見出し画像

小さなベンチャー企業には営業とマーケティングの区別はいらない。

株式会社キカガクの吉崎と申します。
弊社はAI分野の社会人向け研修事業を手掛けており、現在会社は4期目。
オフラインの研修事業ということもあり、コロナウィルスの影響を大きく受けながら、社員一同でなんとか歯を食いしばっています。

今回はタイトルの通り、『営業とマーケティングってなんで分ける必要があるの?』について弊社目線で失敗談を含めながら紹介していきます。
今回は私の経験している数十名程度のベンチャー企業で働く人に向けて書いています。
私はこれ以上の規模の会社を経験したことがないため当てはまるかわからないのですが、肌感としては数百名規模の会社でも同じように当てはまる気がしています。

What is difference between "sales" and "marketing" ?

さて、はじめに質問からはじめていきましょう。
みなさんの考える営業とマーケティングの役割はなにか言語化してみてください。
◯◯は営業が担当して、◯◯はマーケティングが担当するといった風にお互いの介入も少なく明確な役割分担ができている人にはこの記事はもう必要ありません。
その素晴らしい役割分担でこれからもぜひ進めてください。
逆に、この役割分担が明確でなく、以下のような回答になっている会社はこの後の内容を読むことをおすすめします。

訪問の商談が営業で、Web運用がマーケティング

さて、なぜこれが小さな会社にとって間違いの始まりであるか、私の失敗談を含めて、生々しい経験をベースに紹介していきます。

私は 2017年1月に、ひとりで今の会社を立ち上げました。
当然のことですが、商談講義もすべてひとりでこなしていました。
ひとりですべての作業をこなし続けていると3ヶ月もすれば、体力が尽きそうになります。
インターネットで解決するための手段を探し、藁にもすがる思いで、マーケティングという突破口を見つけました。
言葉だけ聞くと、営業が昔ながらの古臭い仕事で、マーケティングデータに基づいて意思決定をしていく、これからの時代の仕事であり、AIを含めたデータサイエンスを生業にしている自分にとっては合理的に感じる仕事でした。

ただし、そんなうまい話は流石にないなと感じていたため、まずは知識ベースのインプットを書籍を読みながら始めました。
主に、広告運用系のマーケティングと、コンテンツマーケティング系のマーケティングに分かれていると感じ、前者は広告費用を投入して短期的な施策後者は人力で記事を根気強く書いていく努力も必要となり長期的な施策と書かれていました。
そして、その本にはこうも書いてありました。
「マーケティングの目的は営業をしなくても良くなることだ」
日々の営業に疲れ切っていた私にとって、これほど魅力的な言葉はありませんでした。

当時は広告費用にかけられるお金もありませんし、長期的な施策に投じる人力もなかったため、結局諦めて、日々の営業を続けました。
幸いにも、この当時、私の次に入社してくれた今西(現:取締役)もこの方針に異議を唱えることなく、二手に分かれて毎日のように商談を行い続けてくれました。
営業に行き過ぎて、そんな2人の会話はスーツや靴へのこだわりの話ばかりでした。
特に私のお気に入りはアシックスの RUNWALK で、キカガクの営業に携わるメンバーの多くはこの靴を履いています。

話は逸れましたが、商談のための営業活動と言いつつも、突撃の訪問のようなプッシュ型の営業は時間の成約もあり一切行わず、日々問い合わせから来るプル型の営業のみを行っていました。
その問い合わせの商談の中からどれだけクロージング(契約成立)できるかを追っていました。
ここまで創業してから約1年。
投じたマーケティング費用は 0 円で、マーケティング担当も 0 人でした。
それでも時代の流れもあり、1年間、新規の顧客を開拓しながら集客はある程度うまく行っていました。
※ ただし、これはただの過去の栄光であり、現状では再現性はなさそうというバイアスを除いて見ることも大切です。

ちなみに、この頃に定期的に行っていたのが、Qiita などで AI に関する情報発信です。
色んな人に興味を持ってもらえれば良いなという意図の記事もあれば、まだAIに関する理解が不足しているのに、とりあえず商談に呼ばれるケースが多発して、まずこの記事読んでから話を始めませんか?という事前知識の共有のためのものもありました。

そして、弊社も2期目に入り、1期目にしっかりと稼いでいたこともあり、お金も溜まってきたので、長期戦覚悟の上、ゆくゆくは大きくなっていくと本に書いてあったマーケティングに手を出そうと決めました。
マーケティング担当を探し始め、早速良さそうな担当が決まりました。

これでこの時間的に辛い営業活動から解放される...と思っていましたが、結論から先に話しておきましょう。

【結論】4期目が始まった今でも営業活動は全くなくなっていません。

むしろ、当時はWebの広告費用などがかかっていなかったのに対して、2〜3人は雇えるであろう金額の広告費ツールの導入がマーケティングです!とそそのかされて導入した CRM & SFA ツールも1〜2人分は雇える費用がかかり、それに加えて、マーケティング専任での担当の人件費もかかっているのが事実です。

