜

        磯野真穂さん『ダイエット幻想』

          言葉の実質をめざして

           この先、どうやって生きていけばいいのか。どうすれば自由で歓びのある人生を生きることができるか。本当に気の合う友人たちと、家族と、それぞれがそれぞれ固有の人生を追い求めながら、ともに生きる時間を分かち合うことを積み重ねていくにはどうしたらいいか。  本や美術や映画やあらゆる〈作品〉とよばれるものとともに生きていくことは決めていた。それでも、どうすれば作品の魅力性を十分に味わうことができるかという課題に直面している。自分が透明な存在であると感じられても、多くのものが自分を通り

          言葉の実質をめざして