「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫
「プロット・アゲインスト・アメリカ」フィリップ・ロス 著 集英社文庫
舞台は1940年代アメリカです。ローズベルトの代わりに、空の英雄あのリンドバーグが大統領になるという歴史改変小説。
物語の中では、リンドバーグは親ナチス的な傾向を持つ孤立主義者として描かれています。実際には、リンドバーグは大統領候補にもなれませんでしたが、親ナチスの傾向はあったようです。また、反ユダヤ的な姿勢をとっていました。
物語では、リンドバーグがローズベルトを破り大統領になり、次第に主人公のユダヤ人家族は追い詰められて行きます。
主人公の周りのユダヤ人は、「外面的な、見てすぐわかる形では戒律に従わず、見えない形でも本気で従っているかどうか怪しいもの(p.11)」でしたし、あくまで彼らの意識は「アメリカ人」なのです。しかし、国のトップが親ナチスになれば、国民の中にジワリとその意識が広がって行きます。
家族にも影響が出てきます。父のハーマンはユダヤ人であるが故に、ユダヤの少ない地域へ転勤させられます。母のベスは、小さなユダヤ人社会にしか友達がいないので、途方に暮れます。兄のサンディは、やがて親ナチ的な青年組織の一員になります。いとこのアルビンは、ナチスに対抗するためイギリス軍に参加し負傷して片足を失います。エヴリン叔母さんは、夫婦とも親リンドバーグなためホワイトハウスに招かれ、そこに主賓として参加していたナチスの外相リッペンドロップとダンスまでするのです。
理不尽な目にあったときの人間の対応は、徹底的に抵抗するか、沈黙するか、尻尾を振るかのどれかになるのでしょう。
物語の中のリンドバーグは、ヨーロッパの戦争に加担する気はないという姿勢を貫くことにより、ナチスを勢いづかせてしまいます。ローズベルトは、ナチス許すまじという姿勢で、ヨーロッパの戦争に参戦しようとします。どちらの姿勢が良かったのでしょうか?
このジレンマは、現代の世界情勢にも通じます。
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