もちろん誤解があるといけないのでちゃんと説明しておくと、結果から見ると多くの失敗こそありましたが、これまでのマーケティングの担当がサボっていたかというと全くそうではありません
むしろ、これまで歴任した全員が(方向性こそ間違えていましたが)全力を尽くしてくれていました

誰よりも頑張ってくれていて、全然結果が出ない。

日頃の頑張りを評価してあげたいのに、評価してあげられない辛さがありました。
逆に、評価されたいのに、評価してもらえる根拠を出せない辛さもあったと思います。

じゃあ、いま振り返って何が問題だったのだろうと考えると、冒頭に書いたこの体制が問題でした。

訪問の商談が営業で、Web運用がマーケティング


★ 失敗の法則1 
マーケティング担当に広告や記事作成などを丸投げ

マーケティングの目的は
「マーケティングの目的は営業をしなくても良くなることだ」
と書かれていたため、マーケティング担当を見つけてきた私達は、マーケティング担当に、あなたが入ってくれたので、私達は営業から外れることができるはずです。
そのため、私達は事業内容の成長に専念します。
だから、マーケティングができるあなたがWebの運用やコンテンツマーケティングの記事を作って、ガンガン発信して集客お願いします!と丸投げしました。
私達はそれぐらいマーケティングの威力を過信していましたし、マーケターが入るとはそのぐらいのことだと信じていました。
結果、広告費がかかり、人件費もかかり、そして、集客は全く増えませんでした。
それだけでなく、自分たちでは耐え難いような文章の Web 広告の運用や、コンテンツマーケティング用の記事が弊社の名前で公開されており、発信しないように止めたこともあります。

当時はかなりがっかりしましたし、お金が溜まったと言っても個人に毛が生えたレベルでの資金だったので、表にこそ出さないように気を使っていましたが、みんなで汗水たらして稼いできているお金を意味もないことに投じていることに憤りを覚えていました。
結果、マーケティング担当者は辞め、別の人が見かねて担当することになりました。

いま振り返ると、マーケティングの基本は知っていても、AI領域のことは全然知らない人に丸投げはさすがに無理があったなと感じます。
読者のみなさんもそりゃそうだと思われるかも知れませんが、ベンチャー企業の立ち上げ期は、人手が足りなさすぎて、毎日目が回るほど働いて、正常な判断がいつしかできなくなるものです
そんな環境でいまのように冷静な振り返りをすることができませんでした。


★ 失敗の法則2
マーケティングを始めるには、まずツールを導入しよう!

つぎのマーケティング担当と話していると、もっとデータに基づいた意思決定が必要だと力説していただき、もちろんデータサイエンスを専攻している私にとってはそのとおりだと感じました。
そして、現状では、データに基づいた意思決定をしたいにしても、Google Analytics で各WebページのPV数を計測することがぐらいしかできていないため、多くの判断が難しいとのことでした。

そして、いろいろな CRM および SFA 向けのツールを調査していただき、某 有名な S 社のツールを導入することを決めました。
ツールの費用は月額で約1人分の給料と同じ額であり、それに加えてマーケティング担当者がツールを使いこなすために3ヶ月程度の訓練が必要とのことでした。
SFA の機能も付いていたので、資料ダウンロード後にテレアポしていた顧客の情報をそのツールの中で管理できるようになったり、ラベル付けしたり、得点付けして確度の高さを定量評価できるようになってきました。
SFA を使うと、たしかにこれまで散らばっていた情報が整理されていくと感じながらも違和感がありました。
それは、Web で閲覧している人の情報やテレアポなど細々とした活動のデータは(人力込みで)整理されていきますが、肝心の営業活動は一向に減りませんでした。
挙句の果てには、もっとオフラインのイベントも開催していきましょう!とSFAで管理できない範囲のことに手を出して、結局その顧客情報はどこにも蓄積されていませんでした。

データに基づいた意思決定をするためにツールの導入が必要だという話だったはずが、いつの間にか、そのデータが全然ないので、とにかくやってみるしかない!という根性論に戻っていっていました。

これってAI系の案件でよく聞く話ですよね。

結局、その担当者も辞めていき、その辞める前の月に1年契約を決めたため、今でも使っていないツールに約1人分の給料と同じ額を払い続けています。
軽い感じで書いていますが、小さなベンチャーにとって計り知れない痛みを伴っていますし、その分だけ私にもっとできることはなかったのかと反省とその振り返りが必要です。


結局、マーケティングってなんなんだろう?


そして、そこまで失敗に失敗を重ね、成果の上がらないところにお金を浪費し続けたいま、改めて、マーケティングとは何かを考え直しています。
そして、私の考えついた答えがこちらです。

【結論】マーケティングは営業のクロージングコストを下げる活動

冒頭に書いていた
「マーケティングの目的は営業をしなくても良くなることだ」
と似て非なるものです。

それは、
マーケティングさえあれば営業は必要ないものだ
と考えるのか、
営業はどこまでいっても必要であるが、その工数を下げるものがマーケティングだ
と考えるかです。

そもそもマーケティングという言葉があるからこそ、変にエリート感が出てしまうのがだめだと気づきました。

例えば、採用。
採用は色んな人に認知してもらう活動から、選抜するための活動、そして、内定を出した人に入社してもらうまでの活動、さらにはどの部署に配属されるかを入社後も観測し続ける活動まで幅広く担当していますよね。
これって絶対マーケティングや営業以上の範囲を含んでいると思います。
けれども採用担当者は採用のマーケティング担当採用の営業担当など役割を分けずに全プロセスを自分事として捉えて責任持って取り組んでいます。

そう考えると、会社の商品を認知してもらって、その良さを伝え購入してもらい、さらには購入後に次の購入につなげる活動という風に言い換えた時に、本当にマーケティングと営業って分ける必要があるのでしょうか。
採用担当者はこの前プロセスを自分事でやっているのに、営業やマーケティングはそれぞれの領域に役割が分割できるものなんでしょうか。

答えはです。
少なくとも弊社のような小規模な会社では間違いなく違います。

もうマーケティングという言葉はこのフェーズではなくしましょう

これからはプッシュ型の営業(従来のマーケティング)プル型の営業(従来の営業)と呼びます。
営業という言葉が今風でないとプライドが邪魔をするのであれば、セールスとでも呼んでプライドを保ってください。

まず、プル型の営業ではこれまで通り、お客様から来た問い合わせに対して、精一杯要望に応えられる方法を探したり、共通認識にずれがないかを確認することに努めてもらえれば大丈夫です。
営業の人はいろいろな商談を経て、顧客に共通する興味や悩み一次情報として得ることができます。
また、毎度毎度「弊社では◯◯のような強みをもっておりまして...」と最初の5~15分会社紹介の説明やAIの歴史などを話さないといけません。
しかも、これを話すことによるメリットは小さく、30-60分の商談の中で次の行動のための意思決定を行いたいところが前振りの誰にでもできる話に消耗してしまい、その場でしかできない濃い話をする機会を逃します。
おそらく営業の方はこのような経験があるのではないでしょうか。
私自身も、このような始まりが多く反省しています。

そして、商談での共通項など顧客に事前にこういった情報をインプットしておければ円滑に進むという内容を整理します。
例えば、以下のような目的別に内容を整理すると良いと思います。
このあたりはよくマーケティングオートメーション系の本で書いてあるファネルなどを参考にしても良いと思います。

・なぜわたしたちは選ばれるのか(認知度の向上)
・どのような顧客が興味を持っており、有効活用できるか(スクリーニング)
・どのような雛形で商談前に依頼を整理してきてほしいか(議論促進)

いずれにせよポイントはマーケティングだけを担当している人間がこの情報を整理するのではなく、商談を行っている営業の人がこの作業を行うことです。

そして、これらの考えた内容をもとに、プル型の営業を行っている人自分の言葉で記事を書きます。
最初は書くことが面倒に感じるかも知れませんが、これを発信していくことにより、会社のファンからの要望が増え、不要な商談が減り、相談内容が明確になります。
そして、この恩恵を一番受けるのは商談を担当する営業です。

クロージングにかかるコストが大きく下がり、その結果、さらに多くの情報発信ができ、さらにクロージングコストが下がる正の連鎖に入ります。

そして、いま話した内容はすべて営業担当でできることです。
むしろ、一次情報を知っている営業担当でないとできないことです。
マーケティングという別枠を用意する必要はありません。
営業担当がさらにクロージングコストを下げるために、情報を整理するための方法を考える方が適切ですし、その時に空いてできた時間で CRM 系のツールの使い方を覚えれば良いです。
Web 広告の運用なども依頼できるところがありますが、結局どのような文言で出していくかは社内で考えるのが一番はやく、若い人であればWeb広告運用の方法を覚えることはそう難しいものではありません。
ある程度試行錯誤してみて、Web広告経由で、結果は出ているけれどもさらに最適化したオペレーションに切り替えたいときには、それを専門としている業者にお願いしていく流れがベストです。
ある程度の実績とデータがあれば、あとは業者が専門のツールで最適化していってくれます。
ただし、実績もデータもないものをいくら専門家といえども最適化することはできません。

訪問せずにインターネットの力を借りて自分たちの良さを伝えて、顧客のナーチャリング(養成)を行うプッシュ型の営業

ナーチャリング後から顧客の要望をクリアに読み取り、解決策の提示を行いクロージングしていくプル型の営業

この両者を営業のひとつの役割として担うことが小さなベンチャーにとっては必要な覚悟であり、結局それが遠回りに見えて、一番の近道だと、いくつかの失敗談を経て、強く感じています。

最後に、この記事は大学院を卒業して間もない25歳のわたしが3年と少しの経験を経て書いた記事であり、さらに多くの経験をされている方にとっては、よく考えたら避けられた内容であると重々承知しています。
それでも、私のように藁にもすがる思いでマーケティングに手を出し、それらしいプロセスを経るも、思ったように結果が出ていない人もいるのではないかと足早にまとめました。
ひとりでも多くの起業家が同じ失敗をしないことを願います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?